第20話 騎士団の門前 ― 塀の向こうの光
騎士団本部へと向かう4人の姿は、
春の光の中でどこかぎこちなくも微笑ましい。
先頭を歩くアルメアは、白銀の刺繍が施された日傘を掲げ、
腕には淡い灰色のアームカバーを装着していた。
肌を焼きたくないという強い意志が、全身から伝わってくる完全防備。
後ろを歩くリリナは、思わずその姿に目を奪われながら小声で呟く。
「今朝、レンセリオン様にお会いした時……
“スケジュールに空白はない”っておっしゃってましたよね?
そんな中、押しかけて……怒られませんか?」
その不安に、横を歩くエリオンが静かに答えた。
「片眉を釣り上げられるかもしれませんね……。
そもそも、ここで彼に会える保証もありませんが。」
そこでエリオンの視線がふと上空へ向いた。
つられてリリナも視線を上げる。
遠く――
騎士団本部の奥にそびえる塔の頂で、
聖光竜ルクシオンが春光を浴びて休んでいるのが見えた。
「……あの塔は何ですか?」
「僕も詳しくは知りませんが……
彼が本部に滞在している可能性は高いですね。」
「そうなんですね……」
リリナが小さく頷くと、4人は自然と足を早めた。
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◆ 騎士団本部・外観
やがて目の前に、
白石と金の装飾で築かれた巨大な建造物が現れる。
高く伸びるアーチ門。
外壁に刻まれた光の紋章。
空に向かってそびえる塔のライン。
ルクヴェルの誇る軍事機関の威厳が、
ただそこに立っているだけで伝わってくる。
「……ここが、騎士団本部……」
レヴィアンは息を呑んだ。
風に乗って、塀の内側にある訓練場から、
剣が交差する鋭い金属音が響いてきた。
しかし正門は固く閉ざされ、中の様子はまったく見えない。
アルメアが嘆息して振り返った。
「さて……ここから、良い策がありますの?」
敷地は広いが、周囲を囲む高い塀が視界を遮っている。
「正面突破しましょう」
レヴィアンが潔く言い、扉へ向かう。
だがエリオンがすぐに制した。
「……レンセリオン殿のお立場を考えると、得策ではありません。」
どうやら本当に、彼の邪魔をしたくないらしい。
エリオンは静かに耳を澄ませ、塀沿いに歩き始めた。
3人も後に続く。
やがて、金属音がはっきりと聞こえる場所にたどり着いた。
「……この奥が、騎士たちの訓練場でしょう。
リリナ姫様、少し覗いてみてください。」
「えっ……わ、私ですか?」
エリオンが迷いなく頷く。
「もしレンセリオン殿が中におられるなら……
あなたの姿にはすぐ気づくはずです。」
その言葉にレヴィアンもうなずき、
二人は同時に腕を組んでしゃがみ込んだ。
「この腕に乗ってください」
エリオンの言葉に、リリナは動揺する。
「わ、私……重いですよ……?」
レヴィアンが明るく笑った。
「大丈夫ですよ。私は力持ちです。
そしてエリオン殿も鍛えておられる。腕を掴んだだけで分かります。」
(……それはそれで恥ずかしい……)
恐る恐る二人の腕に足を乗せたリリナに、
エリオンが短く告げる。
「立ち上がります。塀を掴んで、ゆっくり呼吸を。」
「もしバランスを崩しても、下で受け止めますから。」
レヴィアンが安心させるように微笑む。
「……まぁ。大胆な方法ですわね。」
アルメアは涼しい顔で日傘を持ち直した。
状況に追いつくのに精一杯で、リリナは何度も頷いた。
そして──
ふわり、と身体が浮いた。
「きゃっ……!」
思わず小さな悲鳴が漏れたが、
リリナの手はしっかりと塀の縁を掴む。
その瞬間――
柔らかい風がリリナの髪をふわりと揺らした。
春の光が塀の向こうから差し込み、
視界がすうっと開けていく。
(……風が、違う……)
リリナの心臓が大きく脈打つ。
塀の向こうには──
剣の音と、声と、規律と、
光に鍛え上げられた“秩序の気配”が満ちていた。
これまで知らなかった“光の騎士団”の世界が広がっていた。




