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003:これが一般人の力だ!


 俺が選択したステ振り結果は以下のとおりだ。


* * * * * * ス テ ー タ ス * * * * * *

 名前:中ノ森シズク 性別:男 年齢:19

 パラメータ(一般人:5 アスリート:10 達人:15)

             現在値

 生命力= 5     → 6

 耐久力= 4 → 5   5 

 魔法力= 0       0

 筋 力= 4 → 5 → 6

 器用さ= 4 → 5 → 6

 敏捷性= 4 → 5 → 6

 知 力= 4 → 5 → 6

 精神力= 9     → 10

 スキル:<耐える(精神)> new!

 探索回数:21 死亡回数:16 獲得経験値:2

* * * * * * ス テ ー タ ス * * * * * *

計算式 272=10×5+20×6+100+ 2

       =50+120+100+2


 必要ないかも知れないが一応念のためにパラメータに経験値を割り振った際の俺の思考を記述する。これは後々見返してステ振りの反省材料やこれからの判断材料にするつもりだ。また、ステータス上の数値的強化と俺自身が実感する肉体変化を比較するのにも役立つと思う。たぶん。


 まずは精神力を10にした。


 一般人の壁(5)を超えたアスリートの圏内(6~10)なので経験値は20も消費する。自分の強みを活かすことは大切なことだと思い、勢いのまま「そいっ」と割り振った。


 あと、アスリートの壁となる精神力ってどんなんだろうという好奇心も少しだけ働いた。スポーツ選手のメンタリティってなんか凄そう。


 次に……俺は人並みになりたかった。


 一般人の圏内(1~5)は経験値を10消費するので、まずは思い切って能力値を均等にした。10☓5で計50の経験値を消費する。この段階でオール5+精神力10だ。ちなみに魔法力の話は今後一切しないし、考慮しない。


 もちろん、魔法力を習得できる目処が立てば話は別だ。


 残り経験値202でどのステータスを強化しようか迷っていた際に、カレンからスキルを習得できることを告げられた。スキルを習得するには概ねの目安として経験値を100消費する。


 これは一定ではないらしく、これにもやはり才能が関係するらしい。


 スキルは最低でも能力値の一つがアスリートの壁(10)になければ覚えられないらしい。精神力の値が10となったことで三つのスキルを取得可能になった。最初の精神力振りはこのための伏線だったのである。


 そんなわけでカレンが提示したスキルを三つ記載する。


<耐える(精神)> 取得条件:精神力10 生命力5 耐久力5

 アクティブ:ダメージを受けながらでも冷静な反撃が可能。

 パッシブ:軽度の負傷を気にせずに冷静な行動が可能。

      痛みや傷口の悪化は当然ある。傷が治るわけではない。


<集中(精神)> 取得条件:精神力10 器用さ5 知 力5

 アクティブ:弱点部分への命中率とクリティカル率の補正

 パッシブ:警戒歩行時の集中力持続に補正(効果微小)


<観察(精神)> 取得条件:精神力10 知 力5 敏捷性5

 アクティブ:危機的状況においても冷静に客観的に瞬時の観察が可能

 パッシブ:観察力に補正(効果微小)


 俺はあまり深く考えずにこの<耐える(精神)>のスキルを習得した。今までの経験から断言できるが、俺が傷を負わずに迷宮を踏破することは不可能だ。何かしらの負傷をすること前提に考えるべきである。


 とはいえ、スキルなんて邪道なものは使わずに自分の能力値や精神力(意志力)を信じて耐えればいいだろという考え方も理解できる。


 実際、俺は右腕を失いながらもイヌモドキを一匹だけ相打ちにできた。


 しかし、相打ちではダメなのだ。あの時、もう少しだけ冷静な判断ができていれば選ぶべきは相打ちではなく、逃走だったはずである。とにかく走る。何をおいても走って逃げるべきだった。イヌモドキのことなど無視してセーフルームへ逃げ帰るべきだったんだ。


