表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/90

第48話 問いの裏に揺れる風

講義が終わり、質疑応答の空気が流れる。


沈黙が落ちた、その瞬間——

隣でアルメアが、すっと手を挙げた。


いつも美しく整えられた表情のまま。

その動作は、あくまで堂々としている。


「ユリウス殿下に、お伺いしたいことがございます」


ユリウスは穏やかに頷いた。


「どうぞ」


アルメアは一拍置く。


あくまで——

“王族として当然の関心”を装うように。


「セレリオスでは、

星や月を読む者が国を導くと伺いました」


講堂の空気が、ぴんと張る。


「王族は……

どのようにして、その“夜”と向き合うのでしょう?」


さらに、言葉を重ねた。


「星を読み、月を知ることは……

王の資質と関わるのですか?」


前列に座っていたレンセリオン、エリオン、レヴィアンが、揃ってアルメアを振り返る。


リリナも、思わず目を見開いた。


(……え?)


その問いは——

あまりにも深く、踏み込みすぎていた。


ユリウスの瞳が、わずかに揺れる。


そして、片側の口角をほんのわずかに上げた。


「夜空を読むことが、王をつくるのではありません」


アルメアの完璧な表情が、ほんのわずかに引きつる。


ユリウスは静かに続けた。


「夜を恐れず、

民の前に立てる心を持つ者が——

その国を導くのです」


その瞳は、まっすぐにアルメアを捉えていた。


ふたりの視線が、静かに交わる。


アルメアは一瞬、息をのみ——

すぐに、完璧な微笑を取り戻した。


その笑みは、相変わらず美しい。

だが、先ほどよりも——ほんの少しだけ、硬い。


ユリウスの言葉が落ちた瞬間、

張り詰めていた空気が、微かに震えた。


そして——

講堂は、息を呑んだように静まり返る。


そのとき。


「……はい。本日の質疑はここまでとしましょう」


穏やかな声が、その緊張を断ち切った。


シリウスだった。


いつもの涼やかな笑み。

だが、その眼差しにはわずかな鋭さが宿っている。


「王族の在り方は、それぞれにあります。

それを学ぶために、この学舎はあるのですから——」


一拍、柔らかく言葉を置く。


「焦らず、一つひとつ知っていきましょう」


“誰も責めず”

“誰の顔も潰さず”


それでいて、確かに場を制する声だった。


アルメアは一度だけ瞬きし、

落ち着いた仕草で喉元に手を添える。


——ほんのわずかな乱れを、隠すように。


ユリウスは軽く会釈し、

レンセリオンはそっと息を吐いた。


リリナの胸の奥にあった緊張も、ふっと解けていく。


シリウスは学生たちを見渡し、柔らかく告げた。


「では、次回の講義についてですが——」


その視線が、ユリウスへ向けられる。


「決めましたか?」


ユリウスは短く頷いた。


シリウスへ、そして——

再びアルメアへと視線を流す。


「次は……スィルファリオン王国の講義をお願いしようと思います」


リリナは、思わずアルメアを見た。


その瞬間——


整えられていたはずの微笑が、ぴたりと止まる。


リリナは気づいた。


アルメアの指先が——

ほんのわずかに、震えていることに。


(アルメア様……?)


シリウスが軽く手を叩いた。


「では、解散です。次の講義は三日後です」


張り詰めていた空気がほどけ、

学生たちがざわりと動き始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