銃・大砲・火薬
「こちらが新式銃でございますか」
ファストルフ将軍はエリナ女王から手渡されたマスケット銃を両手で受け取り、よく確認する。
「見たところ別段変わった様子はないようですが。重さも対して変化もありませんですし。おや。火縄はどこにかけるのですかな?」
銃というのは金属製の弾丸を火薬に火をつけ、撃ちだす武器のはずだ。
まぁ理屈の上では金属以外でも弾丸になるもの、例えば弓の矢がそうであるように人間の骨でも撃ちだす事ができるそうだが、この銃には火縄をつけるところがない。
そのファストルフの疑問に対し、エリナ女王はそう答えた。
「火縄など要りません。この新式銃は引き金引くと火打石が叩きつけられ、その火花で火薬に火がついて銃弾が撃ち出さされるのです」
「なんと!」
驚くべくことだ。これなら魔法使いが詠唱するように、いや。呪文を唱えることが不要なのだからこの新式マスケット銃は遥かに実践的な武器となる。
「他にも技術開発局から提案があり、試作品を幾つか造らせました」
「と言いますと?」
「こちらにあるのは小さな散弾を撃つタイプ。ただ、接近している状態でないと効果が薄く、そして相手が重装甲では無意味という結論が出ています。こちらは火炎の魔法を再現しようとしたもの。見事に失敗しました。威力がまったく足りません。そもそも雨の火でも使える銃を造ろうという初期目的から外れています。そして大砲を人間が抱えて撃てるように小型にしたもの。やはり失敗」
「どこら辺が失敗だったのですか?私には問題があるようにはおもえませんが」
自分の腕の腕くらいの太さはある大きな銃身の鉄砲を持ちながら、ファストルフ将軍は尋ねた。これなら人間の頭蓋骨くらいのサイズの鉄砲の弾が撃てるのではないだろうか。
「鎧はもちろん薄いレンガ壁を砕くくらいの威力は出せます。ただ、試射しましたら火薬の爆発の衝撃で持っていた兵士の骨が折れました」
ファストルフの問いに、エリナ女王はそう答えた。
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1980年代頃はファンタジー世界には火薬式の銃を登場させたはいけないという暗黙の了解が存在していた。
理由は銃器類は非常に殺傷力が高く、レザーアーマー如きではまず防御する事が不可能だからだ。
中世ヨーロッパ後期の騎士鎧はすべて重装甲型だし、日本の信長の鎧なども火縄銃で撃たれることを想定して設計され胴体部分に西洋鎧の技術を導入した鉄板を仕込んである。そうでなければ当たらなければどうということはないという理屈で布の服でよいという事になる。
かくして剣と鎧の騎士の時代は終了する。
中世後期の時点で「鉄の鎧は銃の前には無力」という認識が定着しつつあった。
それでもせめて胸ぐらいは護ろうと分厚い胸当てを身につけ、他の部分は軽装にした。
今の防弾チョッキに通じる発想かもしれない。
2010年代は事情が違うようだ。
変身した魔法少女が銃器を使って怪物と戦うアニメが何本も作られ、これが大変好評である。ただ、いずれも軽装な者がおおい。
クトゥルフ神話TRPGという日本でも比較的有名なゲームがある。異世界の神々(実際には宇宙からの侵略者)とプレイヤーが知恵と勇気と正気度を振り絞って戦うゲームだ。
このゲーム舞台設定が元々の世界設定が第一次大戦終了直後の1920年代となっているのだが、現在は2015。100年前と比較し銃器類の性能が想像できないほど向上しているため、例えば5、6人の勇気ある若者が一斉にショットガンを撃つと宇宙からの侵略者がミンチになる!アメリカのスーパーに行けばロケットランチャーだって購入できるだろう。これならどんな神話生物だろうと一発だ。
あ、でも英語で書かれた説明書を読まないと・・・。
いずれにせよ弾丸の入手の問題を除けばこれほど強力な武器はない。
『ネトゲ世界でデスゲーム』ならともかく、純粋に生物として生きる異世界のモンスターを倒して、その死骸から『ハンドガンの弾×10』を入手できるかどうかはちょっと疑問だ。弾丸を売ってくれる武器商人がいなければ無駄撃ちはしないことをお勧めする。
大砲はジャンヌダルクの時代には既に実用化されていた兵器である。ただ、この時代の大砲は鉛玉を撃ちだすだけで威力が弱く、投石機の方が城壁破壊能力が高かったそうだ。実用的な大砲の登場は大航海時代を待たないとならない。
海戦では通常の砲弾の他にブドウ弾という特殊な砲弾が用いられた。布袋の中に小さな10個ほどの砲弾が入っており、これが空中でばらけて目標に落ちる。
対人目的に使われた、ということだからおそらくは海賊などが用いたのだろう。守備の兵隊や船員だけを始末して船に乗り込み、お宝や食料を根こそぎ奪うのである。
火薬、爆薬は鉱山の工事。あるいは建築物の破壊などに使われる。その性質上ファミコン時代のコンピュータRPGの頃から洞窟をふさぐ岩を壊す手段などとしてしばしば登場する。
ノーベル賞の立案者ノーベルは火薬を使った建築工事の際事故が多かったので、それを安全にできるようダイナマイトを発明した。
だが、火をつけてしばらく放置して大爆発を起こすダイナマイトは戦争の道具として使われるようになった。
世の中に功績にあった人に賞を与えるよう遺言を残し、それがノーベル賞になったそうだ。
今日もどこかで冒険者はモンスターを爆薬で吹き飛ばし、『平和維持活動』を行っているのだろう。