 右腕を千切れかけた状態が軽度の負傷に該当するかはともかくとして、おそらくこのスキルがあれば走れる。そんな気がした。


 まあ、これはスキルを習得してからの後付の思考だ。提示された三つのスキルを見て突発的に<耐える(精神)>のスキルを取ってしまってから、こうやって必死に言い訳を考えてみた。


 能力値に100ポイント分を振ればよかったなという後悔もちょっぴりなくはない。まあ、後の祭りってやつだ。このスキルとは末永く付き合っていこうと俺は思う。


 さて、残り100ポイントだ。


 ここで他の二つのスキルを選ぶという選択肢はなかった。流石に能力値の底上げによる効果を無視することはできない。全ての能力値がアスリート圏内(6~10)に入ったことで経験値は20消費される。


 素直に考えれば、一つの能力値に全振りして10にスべきだ。全体的に5→6の変化よりも一点に5→10の方がステータスの力を実感できる。


 そう思ったはずなのに、結果は上記のとおりだ。謎である。


 思考が勝手に動いたというのは言い訳にならない気がする。けれど、全部均等に上げたいという欲求には勝てなかった。耐久力を6にするか、知力を6にするかというしょうもないところで悩んだ結果、知力を取った。


 だって頭が良くなりたかったんだもの!


 俺の探索方針からすれば耐久力を上げるべきだったが、知力を上げたい欲求には勝てなかったよ。


 そしていざ行かん、迷宮へ!





 そんな感じでようやく始まった迷宮探索は概ね順調だった。


 まずは先も述べたとおり単独行動をしている動物モドキは楽勝に殺せるくらいには成長していた。加えて言えば、イヌモドキは行動パターンが決まっているので鼻歌交じりでも倒せてしまえる。


 イヌモドキの行動パターンは比較的単純だ。


 まず、こちらを発見する。俺に向かって猛ダッシュ。首元へ狙ってジャンピング! ガブリっ、ガブガブっ、牙を食い込ませてからは全力でその身を振って暴れ狂う。以上である。


 イヌモドキは基本的に首しか狙わない。ただし、これは単独行動での話だ。二匹以上で群れている場合は小賢しくも役割分担をしてくる。一匹は首元を、もう一匹は腕を。三匹ならこれに加えて足首を狙ってくる。


 そして、前任者の行動が阻止された場合には攻撃目標が繰り上がるようだ。首を狙っていた奴が死んだら、そいつに代わって次の奴が首を狙う。足のやつが腕を狙うといった具合だ。


 ネコモドキは少し面倒くさい。


 顔を狙う場合は引っ掻き、腕を狙う場合は噛み付いてくる。どちらを狙ってくるかは気まぐれらしい。二匹以上の場合はイヌモドキと似たようなパターンになる。あとはイヌモドキと違って様子見を入れてくる。


 たまに「なお?」と鳴いてすかさず逃げ去るネコモドキも中にはいた。「アウ?」と首を傾げるイヌモドキと似たようなものだ。例外的な存在として俺は認識している。


 こいつらだけは本当に俺も理解できなかった。まるで意味がわからんぞ。なので、ただのノイズだと思って流している。


 ネズミモドキのパターンは単純だ。


 足首を噛りに来る。ガリガリしてくる。とても痛い。単独行動が多い。そのため、カウンター蹴りが有効だ。複数匹で来た場合は、足を犠牲にする必要があった。


 歯を食いしばりながら、一匹に噛まれることを甘んじて受け入れつつ足を踏ん張り、もう片方の足で別のネズミモドキを蹴り上げる。それから相棒で足からネズミモドキを剥がしてから蹴り殺している。


 足にかじりついているネズミモドキを相棒を使って直接殺さないところがポイントだ。一度やってみたらわかるが、棒で足元を殴るのは至難の業だ。ズレて自分の足を打ちたくない。なので、とりあえず相棒で引っ剥がすことをおすすめだ。それも慣れるまで時間はかかったが。


