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002:とっても素敵な名前だよっ


 ざっとステータスを眺めた俺は気になる点が6つほど見つかった。その箇所を●で印をつけておく。ちなみにどうやって●が付いたのかは俺にもわからない。


* * * * * * ス テ ー タ ス * * * * * *

 名前:中ノ森シズク 性別:男 年齢:19

 職業:探索者 称号:見初められし者 ●

 成長率:大器晩成 才能:凡愚

 パラメータ(一般人:5 アスリート:10 達人:15)

 生命力= 5

 耐久力= 4

 魔法力= 0  ●

 筋 力= 4

 器用さ= 4

 敏捷性= 4

 知 力= 4

 精神力= 9

 //空欄  ●

 //空欄

 //空欄

 スキル:該当無し ●

 魔法:該当無し

 特殊:<愛されし者>  ●

 探索回数:21 死亡回数:16 獲得経験値:272 ●

 踏破済ダンジョン:無し


 //閲覧不能領域(シズクには見えていない)

 //ヤンデレダンジョン総合踏破率:???

 //ヤンデレダンジョン依存度:???

 //ヤンデレダンジョン好感度:???

* * * * * * ス テ ー タ ス * * * * * *


「とりあえず、この職業と称号の説明から頼む」

「おっけー、お任せあれっ」


 職業とはそのままの意味である。称号とはそのままの意味である。


「つまりどういうことだってばよ」

「つまりだね。特に意味はないよ。ボクが気分的に付けてみただけ」


 彼女の反応を見るに本当に何の意味もなさそうなので次回からは削っても良さそうだ。


 職業:勇者、職業:魔法詠唱者、職業:黒騎士とか、称号:モドキ狩りの達人、称号:相棒名人、称号:深淵の探索者とか色々と想像したのに。ステータス補正があるとなお良いのに。


 職業や称号という字面に喜んだ俺の純情を弄びやがって!


「……お前さぁ」


 恨みまじりのジト目で見つめていると、彼女は急に俯きながらもじもじと指をいじり出した。


「あ、あのさぁー」

「なんだよ、改まって」


 彼女にも恥ずかしいという感覚が存在するらしい。赤面して言おうか言うまいかを迷っているようにみえた。もともと肌が白いこともあって赤面映えして中々に抱きしめたくなる。


「な、名前っ。名前を付けてほしいなって、思ったり思わなかったり。その、心の中でいつまでも『お前』とか『こいつ』とか『彼女』とかで呼ばれるのも寂しいなって」

「お前……いや、じゃあ、キミの名前は?」

「だ、だからー、ボクには名前がないんだってばー!」


 な、無いのか。いつまで経っても自己紹介をしないから「こいつシャイなのかな?」と勘違いしていた。まさか名前が無いなんてな。その発想はなかった。


 俺は中ノ森シズクという名前がちゃんとある。


 シズクという名前は俺の爺ちゃんが付けてくれたらしい。母さんはシノン、父さんはシオンと名付けたかったと聞いたことがある。どういう過程と事情があったのかは知らないが、結果的に俺の名前は爺ちゃんが一押しするシズクとなった。


 名前は俺にとって当たり前のものである。彼女に名前がないなんて本当に欠片も思いもしなかった。


「じゃ、じゃあ、俺が名付けて良い……んだよな?」

「う、うんっ。シズクが決めてくれた名前ならボク、何だって嬉しいなっ」


 ここでゲレゲレとか、ベロンチョとか言ったらどうなるんだろう。


 「ボクはベロンチョ! シズク、良い名前をありがとう!」なんて笑顔で言われたら俺は一生後悔するね。


 やはり、彼女の容姿から名前を付けてあげるべきだろうか。笑顔が似合う可憐な少女。美しい蒼白、眩く白い肌、蒼い瞳。可憐な……声。よし、決めた。


「カレン、キミに決めた!」


 唐突だが、彼女のことをこれからカレンと呼ぶことに決めた。第2候補としてアオちゃん、第3候補としてハクちゃん、第4候補としてシロちゃんがある。


 しかし、なぜかカレンという名前が浮かんだのでそれに決めた。というか褒める言葉のボキャブラリーが少ないせいじゃないよな?


