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 マジノス迷宮にほど近いベルゲンの砦。

 月明かりも、星明りもない夜。砦の全景がはっきりとわかるほど明るくなっていた。


「しかしまぁよく練られた作戦だと思わねぇか?」


 たまたま寝床と飯を頂くために砦にいたジャックはその明りの出所を防壁の上から見つつ、隣にいるサーナに同意を求めた。


「作戦?これが?」


「単純だがそれだけに破り辛れぇ。ニシンのオッサンが好きそうな作戦だぜ」


「ニ、ニシン将軍が、ファストルフ様がここにおらっしゃるのですか?」


 一般兵が期待を込めてジャックに尋ねる。


「いんや。一足先に王都に帰っちまった」


 それを聞いて砦の守備隊の一般兵は酷く残念そうな顔になった。


「そうですか。ファストルフ様がいらっしゃればあんな竜あっという間に片づけてくださるのでしょうが・・・」


「竜は竜でもただの竜じゃないだろ。武器を握ったことのない素人でも一目でわかる」


「確かに。野生の竜はあんな恰好じゃありませんね」


 砦の前にいるのは四足の野良ドラゴンだ。魔法を使うとか、人語を解するとか、そのような知能は持ち合わせていないだろう。

 その野生のはずのドラゴンが、鋼鉄製の鎧に身を包み込み、砦の門扉に火炎を吹きかけていた。

 外門は既に半分溶けている。内門が破られるのも時間の問題だろう。


「犬を飼い馴らすように竜を飼い馴らし、それに鎧を着せた。これなら半端な弓矢は通じねぇ。後は口笛吹いて城や砦の門をぶち壊してこい。そう合図するだけだ。よく考えたじゃねぇか」

 飼い犬ならぬ飼い竜の御主人様の姿は見えない。いや。さっきから森の木々が不自然に揺れているので、相当数の魔王軍の兵士が伏せっているのは間違いないようだ。

 探すまでもなく、砦の門が破壊されれば、一斉になだれ込んでくるだろう。


「あたしが魔法でなんとかしようか?」


 サーナはジャックに提案した。


「それなんだが。おい守備兵の兄ちゃん」


「は、なんでしょうか」


「ロウソクと紐と長い棒を用意してくれ」


「?了解であります!」


 守備兵は一度階段を降りて通廊に行くと、すぐに戻ってきた。ロウソクと、紐と、長い棒と、火打石。


「気が効くじゃねぇか。階級を上げてやれるほど俺は偉くねぇけど、お前は出世するぜ?まぁ今晩生き延びれたらの話だけどな」


「はっ、ありがとうございます!」


 ジャックはロウソクを紐で棒にくくりつけると、火打石で火をつけた。

 そしてそれを物陰から高く突き出す。

 間もなくクッキーにわざわざ包丁を入れて斬るような音をして、ロウソクが割れた。


「なに?」


 ジャックは城壁の床に砕けたロウソクと、そのロウソクを砕いたであろう折れた矢の残骸を拾った。


「森の中にアーチャーが潜んでやがる。まぁ俺でもそうするな。魔法なりなんなりで、ドラゴンを攻撃しようとすると頭を矢でぶち抜くって寸法さ」


「じゃあ明りか、探知の魔法で弓兵の居場所を探しますか?」


「だから相手がそういうの使うように闇夜の晩に攻撃をしかけてきたんだろ。明るいのはドラゴンが火ぃ吹いている辺りだけだしな」


「しかしこのままでは砦の門が破られるのは確実です。近距離の相手には投石やブドウ弾を用いるのが定石ですが、鎧を装備したドラゴンが相手ではどれだけ役に立つかどうか。とりあえず就寝中の守備兵を全員起こし、武装させています。貴方方は食客ですので我々が砦内で魔軍の兵と戦っている間に脱出してください」


