第35話(後編) 魂の理と、“器”が選ぶもの
「セレフィアでは、この“器”について、どんな教えを受けてきましたか?」
突然のシリウスの問い。
前からも、横からも、後ろからも。
視線が一斉に自分へ向いた気がした。
胸がきゅっと縮まり、
思考が一瞬、白く途切れた。
リリナはゆっくり立ち上がり、
印のある左胸に手をそっと添える。
幼い頃――
黎光の書庫で、教育係のエルダン老人に教わったことを思い出す。
「……奪うよりも、与えること。
争うよりも、照らすこと。
それが、この国に流れる“光の理”であり……
セレフィアの血を継ぐ者たちが守ってきた祈りだと……。」
声は震えていたが、言葉は真っ直ぐに出た。
「“器”は……希望を生むために在る、と教わりました。」
言い終えた瞬間、
胸の奥に、ふわりと小さな自信が灯る。
シリウスは静かに頷いた。
「ありがとうございます。」
促されて席に着くと、
その時――また、レンセリオンの視線とぶつかった。
真っ直ぐな眼差し。
何かを認めるような、見守るような光。
ふたりの視線は、
しばらく、離れなかった。
だが、シリウスの声が再び空気を整える。
「魂と器の関係性……それはこうです。
魂は、人の想い。
器は、その想いをどこへ向けるかを決めるもの。
魂は力を持ちます。
しかし“器”は、その力を 何のために使うのか を選ぶ。」
リリナの胸に、エリオンの言葉が蘇る。
――《リリナ姫様が“黎光の器”なら、
僕はその光を包み、癒す“慈愛の魂”です》
エリオンは静かに、左胸に手を置いた。
「僕は……リリナ姫様と深く繋がっています。」
その言葉の意味が、
いま、ようやく腑に落ちた。
シリウスは続ける。
「器が“希望”を選べば、七魂たちはその光に導かれる。
光は、互いを映し合うものです。」
小講堂に、深い静寂が落ちた。
やがて、シリウスが黒板を閉じる。
「では、私の講義はここまでとしましょう。
次は三日後に。準備もあるでしょうし……。
――講師をやってみたい方は、名乗り出てください。」
ざわめきが止み、
空気が、ぴんと張り詰めた。
シリウスと目が合う。
「……リリナさん。あなたから、やってみますか?」
にこやかに言われ、リリナは固まった。
「わ、私からですか?!」
思わず声が裏返る。
レンセリオンが、僅かに口元で笑った気がした。
逃げられない。
でも、逃げたくない。
リリナは息を吸い――
「……分かりました。
やってみます。……頑張ってみますっ。」
小さく笑い、
光を宿した瞳で――そう答えた。