「カレン、ボクの名前はカレンっ。うんっ、とっても素敵な名前だよっ。シズク、ありがとうっ」


 カレンは思わず俺に抱きついてくれるが実体化していないのでスルッと抜けていった。そしてもう一度後ろから抱きつかれてまたもスルッと抜けていった。三度目になってようやく自分のテンションに気づいたのか、しゅんと赤くなるカレンに俺はほっこりする。


「お、おう」


 これしか言葉がでなかった。正直に言うと物凄く恥ずかしい。ヒロインの名前を自分で決めるとか、何なのだろう、この罰ゲームは。しかも理想の姿をした少女に自分で名前を付けるとか、妄想小説でもめったにない展開に違いない。


 けれど、彼女の、カレンの嬉しそうな笑顔を見ているだけで何やら満たされるものがあった。そんな気恥ずかしさを誤魔化すために俺は本題に戻ることにした。


「そ、それでだな、カレン」

「は、はいっ。なにかな、シズクっ」


 お互いに緊張気味に名前を呼びあう。ドキドキ、ワクワクが止まらない。また最初に出会ったときのようにカレンに触れたい、抱きしめたい、匂いをかぎたい。


 そんな欲求を抑えつつ、俺は次の質問を尋ねた。


「魔法力の欄で能力値が0なわけだけど、俺にはそういった超常的な力とかは使えないってことか?」

「現時点では、そういうことになるね」

「そこで、経験値によるステ振りか」

「そゆことー」


 これは大きい。これは素晴らしい。誰だって魔法を使って現代無双とか一度くらいは考えたことがあるだろう。頑張ればそれができる。それってとっても素敵だなってこころが弾む。


「だけど、0を1にするのはけっこう大変だよ?」

「ち、ちなみにどれくらい大変なんだ?」

「そうだねー、この世界の法則とシズクの才能を換算するに……ざっと1万くらいかな?」


 現在の獲得経験値は272か。へー、ざっと20倍の経験値を全てつぎ込んで1にできるわけかー。……って単純計算、間違ってるやないかーいっ。馬鹿か俺は、馬鹿だ俺は。


 20倍しても約5000だよ。正解は40倍だった。


「なんだ、けっこう余裕だな!」


 内心で狼狽えていることなど露にも見せない俺である。


「うん、ボクのダンジョンを攻略していけば余裕しゃくしゃくだよっ」


 こう、目標ができると気分が高揚する。魔法が覚えられる、ただそれだけで俺のやる気メーターはグンと上がった。ここは慎重に情報を詰めていくべきところだろう。


「じゃあ他のステータスはどうなるんだ?」

「うーんと、こんな感じかな」


 一般人の壁、アスリートの壁、達人の壁、超人の壁、英雄の壁、超越者の壁。こんな具合に階級があるらしい。一般人のステータスを上げるのにはそんなに経験値はいらないとのこと。つまり、階級が上がれば上がるほどステータスを上げるための経験値が増えるというわけだ。


 あと、能力値によって必要経験値が変わるらしい。これも一種の才能というものがつきまとってくるようだ。1を知って10を知る者もいれば、1を知って1を知る者もいる。


 そんな感じで必要な経験値も人それぞれに異なるらしい。個人差って言葉が実に嫌いだ。


「とりあえず、ステ振りはあとで考えるとして。いや、これも最初に聞いておくか。ステータスの振り直しはできるのか?」

「うーん、できると言えばできるけど、あんまり意味はないよ?」

「ん……そうか、そうだよな。ステ上げに必要な経験値はおそらく比例的、加速度的に上がっていくんだろうし。結局、どのパラメータも均等になりやすいのか」

「まあね。でも他にも経験値の使い方はあるから、それほど均等になるかはわからないけどね」


 こういうパラメータ振りのゲームは特化型が強い傾向がある。敏捷性と筋力、ある程度の器用さがあれば大体なんとかなる。物理と魔法どちらかを捨てて特化する。素早さを捨てて耐久力と生命力に特化する。何かに特化すればするだけ強くなれる。


