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千歳の少年魔導士は再び勇者を呼び寄せる  作者: 千秋 颯
第一章 二人目の勇者と赤髪の剣士
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「ちょっと自分を卑下しすぎじゃないか?」

 オレンは少し意外だと言いたげに片眉を持ち上げた。


「俺でいいのか? ルカのが上手いじゃないか」

「それはもう昔のことだよ。今僕が君と剣だけで勝負したら僕の負けはもはや決定事項だよ」


 本心から出た言葉だったが、オレンにはそれが気に入らないことだったらしい。

 オレンは少し言葉に力を入れながら早口になる。


「ちょっと自分を卑下しすぎじゃないか?」

「君が僕を高く見すぎているのさ。何ならやっぱり、今からナナカと同じように僕らも剣だけで試合してみるかい?」


 少し挑発するように言い放つと、彼はほんの少し浮かび上がっていた不満げな顔をさらに深めて眉間にしわを刻んだ。

 事実、オレンは剣だけなら僕よりも上だ。

 単純な話である。

 彼は成長期途中の十六歳。僕は八年経っても成長していない十二歳のまま。

 僕とオレンの体格的に実力に差が出ることは明らかであり、それがわからないほど彼はバカではないだろう。

 オレンがそれを認めない理由は二つ、僕は思いついた。

 一つ目は僕が、彼の幼いころに県を教えていた師匠的存在に当たるから。

 わざわざ八年間忘れずに、故郷を離れて追いかけてくるほど僕の存在が強く残っていたなら、それだけ尊敬されていたのだろう。

 うれしいことではあるが、それと自分の実力をきちんと認められないのは全くもって別物である。

 それは自分自身で能力の向上を制限していることにもなりかねない。

 そして二つ目は……


「――私、オレンに剣教えてもらいたいかな」


 僕とオレンが無言で睨み合っていたところに相変わらずといえばいいのか、ナナカの呑気な声が入る。

 そしてその声を聴いた僕らの視線が同時にナナカへ移動した。

 彼女は整った顔には見とれるほどきれいな笑顔が浮かんでいる。


「だってさ、見た目年下の男の子に教えてもらってるとなんか悔しく感じるし、やっぱりショタは泣かせてこそのショタだよ」


 だがしかし、言っていることは最悪である。

 それなりに予想していたことではあったのでツッコミを入れたくなるのを僕は何とかこらえた。

 僕はショタという言葉に首を捻っているオレンに「知らなくていい」と首を横に振って見せる。

 しかしなんとなくナナカの言おうとしていることが真面目に聞くような内容ではないことを察したのだろう、オレンは軽く肩をすくめて話題を逸らすようなことはしなかった。


「まあ、本人がそういうんならいいけど……」


 不満げな表情は変わらないが、いささかトゲトゲしいオーラは消えているように感じる。

 オレンから目を離したナナカと僕の目が合う。

 微笑みから苦笑じみた笑みへ変わった彼女の表情で僕はナナカが気を使ってくれたのだと気付く。

 本当ならば僕が何とかするべきだったのだろうが、今回はそれに甘えさせてもらうことにする。

 僕はオレンの機嫌を少しでも良くさせるために冗談染みた声をだした。


「オレンはもう少し自信を持てばいいのにな」

「その言葉、そっくりそのままお前に返してやるよ」

「ええー。本当にオレンは強いよ。すっごい動き早いしさー。しかも男子の弱点でである……」

「とりあえず外へ出ようか」


 股間の話はもう御免である。

 僕はナナカの言葉を遮って、もと来た道を戻り始めた。


 オレンが自分の実力をきちんと評価できない理由の二つ目は……


 ――自分に自信が持てないから。


 そう考えている。


 昔と比べれば随分明るく感じるようになったが、根の部分は消えていないのではないだろう。

 彼は僕が自分のことを卑下しているといったけれど、卑下しているのは彼自身のことだと思う。

 多少、不安なことも残るがそこは僕が何とかフォローしていければいい。


「早く行こう。ナナカの旅支度しなきゃ」


 もう一度トオルたちの墓へ行こうかと一瞬だけ考えたけれど、ナナカやオレンがいる前で訪れるのは少し避けたい。

 からかわれるかもしれないし、何より同情した目を向けられるかもしれない。

 はっきり言って、今この三人の中で一番の戦力は僕だ。

 剣術に長けるオレンも、魔法の行使ありで試合をすれば僕には勝てない、と僕はみている。

 魔法と剣がぶつかれば圧倒的に有利なのは魔法のほうだ。

 二人に一番の戦力が過去のことを引きずっている子供だと思われてしまうのは癪であるだしね。


「ナナカの旅支度かぁ。小刀だけじゃ心配だし……武器はいるとして。他に、着替えとかもいるかな?」

「きゃー、オレン君変態ー」

「そういう意味じゃねえよっ!」


 後ろから歩いてくる二人を眺めながら笑顔が零れた。

 風が顔の右側を隠している青い髪の毛を巻き込もうとする。

 ――今度こそ、必ず守る。

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