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第24話 静雷の到着 ― 沈黙を裂く新たな気配

三日ほどが過ぎた頃――

最後の参加者、セレリオス王国の王子がようやく到着した。


「合流が遅くなりました。

ユリウス・ノア・セレリオスと申します。」


淡金の髪は光を柔らかく拾い、動くたびに髪先が雷光を掬うように揺れた。

その静かな佇まいの奥に、月と雷の国らしい“深い静寂”が宿っている。


順番に挨拶が進み、リリナの番になった。


ユリウスの深い蒼の瞳が、まっすぐに向けられる。


「リリナ・エル・セレフィアです。

よ、よろしくお願いします」


少し緊張した声になってしまう。

しかしユリウスはふっと微笑んだ。


右の頬にだけ、小さなえくぼが浮かぶ。

それだけで空気がふわりと和らぎ、リリナの心も自然とほころんだ。



食事が運ばれる。


ナイフとフォークを持ち直すユリウスの手元に、

リリナはふと視線を奪われた。


(……刻印?)


右手首に、袖口から時折のぞく紋のようなもの。

国の象徴にも見えるが、リリナの“印”とは明らかに違う。


凝視するのも失礼と思い、慌てて視線を外した――その時。


「……何の匂いですか?」


ユリウスが小さな違和感を拾ったように声を上げた。


三人は一斉に固まる。

思わず視線が、ひとりの少女へと向けられた。


「セリヴァのことかしら?」


アルメアが堂々と小瓶を掲げる。


ユリウスの視線が、その小瓶へと落ちた。


「スィルファリオンの香草ですの」


自信たっぷりに答えるアルメア。

しかしユリウスは眉をほんの少しひそめた。


「……僕の料理に匂いが移っています」


(……やっぱり!)


アルメア以外の全員が心の中で頷いた。


「そんなはずありませんわ」


凛と否定するアルメア。

だが、エリオンが優しい調子で口を開く。


「香草が苦手な方もいますからね。

 そういう方は……匂いに敏感なんです」


一瞬だけ沈黙が落ちる。


アルメアはしぶしぶ小瓶を巾着袋にしまった。


「お気遣い、ありがとうございます」


ユリウスは静かに礼を述べ、再び食事に向き直る。


その横顔を、リリナはつい見つめていた。


柔らかい雰囲気なのに――

言うべきことは柔らかくもはっきり口にする。


奇妙な静けさと、確かな芯があった。


(……少し、気になる……)


リリナの胸に、初めての印象が静かに灯った。



食事を終え、いつものように

エリオンがリリナの部屋の前まで送ってくれていた。


「ユリウス様の発言……少しヒヤリとしました」


ぽつりと漏れた言葉に、

エリオンがふっと笑みをこぼした。


「ええ。ですが、彼のおかげで、

僕たちの料理にも味が戻りそうです」


その穏やかさに、リリナは思わず笑みをこぼした。


扉の前で立ち止まり、エリオンへ振り返る。

視線が重なった瞬間、

エリオンはいつもの柔らかな笑みを浮かべた。


「ユリウス様が到着したということは……

いよいよ講義が始まるのでしょうか?」


頷くエリオン。


「今日のうちには知らせが届きそうですね。

開講式の準備は進んでいますか?」


“初日は自己紹介がありますので”

その一文が頭に浮かび、リリナはハッとした。


「……まだです。今から準備します!」


慌てるリリナを見て、

エリオンはクスクスと笑った。


「ええ。まだ朝ですから。

今日一日は、たっぷり使えますよ」


(……言われてみれば、そうだった)


胸が少し軽くなる。


そして自然と、リリナの口から出ていた。


「……エリオン様は、今日は何をして過ごされるのですか?」


聞いた瞬間、自分で“詮索してしまった”と気づいて頬が熱くなる。

だがエリオンは優しく目元をゆるめた。


「もしお困りでしたら……

隣でお話し相手になりましょうか?」


その申し出に、胸が大きく跳ねた。


「へ、部屋に入りますか?」


気持ちが昂ったまま、

リリナはほとんど反射で扉を開けていた。


エリオンが少し驚いたように瞬く。

だがすぐに穏やかに微笑んだ。


「……では、お邪魔します」


エリオンが一歩、部屋に入る。


リリナは照れ笑いをこぼしながら、

そっと扉を閉めた。


――柔らかな午前の光の中、

ふたりの距離が、静かに近づいていく。

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