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第49話 崩れた微笑の、そのあとで

放心ほうしんしたように座り込むアルメアの姿が、リリナには気になって仕方がなかった。


「アルメア様、次の講義……楽しみにしておりま――」


言い終える前に。


アルメアは片手で口元を覆い、椅子をきしませて立ち上がった。

そのまま、小さな講義室を飛び出していった。


「アルメア様……?」


驚いたリリナは扉まで駆け寄った。


だが、すでに廊下の先――ひかえの間へと、その姿は消えていた。


(……き気……?)


今朝、あれほど完璧に整っていたのに。


季節の変わり目は体調を崩しやすい。

けれど――それだけとは、とても思えなかった。


追うべきか、迷った。


けれど、アルメアの誇り高さを思い出し、

リリナは一歩を踏み出せず、その場に立ち止まった。


――そのとき。


すぐ後ろに、ふっと影が差した。


リリナが振り返ると、すぐ目の前に、並んで立つ二人の胸元があった。


見上げると、

レンセリオンとエリオンが、同じ方向を見つめていた。


医務官いむかんを呼ぶべきだろうか……」


レンセリオンが低くつぶやく。


その声には、王子としての責務せきむ慎重しんちょうさがにじんでいた。


「……体調よりも、心への影響が大きい気がします」


エリオンが静かに続ける。


「同じ食事をいただいた僕たちは、特に変わりありませんし……」


そう言いながら、エリオンはふとリリナへ視線を落とした。


一瞬だけ、心配が滲んだ。


リリナは小さく首を振った。


「私も、元気です」


その確かな声に、

エリオンは安心したように、やわらかく微笑み返した。


そのやり取りを見ていたレンセリオンは、

ほんのわずかに視線を外した。


「……念のためだ。来賓館らいひんかんの方へ医務官を寄越よこしておく」


努めて冷静な口調。


だがその目は、しっかりとリリナの体調を気にかけていた。


リリナは、ふわりと微笑んだ。


「ありがとうございます、レンセリオン様」


その微笑みに、

彼はふっと力の抜けたような、やさしい眼差まなざしで応じた。


エリオンはその様子を静かに見つめていた。


やがて、おだやかな声で言った。


「リリナ姫様、来賓館に戻りましょう。

あまり廊下にいると冷えます」


「え? あ……はい!」


あわてて返事をするリリナに、

エリオンはほっとしたように微笑んだ。


そのとき――


レンセリオンが、ふたりを呼び止めた。


「……アルメア姫も、連れて行ってくれ」


エリオンとレンセリオンの視線が、静かに交錯こうさくした。


エリオンはすぐにうなずき、やわらかく微笑んだ。


「もちろんです。

彼女が出てくるまで、ここで待ちます」


リリナの意識は、まだひかえの間へ消えたアルメアに向いていた。


(……アルメア様。どうされたのだろう)


胸の奥に、小さな痛みが残った。

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