日本語量子論(後編)
奇妙な夢だった。
でも、香織先輩のあの声だけは、胸に焼きついていた。
“どう?”って問いが、世界を動かす──。
翌朝。僕は研究所に着くと、いつものように紅茶を淹れ、博士のいる部屋へ入った。
「どうした少年。まだ夢の続きでも見ているような顔をしてるな」
「……はい、ちょっと量子めいた夢を」
博士は笑いながら、「話してみなさい」と促してくれた。
夢の中で何があったのか、英語OSと日本語OSのこと、問いかけが量子演算と共鳴したこと、──僕はその全てを話した。
博士は相変わらず「ほう」「ふむ」と相槌を打ちながら聞いてくれたが、途中で少し目を細めた。
「……君の夢には、時々“何か”が宿るようだね。昨日も『数式は見たかい?』なんて聞いたが、今回は“問い”か」
「問いといっても、“どう?”って言葉ですけど」
その瞬間、博士の表情が変わった。
先日のやりとりを思い出す。
「“どう”とは何が聞きたいのかな?」
あのときの何気ない一言が、今になってずしりと響く。
“どうする?” “どう思う?” “どう感じた?”──。
日本語の“どう”には、単なる疑問ではなく、相手へのゆだね、選択、共感、すべてが重ね合わさっている。
まるで、測定前の量子状態みたいに。
そして博士は微笑み、それ以上はなにも言わなかった。
僕はその晩、自分のノートPCの前に座った。
夢の中で聞いた香織先輩の言葉が、脳内で再生される。
“あなたがそれを、現実にして”
そして、僕はファイル名を入力した。
《DOU Project》
“どう?”という日本語の問いかけを、量子アルゴリズムに接続する。
意味を持たないフレーズが、測定のタイミングを変える。
重ね合わせの波を、ゆらぎのまま活かす。
命令ではない。指示でもない。問いかけそのものが、演算の種になるなら──
まずは第一歩、“どう?”という日本語の問いかけを "AI" に学習させる。
これが、僕のプロトサイエンスだ。
2025年現在、ChatGPT 4o や、Gemini 2.5Pro などのモデルは、“どう?”って言葉を文脈を理解し的確に答えてくれます。
2024年のモデルでは、ちょっとずれた返事が多かったので、AIの進歩はすさまじいの一言です。
日本語量子論は、そんなAIの発展を意図的に遅れている設定で書きました。
日本語の“意味の重ね合わせ”の面白さ、可能性、を感じていただけると幸いです。