第16話 光の騎士と、影の気配
噴水広場の時計を見上げたエリオンが、そっとリリナへ視線を向けた。
「そろそろ昼食の時間のようです。宿舎に戻りましょうか」
「もう、こんな時間……。なんだか、あっという間に時間が過ぎていく感じがします」
同じ気持ちを確かめ合うように、二人は目を合わせた。
ふっと笑みがこぼれ、自然と歩き出す。
◇
宿舎へ向かう石畳の道を進んでいると、
前方から白銀に金縁の礼装鎧をまとった一団がゆっくりと近づいてきた。
騎士たちの足取りは揃っていて、
靴音が石畳に「コツ、コツ」と規則正しく響く。
兜に飾られた白金の羽が、光晶砂の反射を受けてふわりと揺れた。
その姿を見た市民たちは自然と道をあけ、
すれ違いざまに小さく会釈をする。
まるで光の帯が街を歩いているかのようだった。
リリナは息をのんでその場に立ち止まる。
すれ違う瞬間、騎士の一人が穏やかな微笑を浮かべ、丁寧に会釈をした。
リリナもあわてて頭を下げ、振り返ってその背中を見送る。
「綺麗……。歩いているだけなのに、光みたい」
鎧の白銀が風を受けて輝き、
胸の天秤紋章が、凛とした秩序を象徴するようにきらめいている。
エリオンが隣で穏やかに言った。
「第一騎士団オルディナ。“秩序を歩く者たち”と呼ばれています」
「……素敵ですね」
リリナは深く息を吸い、周囲の空気を味わうように見渡した。
「都会はすごいです。圧倒されます。
セレフィアは、もっと……ゆるやかに時間が流れていくような場所だから」
エリオンは思わず微笑む。
「でも、面積的にはセレフィアが七国でいちばんの大国ですよ」
「それは、ほとんど山です!」
「その山について、最近いろいろな国が関心を寄せているようです」
「関心……?山が?」
「開拓されていない場所には浪漫があるんです」
「浪漫……」
リリナはクスッと笑った。
「まだ出会ったことのないような動物とか、植物とか……
もう一つ国があったりして」
冗談めかして言ったつもりだった。
だが、エリオンの表情がほんのわずかに揺れた。
微小な、水面の揺らぎのような変化。
――すぐに、いつもの優しい微笑みに戻る。
「……そうかもしれませんね」
リリナはその“間”の意味を知らない。
ただ胸の奥に、小さな違和感が残った。
二人は再び歩き出した。
光の街の中で、昼の影がそっと足もとへ寄り添い始めていた。




