表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/184

第69話 沈黙の余韻、湖面に落ちた光

エリオンが講義の最後の言葉を結んだ瞬間――

小講堂の空気が、水底のように静まり返った。


雨音さえ遠くなるほどの沈黙。

誰も、すぐには口を開かなかった。


狭い空間だからこそ、

胸の奥に沈んだ余韻が、そのまま透けて伝わってくる。



リリナは、膝の上でそっと指を組んだ。


“王族である前に、人として在る自分に還る場所”


その言葉が、胸の奥で何度も反響する。

静かに、波紋を広げていく。


レンセリオンは、珍しく言葉を失っていた。

鋭い光を宿す琥珀の瞳が、ゆっくりと伏せられる。


「……見事だった」


その一言に至るまで、数拍の沈黙が必要だった。

それは称賛というより、深い敬意そのもの。


レヴィアンは、膝の上で拳を軽く握りしめていた。


「……湖に、行ってみたくなるな」


ぽつりと漏れた声には、

大地の民らしい誠実な羨望が滲んでいる。


ユリウスは、静かに目を閉じていた。

雷の民にとって、沈黙は“真実と向き合う時”。


やがて目を開くと、

その瞳には水面の揺らぎのような深さが宿っていた。


「……いい講義でした」


その言葉は雷光ではなく、

月光のようにやわらかかった。



そして――


最初に拍手したのは、シリウス副院長だった。


ぱん、と一度だけ響く静かな音。


「――素晴らしい講義でした、エリオンさん」


その一声が、場に満ちていた敬意を形に変える。


やがて四人も拍手を重ね、

小講堂に、やわらかな音の輪が広がっていった。


エリオンは深く一礼する。

その所作は、真摯で、静かで――

アクエリシアの民らしい、透き通る礼だった。


リリナは、そっと息を吸う。


(……エリオン様の言葉、もっと聞きたい)


胸の奥で、静かに願いが生まれていた。



雨音が、小講堂の窓を優しく叩き続けている。


――満ちていた沈黙が、ゆっくりとほどけていく。


シリウス副院長は手を静かに下ろした。

深い蒼の瞳でエリオンを見つめる。


「エリオンさん、見事な講義でした。

水の国の“静寂の理”が、しっかりと皆へ届いたことでしょう」


やわらかな声でそう告げてから、

今度は前列に座る青年へと視線を移した。


「……さて」


空気が、わずかに引き締まる。


「次回の講義ですが――

ルクヴェル王国第一王子、レンセリオン・レオ・ルクヴェルさんに

担当していただきます」


レンセリオンは静かに立ち上がり、胸へ右手を添えた。


「承知しました、副院長。

次回は、我らルクヴェルの“光と秩序”についてお話しします」


その声は、湖面に差す朝日のように澄んでいた。


リリナは、そっと息を呑む。


水の国の静けさが終わり、

次は――光の国の理へ。


小講堂の窓を撫でる雨が、

まるで次の講義を静かに告げているようだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