 ただ、少しばかり懸念はある。


 ネコモドキとネズミモドキの両名はイヌモドキほど多く交戦していない。全ての行動パターンを把握しているとは言えなかった。これに関しては実際に戦ってもっと観察を続けるしかないないだろう。





 警戒しながら先へ進むという行為にもだいぶ慣れてきた。


 前方の先の先を見つめてとにかくこちらが先手を取って魔物を見つけることが重要だ。さらに、後方の気配りも忘れてはならない。カレンの意地の悪さは承知済みだ。


 「魔物を倒してきた後方通路に別の魔物が突然沸かないなんて言ってないよ~」くらいは平気でやりそうである。


 曲がり角や十字路、T字路は特に注意が必要だ。気配を探るなんて高度なマネはできないが、耳を澄ませたり息を潜ませて呼吸を整えたりと、そのくらいの知恵はあった。


 それにしてもここに来てステータスに経験値を振った効果をかなり実感し始めていた。いままでの探索と違って心にとても余裕があるのだ。


 モドキ共が3匹以上で現れた場合は確かに焦る。必ず身体のどこかを負傷してなんとか倒しているのが実情だ。


 しかし、それが軽傷か擦り傷で済んでいるのがまず素晴らしい。


 とは言っても痛いことに変わりはない。けれど意識が朦朧としないという点も、じくじくと痛んで熱い傷口を気にもとめずに歩き続けられることは非常に助かっている。


 余裕があるとは即ち、思考を有効利用できるということだ。


 いま挑んでいるダンジョンは通路を多用した迷路型だ。つまりマッピング要素が必要となる。


 以前までは頭の中でマッピングをしながら進む余裕はなかったが、今なら可能だ。それほど複雑な構造になっていないのが救いである。通路の幅と天井の高さも広くて見通しが良い。


 相棒を振り回して戦いやすいのも助かっている。


 しかし、こちらが戦いやすいということは魔物側も戦いやすいということになる。特に複数匹で来られると一直線にはならずバラけて特攻してくるのがいやらしい。


 初見のときは大いに焦ったが今は慣れたものだ。


 まず最初に、攻撃を受けても良い敵と絶対に一撃で殺す敵を決める。あとはその他だ。攻撃を受ける場所もモドキの種類から想定して予め決めておき、痛みに備えて身構える。


 複数の種類のモドキが混ざっているときはまずイヌモドキ、次にネコモドキ、最後にネズミモドキ、と倒すべき優先順位を付けておく。


 あとは簡単だ。


 イヌモドキ二匹、ネズミモドキ一匹の場合は、ネズミモドキをガン無視する。先に襲ってきたイヌモドキに右腕をわざと噛みつかせ、攻撃箇所を変更したイヌモドキの喉元に相棒を突き刺す。


 足はかじられて痛いが想定内。右腕も噛まれて痛いが想定内。


 右腕を大きく振って壁にイヌモドキを何度も叩きつける。その度に腕に牙が食い込むが、それも耐えるしかない。叩きつけて叩きつけて、ようやく腕から離れたところを相棒で頭に一発叩き込む。


 それから「お待たせー」とネズミモドキを処理してお終いだ。


 戦闘結果:足は血まみれ。腕も血まみれ。疲労困憊、満身創痍。痛みで頭が朦朧状態だ。


 この戦法はステータスを割り振る前に考えたものであり、先日まで使っていたお古の戦い方だ。モドキ共の殺気に怯え、敵意に震えて後手後手に回っていたチキンな俺が考えた戦法である。魔物が襲いかかるのを丁寧に待つ受けの戦法だった。


 だがしかし、今の俺は以前の俺とは違う!


