表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/382

第52話 夜、四つの影が交わる時

リリナとユリウスは、静かな夜空を見上げ続けていた。


ふと――

ユリウスの視線が、やさしくリリナをとらえた。


その視線に気づき、リリナが振り向いた。

ふたりの目が合った。


「……?」


きょとんとした表情に、ユリウスがふわりと微笑んだ。


「明日、出かけませんか?

講義の務めも終わりましたし……少し気晴らしを」


不意ふいの誘いに、胸が小さく跳ねた。


「……はい。ぜひ」


ユリウスはどこか楽しげに続ける。


「屋台で売られている食べ物が好きなんです。

他国へおもむくと、こっそり屋台を巡ってしまうんですよ」


思わず、リリナの頬がゆるんだ。


「私は……食べたことがありません。

屋台を巡ってみたいです」


「では、約束ですね」


ユリウスが、そっと小指を差し出す。


リリナがためらいながら小指を重ねると、

そのままそっとからめられた。


夜風の中で、静かに温度が混じり合う。



部屋へ戻ろうと、ふたり並んで歩いていたとき。


――かちゃ。


廊下ろうかの右手、一室の扉が静かに開いた。


現れたのはエリオン。

その後ろから、アルメアが姿を見せる。


リリナの足が止まった。


ユリウスも歩みをゆるめ、そっとささやいた。


「……これは、見てはいけなかったものかもしれませんね」


「み、見てはいけないって……どういう……」


「この時間に、男女が同じ部屋から出てきたのですから」


「ユリウス様……!」


リリナはあわてて、ユリウスの袖を引いた。


ユリウスはくすりと笑い、

その手を軽く握り返した――その瞬間。


ふたりの気配けはいに気づいたエリオンが顔を上げた。

アルメアも続き、四人の視線が交差こうさした。


リリナは息をみ、

エリオンは驚いたように目をまばたいた。


――その中で。


アルメアだけが、ふっと微笑んだ。


「あら。手をつないで……仲睦なかむつまじいこと。けてしまいますわ」


リリナははっとして手を離した。


ユリウスは、その余韻よいんを追うように一瞬視線を落とし、

やわらかく言った。


「僕たちは、星を見ていただけですよ」


「星を……?」


アルメアはふたりを見比べる。


そして――


「……お似合いですわ」


ユリウスの口元が、わずかに緩んだ。


「否定はしません」


「ユリウス様……!」


リリナの声は、小さく震えていた。


「では、僕たちは失礼しますね。

アルメア姫、おやすみなさい」


すれ違いざま、ユリウスはふと立ち止まる。


そして、ほんの少しだけリリナの方へ身をかたむけた。


リリナは、先ほどのアルメアの言葉が胸に残っていて、

思わず小さく問いかけてしまう。


「……あの……誤解ごかいされませんか?」


ユリウスの瞳が、やわらかく揺れた。


「誤解……誰がするんです?」


囁くような声音こわね


落ち着いているのに、

どこか冗談めいていて――

けれど確かに、リリナだけに向けられた温度がある。


「僕たちは、ただ星を見ただけです。

けれど偶然は、ときどき“必然ひつぜんの形”をして現れるものですよ」


リリナは、一瞬息を止めた。


(それって……運命、って……?)


問い返す間もなく――


ユリウスの足音は、静かに角の向こうへ消えていった。


夜には、まだ少しだけ、

星のぬくもりが残っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