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第38話 光の国が語るもの

今日は、一つ空いた席にシリウスが座っていた。

リリナは息を整え、ゆっくりと一礼する。


「では……講義を始めます。よろしくお願いします。質問等ございましたら、遠慮なさらず聞いてください。」


前列のユリウスがにこっと笑った。

その笑顔に、少しだけ緊張がほどける。


「今朝、描いたものです。」


黒板の大樹。アウル。そよぐ光。

見た人の表情はそれぞれで、なんだか少し恥ずかしい。

けれど胸の奥に、ふわりと温かい気持ちが広がった。


深呼吸して、やさしく微笑む。


「シリウス様の講義で、セレフィアの思想に触れていただいたと思います。

私の国では――生命の循環と、創世の息。

その思想をもとに、お話ししますね。」


黒板の大樹を指す。


「この大樹は、“息吹の母”と呼ばれています。

根には、黎光の民が刻んだ“命への最初の約束”が記されています。」


静かに、言葉を紡ぐ。


「――生きとし生けるものに敬意を示せ。

 世界は沈黙のうちに、必ず応える。」


小講堂は静かだった。

けれどその静けさは、どこか温かい。

“聞いてくれている”空気が満ちていた。


「私たちは、この大樹へ祈りを捧げます。

“息の還り”という光の祈り文です。」


リリナは黒板の大樹に向かって瞳を閉じる。


「大地に帰りし命よ、光の母はあなたを抱く。

花は散りても、種は息づく。

息は絶えず、輪は続く。


どうか恐れずに眠りなさい。

あなたの光は、また誰かの胸で目を覚ます。

光は終わらず、あなたの名を風が呼ぶ。」


祈り終えると、少し照れくさそうに笑った。


視線の先で、レンセリオンがふわりと微笑んでいる。

胸が熱くなる。――けれど、講義を続ける。


「この祈りは、死を“終わり”ではなく“形の変化”と見つめるものです。

セレフィアの信条――

命は奪われず、姿を変えて還る。

その思想が、そのまま詩になっています。」


シリウスが小さく頷いた。


「私にも印があります。

先代の王妃から、私へと巡ってきました。」


左胸に手を添える。


「光と命の循環を司る神鳥、黎光鳥アウル・ルミナリエは、

いつもここで羽を休めています。」


黒板の大樹の頂を指す。


「大樹に宿る存在なのでしょうか……。

よく分かりませんが、きっとお気に入りの場所なんだと思います。」


くすくすと笑い声が漏れ、リリナもつられて笑った。


「セレフィアの民にとって、アウルは祈りと日常の象徴。

“命の輪廻”そのものです。」


少しだけ、声をやわらかく落とす。


「死期が近づくと、アウルが夢に現れると言われています。

“光が羽ばたく夢”――

それは、次の命へ向かう合図のようなものです。」


小講堂の空気が、少しだけやわらいだ。


「セレフィアでは、『死』は終わりではなく、循環の一部です。

命も魂も消えるのではなく、

次の形として世界に還ると考えられています。」


そして――

一度、静かに息を吸う。


「“命”とは、上下の関係ではなく、呼応です。

木に手を当てれば葉が揺れ、水に感謝すれば光が差す。

それは奇跡ではなく――“世界との対話”。」


やさしく、微笑む。


「だから……」


ほんの少し、間を置いて。


「光は遠くにあるものじゃない。

呼吸と一緒に、今ここに息づいているものです。」


小講堂の空気が、

やわらかな光を含んだように静かに満ちていた。

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