結城綾乃と初音の配信理由
本日2話目です。
「では、あらためて自己紹介です、結城綾乃です。
よろしくお願いいたします」
綺麗なお辞儀をされたのでこちらも返す。
「瀬上秋人です。よろしくお願いします」
「自慢のお兄ちゃんです! 」
言葉に合わせてほっぺたを横に引っ張られる。
「ぁにをしゅる~!」
「あ、伸びる伸びる。
ダンジョン変異するとほっぺたも柔らかくなるのかな」
じゃれていると
「思ってた通り仲のいい兄妹なんですね」
微笑ましく見られてしまった。
続けて話を聞くと
彼女は蘇生したしばらく後に配信を始めた妹のチャンネルに
時々出演してくれているそうだ。
「お前さー、スライムに殺されたのになんでダンジョンで配信しようと思ったの、
怖くなかった?」
怪訝に思い問いかけると
「めっちゃ怖かったよー。今でも天井からスライムが落ちてくるかもって
時々びくってする時あるもん。
でも私がやってるの初心者向けチャンネルだからさ、
スライムに殺されちゃった子が徐々に潜れるようになったら説得力あるじゃん」
思ったよりしっかりした返答がきた。
でもやっぱり心配なんだよな。
「初心者向けチャンネルは他にもいっぱいあったし普通に働いても……」
思わず口からこぼすと妹がプルプルと体を震わせる。
「当時ノワタシ体感17歳。実際年齢27歳。
卒業シナイデ死ンダカラ高校中退職歴ナシ10ネン。
結婚シヨウニモ恋人モイナイシ名前モ知ラレテテ微妙ナ立場
ガガガガガガ……」
何もしてないのに壊れた。
「スーパーやコンビニのバイトをするか配信するかって選択肢だったからね。
ちょっとお兄ちゃんのネームバリューを借りて配信をした方がね、役得! 」
妹がおどけたように言ってくる
結城さんがそばに寄ってきて耳打ちをしてくる。
「あんなこと言ってるけど最初の頃はコメントが本当に酷かったんですよ。
生き返らせてもらったのに不謹慎だとか
スライムに殺されたようなのがダンジョン潜ると迷惑なんだよとか
ダンジョンに潜る人が増えたのでお店は常に人手不足です。
給料もかなり上がってますし、そちらの方が絶対楽だったはずです」
(やりたいことをして死ぬのは不謹慎ですか?
生命はいつか終わりを迎えるので好きにすればいいのでは)
頭に直接響いた問いかけに返答する。
アルファターナさん、今マジメなとこです……
(私も真面目ですが? )
…ですよね。
「で、実際のとこなんで配信を選んだんだ」
妹に問いかけると下を向いたまま返答してくる。
「お兄ちゃんが私を助けるために歩いた道じゃん。
お兄ちゃんみたいにゲームとか上手じゃないし効率とか
あんまり気にしないから時間がかかっちゃうかもだけど
ゆっくり歩いて行ったらいつか同じものが見えるかもしれないじゃん」
正面を向いた顔は真剣な表情をしていた。
「なるほど、環境のせいじゃなくて自分の意思でやりたくてやってるんだな、安心した」
妹にしがみつく。
頭を撫でるのに努力がいる、悔しい。
(今度、妹さんを最下層に連れてきますか? )
再び頭の中の声と会話する。
こういう場合、簡単に行けたらダメなんですよ。
連れてきたら何をするつもりですか?
(歓待してお兄さんをくださいと伝えます)
僕たちお友達ですよね?
(永い時を一緒に過ごすものはご家族にそうして挨拶するものだと
メイから聞きました)
残念、ちょっと違います。