秋人のダンジョン回想3
魔法の練習をしていると後ろから声が響いた
「オニマル、なんか男の人と猫ちゃんがいる」
振り返ると3人の人物。
まだ距離はだいぶある。
油断をしていたつもりはなかったが声を聞くまで気付かなかった。
しゃむもびっくりしている。
大柄な男性1人、冷たそうな印象をうける長身の女性1人、中性的で小柄な人物1人。
黒神ダンジョンに後から入ってきた人だろうかと秋人は考える。
何にしても困った。
後ろを取られた状態では妙な真似をされた場合に戦うか
モンスターをまだ倒していないエリアに危険を承知で走りこむかを選ばねばならない。
秋人にはまだ人を殴る覚悟はなかった。
とりあえず油断なく身構えることにする。
「ちょちょちょ、ちょっと待ってほしいっス。
日本語分かるっスか?
こんにちはー、ハロー、ニーハオ、ボンジュール」
中性的な子が前に出てきて話しかけてくる。
「遠くから大きい声出して存在をアピールしてるでしょ、こっちは敵意ないって」
と、女性も続けていった。
「すみません、ダンジョンで人に出会うの初めてだったんで警戒してました」
返答をしながら身構えるのをやめてしゃむを抱き上げる。
いざとなったら距離を離せるように警戒だけは続けておく。
「で、どこの組織の人間だ」
大柄な男が前に出て問いかけてくる。
「そしき」
予想外の言葉に思わず反芻する。
そして思いついた内容を返答した。
「すみません、就職は決まってたんですが入社式の後に新人研修も受けないまま
ダンジョンに潜り込んで無断欠勤をしてしまったんで、
多分ですけど今はどこの組織の人間でもないです」
「むだんけっきん」
大男も意表を突かれたようでポカンとした顔をしていた。
頬をかきながらあらためて問い返してくる。
「お前、一般人? 」
この問いには秋人は自信があった。
「はい、ごく普通の人です! 」
満面の笑みで答えた。
「ちょっと腰を落ち着けて話をしようぜ」という大男の言葉がきっかけとなり
通路に座り込んで話をすることとなった。
中性的な子が手際よくキャンプ用品でお茶を沸かし始める。
大男の名が鬼丸。女性の名が巳恵。
小さい子が狐月というらしい。ちなみに女の子だった。
「で、瀬上さぁ、なんでこんなとこにいるわけ?
俺らはプロだから仕事で来てるわけなんだけど普通の人はこんなとこ来ないだろ」
鬼丸に問われ秋人はダンジョンのプロって勇者パーティとかだろうかと疑問に思いつつも
妹のことを話した。
「ええ!? 願い事とか止めときなよ。
ダンジョンを攻撃したやつらにすさまじい反撃してたし絶対気性の荒い神様だって」
巳恵が険しい表情で反対してくる。
続けてダンジョンが出来てすぐ入ったためにそういったことを知らないことを話す。
「あんた、この凄まじい神気の中で6年以上も過ごしてんの?
一度も帰らず? 」
巳恵が引きつった顔をこちらに向けていた。
「さっきやってた魔法はどうやって身に着けたっスか? 」
狐月に聞かれる。
「ダンジョンの中で自然にっスか。自由になった魔素が増えてるとはいえちょっと普通じゃないっスね」
なにやら深刻そうな表情でよく分からないことを言っているので
どう反応していいか分からずにいると巳恵に言われる。
「君の体、ダンジョンの主に色々されてるの分かってる?
体の中にある魔素の量が異常。科学が発展する前に時々いた英雄みたい」
秋人としてもダンジョンに入る前の自分とはケタ違いに運動能力が上がっている自覚はあるので
よく分からないなりに黙ってうなずくしかなかった。
「ダンジョンで人間を育成して自分とこの神兵にする気なのか? 」
鬼丸達は3人で何やら話し始めてしまった。
ダンジョン内ではドロップした食材を生で齧るばかりだったので
お茶とお茶請けのクッキーがとても美味しい。
秋人は久しぶりに自分の気持ちが緩むのを感じた。
楽しんでいただけると嬉しいです。




