第54話 甘い光に、触れた日
ルク=セリアの中心街は、昼の光を受けてきらきらと輝いていた。
ガラス工房が並ぶ通りでは、
風に揺れる祈り玉が小さく音を立てている。
その澄んだ音に重なるように、
香ばしい匂いと甘い香りが、やわらかく漂っていた。
通りの両側には色とりどりの屋台が並び、
金色の布で飾られた屋根の下、
菓子職人たちが忙しそうに手を動かしていた。
「食後ですし……甘いものにしましょうか」
ユリウスがふわりと笑う。
リリナも嬉しそうに頷いた。
「甘い香りがしますね……。どれにしましょう? 本当にたくさんあります」
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――陽だまりパイの屋台
丸いパイが、小さな太陽のように並んでいる。
表面には金粉砂糖がきらりと光り、
焼きたての香りが風に溶けていた。
「僕は……りんごにしましょうか」
ユリウスが楽しげに指差す。
「私は……蜂蜜カスタードが気になります」
ふたりはミニパイを受け取り、
手のひらにふんわりと温もりが広がった。
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――聖光シェイクの屋台
並んだガラス容器の底では、
光を吸い、また返す“光層ゼリー”がゆらゆらと揺れている。
「白ベリーを一つ」
「焼きキャラメルをお願いします」
店主が手際よくミルクを注ぎ、
それぞれのカップを差し出した。
「では……噴水広場のベンチへ行きましょうか」
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噴水広場は、水面に反射する光で一層きらめいていた。
周囲には旅人や家族連れが思い思いに過ごしている。
その中の空いたベンチに、ふたりは腰を下ろした。
ユリウスがミニパイにかぶりつき、
中身を見せるように軽く割る。
「林檎が、そのまま入っています」
「美味しそう……私も……」
リリナも一口かじる。
ほわっと広がる甘さに、思わず目を丸くした。
「これ……すごく美味しい……!」
胸いっぱいに、やさしい幸福感が広がる。
続けて、シェイクに手を伸ばすふたり。
「リリナ姫のほう……ベリーの香りがここまで届きますよ」
ユリウスがやわらかく笑う。
そして――
自然な流れで、そっとシェイクを交換した。
そのまま、ためらいもなく
ユリウスはリリナのストローに口をつける。
リリナの心臓が、小さく跳ねた。
(……でも……)
負けじと、ユリウスの“焼きキャラメル”を飲む。
「おいしい……!」
ふたりの笑顔が、またひとつ重なる。
交換して、戻して。
もう一度、交換して。
ストローを見つめる。
――キスしてるみたい……わたしたち。
こっそりユリウスを見ると、
その視線と、ちょうど重なった。
慌ててストローに口をつけると、
ユリウスも同じタイミングで口をつけ、ふふっと笑った。
⸻
ユリウスは、噴水へと視線を向ける。
「先ほどから……街の人が、あの噴水に背を向けて何か投げていますね。気になります」
「願いごとをコインに託して、噴水に投げるんです」
「へえ……」
ユリウスはシェイクを飲みながら頷いた。
「“背を向けて、上段の縁に届けば願いが叶う”って言われています」
「リリナ姫も、したことが?」
リリナは微笑みながら頷く。
「……失敗しましたけど」
「チャンスは一度だけですか?」
首を横に振ると、
ユリウスはくすっと小さく笑った。
「それは……言っていなかったのですね」
ユリウスはシェイクを置き、
噴水の方へとすっと歩き出した。




