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第47話 双影の星と、裂ける真実

「また、我が国には古い伝承が残っています」


ユリウスは、特別な表情を見せないまま語った。


「“月が二つ同時に昇る夜、真実が裂ける”

――というものです」


小講堂が、ざわりと揺れる。


「月は一つで完全だとされています。

二つに見える時は、“世界の輪郭が揺らぐ時”。

その昔、それを“月蝕の兆し”と呼びました」


語り口は淡々としている。

それでも、その言葉は胸の奥を静かに震わせた。


まるで——

誰かの物語を、遠くからそっと思い出すような声。


「そして同じように、“二つ”を象徴するものが、空にはもう一つあります」


ほんのわずかに、声の調子がやわらぐ。


「この季節、北の空に一対の星が昇ります。

“双影のそうえいのほし”と呼ばれる星です」


リリナは、そっと顔を上げた。


「二つ寄り添うように輝く星で、

夜が深まっても、決して離れない星です」


一拍、静かな間。


ユリウスは、かすかに微笑んだ。


「昔、占術師からこんな話を聞きました」


——どちらかが沈めば、もう片方も沈む。

——どちらかが昇れば、もう片方も昇る。


「ふたりでひとつの光。

“離れれば真実は揺らぐ”——

そう伝えた物語があるそうです」


小講堂に、静かな余韻が広がる。


誰も気づかなかった。


ユリウスの瞳が、一瞬だけ夜の色を宿したことに。

その星の話に、ほんのわずかな痛みが滲んだことに。


「我が国には、星や月の動きを読む占術師、

そして“夢と月相”を記録する月読師が存在します」


夜市には占術師の露店が並び、

旅人たちは月相の札を買い求める。


星の運行は季節を知らせ、

月の満ち欠けは祈りの日を定める。


夜そのものが、文化であり、生活であり——

そして、信仰でもあります。


「星と月は、真実を映す鏡です。

嘘も、迷いも、願いも……

空は静かに、すべてを見ています」


そう言って、ユリウスは講義を締めくくった。


リリナはふと、胸元の印に手を当てる。


胸の奥で、何かがかすかに震えた。


夜の国が語る、“沈黙の真実”。


その奥底に、まだ誰も知らない物語が眠っていることを——


このときのリリナは、まだ何も知らなかった。

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