 そういう理屈は理解できるのだが。


「……どうしても万能バランス型になるんだよな、俺って」

「そういう考えもありだよ。ソロにとって対応力は重要だし。……仲間がいれば、アレだけど」

「……仲間、ねえ」


 チラッとカレンの顔を伺うと、予想通り曇った顔をしていた。俺以外の存在をここに呼びたくないのだろうか。そもそも仲間を呼べるのかもわからない。その仲間の存在から見たらカレンはどう映るのだろう。その仲間にもカレンは理想の存在に見えるのだろうか。


 これって寝取られ? 考えたくない話題だ。


「そ、そうだ。そう言えばパラメータの下に不自然な空間があるけど、これは?」

「ふぇっ、ああそれね。ふふふっ、そこは隠しパラメータだね。ビギナーを卒業したら見せてあげるね」


 ビギナーを卒業したらもらえるご褒美がまた増えた。とりあえず、カレンの全裸を目指して頑張ろう。あと、魔法の習得のために経験値を稼がなくてはならない。


 魔法といえば気になる点があと二つある。


「あとスキルと特殊の欄だけど、魔法との差異は?」

「スキルは文字通り、技能のことだね。固定化した技能をいつでも意志一つで使えるようになるのがスキルの利点かな。もちろん、無意識でのご利用も可能だよっ。ただし、身の丈以上のスキルは覚えられないから気をつけてね。あくまで能力値の範囲内でご利用ください。……えっと、あとは特殊だね。特殊はねー、まあ文字通りの特殊って意味だね。スキルでも魔法でもない特殊な力や才能が表示されるよ」


 前半の説明は普通に納得できたが、後半が少しだけ引っかかる。そして一番引っかかるのが習得した覚えも、もとから俺が持っていたとも思えないこの表記。


「……ちなみに、この<愛されし者>ってのは? あんまり聞きたくないんだけど」

「ふ、ふふふっ。くふふふっ、それはねぇ。もちろん、このボクに愛される才能がシズクにはあるってことだよ。ボクがシズクを見つけたとき、見つけてしまったとき。もうっ、ボクってばすっごく興奮しちゃったよ。つい、ボクのコアから魔力が溢れちゃってさぁ、それがシズクに……っとと、これ怒られそうだから言うのやめとこ」


 嬉ションかな? 出会う前からマーキングされてたとか怖いことを知ってしまった。あまり考えないようにしよう。18禁にはしたくない。


「それで、最後の質問だけど、結局のところ経験値とやらはどうやって獲得できるんだ? 単純に魔物を倒せば経験値が手に入る感じで良いのか?」


 この質問にカレンは控えめな胸をぐっと張って答えた。


「全てだよ」

「……全て?」


 俺はちょっぴり嫌な予感がした。


「シズクの取ったありとあらゆる行動が経験値となるのさ。もちろん魔物を倒せばそれも上乗せされるけどね。イヌちゃんに噛まれて傷を負ったことも、負傷しながら懸命に歩き続けたことも、死を経験したことも、周囲を警戒しながら歩いたことも、ぜんぶ、ぜーんぶ、シズクの経験値に加算されるシステムだよっ」


 ここ数週間、何回迷宮に挑んで何回死んだことか。何回痛い目にあって何回必死になって魔物を殺したことか。腕を千切られそうになり、足を噛まれ、顔を引っ掻かれ、殺意を向けられ、敵意を向けられ、朦朧とする意識を繋ぎ、前へ前へと進んだあの全て。


「つまり、あれだけの目にあって経験値は272?」

「あれだけのことがあって272だねっ」

「……それってもしかして」

「才能? 関係大有りだよっ。いっぱい、いっぱい頑張ってね、シズクっ。シズクはずっと、ずーっとボクのダンジョンに潜って立派に成長してくれて良いんだからねっ」


 ……これはかなり気長に頑張る必要がありそうだ。


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