「ふふふっ、今の俺には魔物に立ち向かっていく精神力と余裕があるのだ! ……あ、やべ」


 興奮してつい口に出してしまった。


 ここまで順調に来れたのでつい調子に乗ってしまった。すぐさま声を抑えて周囲を警戒する。進行方向の曲がり角からペタペタとモドキ特有の無警戒な足音が聞こえた。


 俺の声に引き寄せられたのかもしれない、不注意だった。


 前方のL字型の角からニ匹のイヌモドキと一匹のネズミモドキがぬるりと姿を現した。俺はすかさず走り出す。俺に気づいたイヌモドキ二匹も同時に駆け出す。ネズミモドキは遅れてそれに続いた。


 左のイヌモドキをA、右のイヌモドキをBと呼称する。


 俺と二匹のイヌモドキは互いに向かって走り合っている。つまり、必ず交差する一点があるということだ。俺はぶつかり合うその地点を予期して速度を調整する。まだマックススピードではない。


 最初に狙うのはどちらのイヌモドキか。


 俺はすぐさまイヌモドキAを標的に見据えた。理由は単純、奴が俺の正面にいるからだ。イヌモドキBはAに添える形で隣を並走している。狙い場所が見え見えだ。Aが俺の首、Bが俺の右腕を狙ってくる。


 勘と推定が混ざっているが、まず間違いない。


 衝突地点の直前にイヌモドキAとイヌモドキBは同時に跳ねた。それに合わせて俺もぐっと足に力を込める。


 突進だ。


 予定通りにイヌモドキAを左手に握った相棒による一撃で突き殺し、俺はその勢いを落とさない。もちろん狙った箇所はその大きく開かれたイヌモドキAの口の中だ。


 イヌモドキBによる右腕へのジャンピング攻撃はスカした形になる。当然だ、イヌモドキBが想定していた攻撃位置に俺はいない。俺の攻撃は通り、イヌモドキBの攻撃は避けられる。


 この素晴らしい戦法を讃えよ。


 受け身による待ちの姿勢から突進を主軸とした攻めの姿勢へ。


 戦闘方針を180度ぐるりと変更した。この違いは大きい。もちろん、これはステータスに経験値を割り振ったことで俺が一段と強気になっているからこそできる方法だ。


 本当ならイヌモドキを殺した勢いのままにネズミモドキを蹴り殺したかった。だが、相棒をイヌモドキAの口から引き抜く所作が必要だし、優先順位の高いイヌモドキBに対応するためにはネズミモドキを無視するしかなかった。


 もう少し器用さと俊敏性があればネズミモドキに対処しながら、並行して動けるかもしれない。しかし、今は無理だ。できないことを頭の中で想像しても仕方がない。


 俺はその場で急停止してすぐさま振り返る。イヌモドキAの遺体を放り投げてから相棒を構えた。 


 ネズミモドキはジャンピングをせずに地べたを進んで攻撃してくる。必然的に俺の足がかじられるハメになるが仕方がない。


 そんなネズミモドキの攻撃を意識的に無視して、イヌモドキBを迎え撃つ。急旋回して再び俺の喉元を狙うイヌモドキBをこちらも狙いすますようにして一突き食らわした。


 最後に俺の足をカジカジと頑張ってるネズミモドキを相棒で引き剥がしてからひと蹴りだ。


 これでようやく今回の戦闘は終了である。


 戦闘結果:イヌモドキ二匹とネズミモドキ一匹を撃破。負傷は足にひとカジリのみ。疲労は並。持続的戦闘はまだまだ可能だ。


「ふふんっ、どうよカレン」


 これが一般人の力だ!


 上手く立ち回れた戦闘後ということもあって気分が高揚している。

 俺はつい調子に乗ってカレンに話しかけていた。


「うんっ、シズクカッコイイーっ」


 うん、我ながら自分の成長を実感する戦いだった。


 ちなみに緊張感がなくなるので今までスルーしていたが、実はカレンとは探索中もお喋りができる。今までは死闘と苦戦で喋る余裕が全くなかったが、これからは和気あいあいと探索に挑めるかもしれない。


 なんてことはなかった。


 流石にそれが甘い考えだったことを俺は身をもって知ることになる。


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