第53話 光の街で、揺れた心*挿絵
翌朝、朝食の時間。
リリナは、どうしても気になっていた。
時折、エリオンへ微笑みを向けるアルメアの姿が、目に入っていた。
隣に座るエリオンを、ちらりと見た。
……けれど当の本人は、まったく気づいていない様子だった。
今朝も、朝食の少し前になると、エリオンが迎えに来てくれた。
昨夜の出来事に触れることもなく、ふたりの間には、いつも通りの穏やかな空気が流れていた。
小さく、ため息がこぼれた。
(……よく分からない)
どうして、こんなに気になってしまうのだろう。
そのとき。
ふと、エリオンがこちらを振り向き、目が合った。
リリナは一瞬だけ視線を揺らし、すぐに微笑んだ。
すると――
エリオンも、やわらかく微笑み返してくれた。
その直後。
鋭い視線を感じて顔を上げると、無表情のアルメアと目が合った。
リリナは思わず視線を伏せた。
……気まずい。
口拭きの布を卓に置いたユリウスが、給仕を呼んでいた。
何かを伝え終え、給仕が下がると――
ユリウスはリリナだけに分かるように、手配は済んだと言いたげに小さく頷いた。
「?」
首を傾げると、今度は入り口の扉を小さく指し示した。
――どうやら、身振りだけで伝えるつもりらしい。
その様子に気づいたアルメアが、艶やかな笑みでエリオンへ話しかけた。
「昨日の話の続きを、またお待ちしていますね」
その言葉が、はっきりと耳に届く。
席を立とうとしたリリナは、ついエリオンの方を見てしまった。
エリオンは――
真っ直ぐ、リリナを見ていた。
胸が熱くなった。
そのまま見つめ返すことができず、
リリナは、そっと視線をそらした。
⸻
ユリウスはレヴィアンにも声をかけたものの、
今日は“もしもの議題”の準備があるらしく、同行はできないとのことだった。
こうして――
リリナとユリウスは、ふたりでルクヴェルの街へ出かけることになった。
ルクヴェルの都――ルク=セリア。
朝の光の中、ふたりは肩を並べ、ゆっくりと歩き出した。
横目で、そっと彼を見た。
淡金色の髪が光を含み、やわらかく揺れている。
白い肌と、中性的な整った輪郭。
風に触れた前髪が、横顔に静かな影を落としていた。
「さっき、食堂で給仕の方に……何を話されていたのですか?」
問いかけると、ユリウスはくすっと笑った。
「昼食の準備はいらない、と伝えておきました」
ふたりで顔を見合わせた。
「屋台を巡るだけで、どれほどお腹が満たされるのでしょうね……?」
ユリウスはお腹の前で両手を丸く描き、大きく膨らませる仕草をしてみせた。
リリナは思わず笑みをこぼした。
「そんな姿で帰れませんよ」
そう言うと、ユリウスは今度はわざと頬をふくらませ、両手の指先を頬に添えてみせた。
「そんなお顔でも帰れませんよ」
こらえきれず笑みを弾ませながら、リリナはユリウスの肩を軽く押した。
ユリウスも楽しそうに笑った。
その笑顔に――
小さなえくぼが浮かんだ。
「あ……ユリウス様の光」
リリナは、かつてマルナがそうしてくれたように、そっと指先で彼のえくぼのあたりを指した。
ユリウスは一瞬、驚いたように目を見開いた。
「私にもあるんです」
そう言って、自分の頬のえくぼを指してみせた。
――けれど、少しだけ場所がずれていた。
ユリウスはその手にそっと重ねるようにして、えくぼの位置へと導いた。
距離が、近い。
まっすぐな瞳と、やさしい気配。
それだけで、リリナの胸がゆるく跳ねた。
「……同じですね」
照れながら笑うと、ユリウスはふわりと、穏やかに微笑み返した。
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『光の街で、ふくらむ笑顔』




