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第19話 香りで語る姫 ― 微笑みの奥の風

スープを口に運ぶアルメアの姿は、

まるで“誰かに見せるための舞台”のようだった。


スプーンの持ち方、手首の角度、口元を拭う仕草。

そのすべてが、優雅さと自信をまとっていて――

リリナは、つい見入ってしまう。


(……綺麗。なんだか、完璧すぎる……)


気がつけば、リリナのスプーンが止まっていた。


「スープがこぼれ落ちそうです。」


隣のエリオンが小声で囁く。

ハッとして手元を見ると、本当にスプーンが揺れていた。


「……っ!」


慌ててナプキンで手元を整え、

こぼれていないか周囲を確認する。


小さく深呼吸すると、

隣からエリオンがくすりと笑った。


(……恥ずかしい……)


その時だった。


アルメアが巾着袋から、小さなガラス瓶を取り出した。

またリリナの視線が吸い寄せられる。


アルメアは瓶を指で“トン、トン”と軽く叩き、

中身をスープへ振りかけていく。


(え……? 入れてる……?)


ルクヴェルの食事に“自分の味”を足すなど、

他国の王女では普通しない。

そんな常識まで、彼女は軽々と越えてくる。


リリナが思わず見つめると――

アルメアがにこりと微笑み、瓶を掲げた。


「スィルファリオンの微香草〈セリヴァ〉を乾燥させたものですの。」


聞いてもいないのに、さらりと説明が始まる。


瓶の中には、淡い緑の香草がぎっしり詰まっていた。

どうやら相当なお気に入りらしい。


「そうなんですね……香りが、ここまで届きます。」


リリナが困り笑いを浮かべると、

アルメアは誇らしげに頷いた。


「“言葉より香りで語る”――それがスィルファリオンの価値観ですわ。」


(……強い……この人……)


なんとか笑顔で「素敵です」と返したものの――


アルメアはその後、

出てくる料理すべてにセリヴァをふりかけ続けた。


パンにも、肉にも、野菜にも。


やがて食堂全体が、

スィルファリオンの香草の匂いに満ちていく。


香草をかけていないリリナの料理でさえ、

どこか“その香りの味”がした。


(……全部、スィルファリオンの味になってしまう……)


まるで、香りで席を支配する姫のようだった。


食後の紅茶が運ばれてくる頃。


窓際に座っていたエリオンが、

静かに窓を開けた。


柔らかい春風がふわりと入り込む。

その流れに乗って――

部屋を満たしていたセリヴァの香りが、すっと逃げていく。


リリナとエリオンは同時に目を合わせて、

思わず小さく笑い合った。


(……春の風って、こんなに優しかったっけ)


その空気の動きを感じたのか、

アルメアは瞳を閉じて大きく息を吸い込む。

胸いっぱいに風を取り込み、

“まるで自分のために吹いた風ですわ”と言いたげな仕草。


そして、ゆっくりと口を開く。


「まだセレリオスの王子が合流されていないようですし、

その間は自由時間だそうですわ。

皆さま、ルクヴェルの観光はもう済まされましたか?」


一人ずつ視線を向け、完璧な笑みを浮かべるアルメア。


すると、レヴィアンが礼儀正しく口を開いた。


「私は到着したばかりで……。

実は、騎士団本部に興味があります。

レンセリオン殿が第四騎士団を率いておられると伺い、

ぜひ拝見したく思っております。」


(……軍事の話題なんだ)

と、思わず聞き入るリリナ。


そこへ、エリオンが穏やかに続ける。


「テルメナは近ごろ、軍備に力を入れていると耳にしました。

鉱山と優れた鍛冶技術を持つ国が自ら武具を整えるのは、

非常に理にかなっています。強き国となるでしょう。」


レヴィアンは誇らしげに微笑んだ。


「まだまだ発展途上ではありますが……

この先進国ルクヴェルで多くを学びたいと思っております。」


アルメアは理解しているのかしていないのか、

優雅に、しかし内容と噛み合わないほどゆっくり頷く。


リリナは政治の話が難しくて、

自然とエリオンの横顔へ視線が吸い寄せられた。


そんな時――

アルメアがぱっと話題を切り替えた。


「では、皆さまで参りましょう。騎士団本部へ。」


(……えっ、観光地みたいなノリで行けるところなのかな?)


そう思った瞬間、

エリオンが小さく笑い、柔らかく指摘する。


「騎士団本部は行政施設ですので……観光向けではないかと。

ですが――もしレンセリオン殿とお会いできれば、

内部へご案内いただけるかもしれません。」


「でしたら、探しに行きましょう。」


アルメアは迷いなく立ち上がる。

レヴィアンもそれに続く。


リリナはエリオンを見る。

エリオンも微笑んで席を立った。


こうして――

4人は騎士団本部へ足を運ぶことになる。

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