王国歴1669年10月22日⑭:一考もされずに流された!?
「問題とは、カリーナの身請けの事じゃ」
グララブの言葉にコーモノが眉を顰める。
「う~む、確かにカリーナは当家のメイド…雇用主としては、おいそれと許可する訳には…」
「いやいや、コーモノ様がカリーナを囲っている事は知っておるぞ?」
「か、囲うって…人聞きの悪い!多少、個人的な関係があっただけです!」
コーモノは慌ててグララブの言葉を否定する。その様子は本当に慌てており、人間としての小物感が溢れ出ていた。グララブはそんなコーモノに更に近付き、その横顔を見つめる。
「それならそれでいいんじゃが…後で”伯爵様の妾を奪った”などと噂が立っても困るでの?そうなればキースとカリーナはこの街に居られんくなる…儂等も仲間のキースを思い、この街を離れる事になるだろうな…」
「そ、それは困ります!皆様には是非にでもこの街に!」
「分かっておるわ、ただ今後の関係はハッキリしておきたいのぅ…そこで、身請け金で話を付けるというのはどうじゃ?」
「み、身請け金ですか…私としてはそんな物は」
両手を振って恐縮するコーモノの肩を、グララブが強く抱き寄せる。
「まぁ聞け…キースから身請け金として200Gを差し出す」
「に、200Gもですか!?」
「そこでコーモノ様が”御祝儀”として、そのまま200Gを渡せばどうじゃ?」
「な、何故そんな面倒な事を…」
「キースが身請け金を出す事によって面目が立ち、カリーナは綺麗な身体となる。そしてコーモノ様は御祝儀を出してキースに恩を売る事が出来る。さらにその噂が広まればコーモノ様の素晴らしい人格が世間に知れ渡るというもの…」
「な、なるほど!それは最高に良い案ですな!!」
気分を良くしたコーモノが勢いよくグラスを空にした。グララブは手拍子して持ち上げた後、少しだけ声を落として問い掛ける。
「ただし、ここで一つ確認したいんじゃが…カリーナに未練はないのか?」
「う~ん、美人だとは思いますが…正直自分の手には余っております。普通のメイドとして働かす事も出来ないので、最近ではどうしたものかと考えておりました」
「本当じゃな?あとで惜しくは思わんな?」
「えぇ、最近ではすっかり弱くなってしまい、カリーナと個人的な関係を持つ事もありません。『天井知らず』のキース様が身請けされるのであれば、私としては何も言う事はありません」
「それならば話が早い!!」
グララブはコーモノを解放すると、コーモノの空のグラスにワインを注いだ。そして自分のグラスをそれに合わせる。
「それではキースに話をして、明日…いや、明後日にでも持参させるとしよう!そうそう、身請けとなれば結婚も近い!できればコーモノ様が保証人になってくれると有難いのじゃが…」
「えぇ?保証人ですか!?」
「そうじゃ、教会と冒険者ギルドへ届ける際に必要となる保証人じゃ。同じパーティの者じゃと詐欺行為を警戒されて制約が多くての…身元のしっかりした伯爵様のお墨付きとなれば話も早いからのぅ」
グララブが微笑みながらワインを飲むと、コーモノも考えながらグラスを傾ける。
「し、しかし…先代から”裏判と保証人だけは辞退しろ”と厳命されておりまして…」
「やけにしっかりした先代じゃな…しかしそれは物を知らん子供への教訓じゃ。立派な人格者であるコーモノ様なら正しい判断が出来るじゃろ?」
「それはまぁ…そうですが……」
「なに、難しい事は何も無い。実は同じパーティのシーナルも結婚するそうでの。その保証人も考えておった所じゃ。相手はあのビビィ嬢じゃぞ?」
「ビビィ?………あの、メイドを辞めたビビィですか!?」
「ほほ!何かとコーモノ様とは縁があるの!カリーナにビビィにコマイ…ここまで縁深いと儂等も他人とは言えん…保証人になっても変ではあるまい?」
「ほ、本当なのか、コマイ君!?」
シーナルから急に話を振られた私は、食べ物を口に含んだまま頷いた。
「ふぇ?ほうへふへほ?」
「コマイさん、ほら」
私はヒイロからグラスを受け取ると、急いでワインを口に含んだ。酒精入り果実水とは違い、葡萄の濃厚な風味が口いっぱいに広がる。少し渋くて甘くはないが酒精が強く、口の中がさっぱりして嫌いではなかった。
「んぐ……確かにシーナルさんとビビィ先輩は結婚の約束をしています。ちなみに2人を引き合わせたのは私です!!」
「コマイ君!君はなんて有能なんだ!」
「はっはっは、ありがとうございます!褒めるんなら給金上げてください!」
「まぁ、それはさておき」
「一考もされずに流された!?」
私はコーモノが思いっきり視線を逸らした事に怒りを覚えたが、再びグララブがコーモノのグラスに酒精を追加していたので我慢した。
「そんな訳で、任務が佳境に差し掛かる前に手続きを終わらせたいんじゃ。コマイは…まだとしても、カリーナとビビィの結婚は間違いなかろう。その時は頼みましたぞ?」
「…まぁ、金の絡まぬ保証人なら良いでしょう…分かりました、お引き受けします!」
「流石は王国一の大貴族!決断が早いのぉ!ほれ、乾杯じゃ!」
コーモノはグララブに倣ってワインを飲み干した。グラスを置く手が少し揺れている。
「うぅ…宴席が楽しいからかぁ…何だか酔うのが早いような気がするぅ……」
「ほほ、何も食べずに飲んでいれば当然じゃ!ほれ、肉も食べなされ!」
グララブの勧めでコーモノが味の濃い料理を食べる。すると喉が渇くのでさらにワインを求め、そこにグララブが注いだワインが渡される。当然だが酒精入りだ。
こうしてグララブに煽てられたコーモノはグイグイ飲んで、グデングデンに酔っぱらってしまった。
「わたしわぁ~おうこくいちのぉ…ヒック!…じんか…くしゃ…だぞぉぉ~~」
コーモノは空のボトルを2本抱え、胸元を開けさせて虚ろに笑っていた。両眼は在らぬ方向を睨み、頭がグラグラと揺れている。なんとも見苦しい姿だ。
「うわぁ…これは相当に酔ってますね…恥ずかしいわぁ……」
「そうかの?初日の嬢ちゃん程では無いぞ?」
「そうですね。暴れてないですし、涎も垂らしてないですし…」
「私ってこれ以上だったの!?あああぁぁぁぁぁ…………」
私はその場に崩れ落ち、自分の愚行を後悔する。そしてお酒は程々に控えようと肝に銘じた。




