第21話 光が落ちた、その瞬間 ― 聖光竜の導き
塀の向こう――
視界が一気に開けた。
白、金、蒼、灰銀の鎧がそれぞれ違う呼吸で光を返し、
練兵場は“揺れる光の海”のようだった。
街で出会った第一騎士団オルディナの姿はすぐに分かった。
白銀に金縁の礼装鎧。
その一団がいる場所が、第一騎士団の練兵エリアなのだろう。
レヴィアンの話では、レンセリオンは第四騎士団所属だ。
(このどこかにいらっしゃるはず……)
足元から声がかかる。
「見えますか?」
エリオンだった。
「はい……でも人が多くて。レンセリオン様がどこに……」
言いながら視線を巡らせたその瞬間――
“光の中心”がふっと浮かび上がった。
純白の鎧。
白は他にもあるのに、なぜかその一人だけが輝いて見えた。
じっと見つめていると、彼が振り返る。
ひらりと揺れたマントの向こうの横顔――レンセリオン。
「見つけました!」
声が弾む。
その時だった。
塔の頂で休んでいた聖光竜ルクシオンが、
ふいに首をもたげ、空気の流れを捕らえるように翼を広げた。
次の瞬間――
ゆっくりと、しかし迷いなく空へ駆け出した。
その動きに、リリナの視線が吸い寄せられる。
「ルクシオンが……こちらへ……?」
空を泳ぐように滑らかで、真っ直ぐだった。
ただの飛行ではない。
まるで“何かを見つけて向かってくる”軌道。
迫力に思わずのけ反りそうになる。
バランスを崩したリリナに、
「どうされましたか?」
とエリオンの声。
「ルクシオンが……今、進路を……」
言葉より先に、ふわりと風が吹き抜けた。
髪が舞い、スカートが揺れたが――
衝撃は一切なかった。
それは“迎え入れる風”。
そっと目を開けると、
ルクシオンは目前で大きく上昇していた。
まるで――
リリナを中心に“ここだ”と示すように。
その聖光の姿を見上げた刹那――
同じくルクシオンを追っていたレンセリオンの視線が、
竜の軌跡に導かれるように地上へ落ちる。
そして――リリナと目が合った。
琥珀の瞳が、驚きに揺れる。
奥で、金の閃光がかすかに瞬いた。
その震えが胸の奥まで伝わる。
リリナの心臓が跳ねた。
頬が熱くなって、気づけば――
「……っ!」
思わず片手を上げていた。
反射的に、レンセリオンへ手を振ろうとしたのだ。
だが、竜の風で足場はまだ揺れている。
片手を離した瞬間――重心が傾いた。
あ、落ちる――!
「きゃ――っ!」
視界が傾き、足場が遠ざかった。
胸の奥が冷え、体がふっと浮く。
その一瞬――
強い腕が、ふわりとすくい上げた。
腰はしっかり支えられ、
背にはやわらかくも力強い手。
落下の衝撃を吸収するように、抱き寄せられていた。
「だ、大丈夫……ですか?」
優しくて、少し焦った声。
エリオンの眉がきゅっと寄っている。
その表情が優しくて――顔が一瞬で熱くなる。
「……あ、あの……っ」
もごもごと声が漏れるだけで、まともに言葉が出ない。
リリナは真っ赤になって頷く。
そっと降ろされ、向かい合うと――
エリオンの大きな手が、
やわらかくリリナの頭を撫でた。
心臓が跳ね、思考が真っ白になる。
そこへ、
「なぜ手を離したのです!? 命知らずにも程がありますよ!」
とアルメアが駆け寄る。
レヴィアンも「無事でよかった」と慌てて続く。
その時――影が落ちた。
四人が見上げると、レンセリオンが塀の上で片膝をついていた。
肩で息をしながら、こちらを見下ろしている。
「……これは、どういう状況ですか?」
理解が追いついていない気配。
四人とも絶句した。
レンセリオンは迷いなく塀から飛び降りる。
石畳がわずかに震え、
そのままリリナへまっすぐ歩み寄った。
「あなたの姿が急に消えたので……焦りました。
お怪我はありませんか?」
驚くほど優しい声音。
近くで見ると、吐息すら感じて――
リリナの胸が震える。
「わ、私は大丈夫です。驚かせてしまって……」
そう言って頭を下げるリリナに、
レンセリオンは一瞬だけ息を吸い、胸の張りつめを抑えるように言った。
「……無事でよかった」
その短い一言に、安堵がにじんでいた。
だがすぐに、
その視線がエリオンへ静かに移る。
「説明を」
わずかに低い声。
エリオンは動じず、いつもの落ち着いた眼差しで答える。
「騎士団本部を拝見したく、案内していました」
レンセリオンは短く息を止めるような沈黙ののち、
片眉をわずかに上げた。
空気が、きゅっと張り詰めた。
その時――
「殿下!!」
第四騎士団の仲間が駆け寄ってくる。
レンセリオンは振り返らずに応じた。
「ああ、大丈夫だ」
レヴィアンが一歩前へ。
「私が、皆を誘いました。責任は私にあります」
レンセリオンは軽く頷いた。
そして――
ゆっくりとエリオンへ向き直る。
静かに、しかし確かな熱を帯びた声で。
「……では。稽古の相手になっていただきましょう。
あなたの腕、確かめたくなりました」
春風が二人の間を抜けていく。
火花のような緊張と、言葉にならない感情が交差した。