「・・・おめぇ。やっぱり出世すんぜ」


「そうですね。その代わりに砦の守備兵全員の墓を用意してください」


「ばぁーか。全員で脱出するんだよ。その砦の全員で」


「はっ?」


 ついに鋼鉄の鎧に身を固めた四足竜に、砦の門は破られた。森の中に潜んでいた魔軍の兵が雪崩れ込む。

 砦の中には備蓄用の食料として飼っていたのだろう。ニワトリだの豚だのの家畜で庭があふれかえっていた。一足先に門を壊して砦内に入っていた四足竜は豚を丸齧りにしている。


「うほっ。こいつはすげぇ!御馳走ってのは人間の街を略奪しないと手に入らないもんだとばかり思っていたぜ!」


「口を動かすより手を動かせ。てめぇの分を確保しとかねえあの飼いドラゴンに俺達の分まで全部食われちまうからな」


 砦内を逃げ回る家畜たちに魔軍の兵士達は次々と飛び掛かっていった。


「我ながら完璧な作戦だ。野生の竜に調教を施し、さらに防具を装備させたうえで人間の砦を攻撃させる。テストの結果も上々。この報告を上層部にすれば魔軍内部でも私の発言力も甚大な物となるだろう」


 砦から少し離れた場所で、陥落する砦内の喧騒を見つめる男がいた。おそらくは人間ではないのだろう。


「本当に凄い作戦ですねぇ。私なんかには思いもつきませんでしたよ!」


「当然だ。私は天才だからな」


「ならその天才様にひとついいかな?」


「なんだ。言ってみろ」


 天才様は胸に激痛を感じた。


「ゲ・・ギュ、ザマ?!!」


「乱戦中に斬りつけれたくなかったんだろうが、ここは仲間と一緒に砦の中に突っ込むべきだったな。そうすれば俺に殺されることもなかったのに」


 天才様は背中に長剣を突き刺され、絶命した。


「弓兵は?」


「もう始末した」


 サーナが黒こげになった死体を放り投げる。


「よし。砦内の家畜を奴らが食っている間にこいつらが乗ってきた馬を奪って逃げるぞ。もちろん全員でな」


「了解であります!」


_______________________________________________________________________


 砦とは、比較的小規模な城塞の事である。

 政治的舞台の場である王城や地方領主の居城に対し、他国の侵略やモンスターの襲撃に備え

国境や辺境地帯にされるために軍事的色彩が非常に強い。

 また、海賊や山賊といった武装強盗集団がその住処を要塞化し、海賊砦だの山賊砦だの、酷いときには「我らは神に選ばれた。異教徒の娘を捕えて奴隷として売り飛ばすのは神の教えを広めることなのだ」

などと言い出す始末だ。

 砦の目的は予想されうるであろう敵の攻撃を受け止め、防御し、反撃することにある。

 砦が造られる場所は大概は最前線であり、ほとんどの場合はそれなりの守備隊が常駐している。

 規模や用途、資金や工期などによって異なるが、砦自体の基本構造はどれも大体同じである。

 敵の攻撃を防ぐ防御施設と、兵士たちの居住施設がある。

 防御施設は城壁と見張り台。バリスタ、投石器、大砲などといった兵器。武器庫などが考えられる。武器防具を修理する鍛冶設備もあるかもしれない。

 居住施設としては兵舎、食料倉庫、家畜小屋、井戸などが考えられる。敵の襲撃がないときも長期間砦内で暮らすのだから、厨房もあればトイレも洗濯場もお風呂だってあるかもしれない。

 また敵に完全に包囲され籠城を余儀なくされた時に備え中庭に畑を用意して食料をある程度自足できるようにしているだろう。

 馬小屋には軍馬がおり、なんらかの異変が起きた際は援軍を要請に味方の城まで走るのである。

 砦の代表としてはやはり国境沿いの砦である。侵略があった際に真っ先に攻撃対象になる宿命があり、敵襲来の一方を中央を伝え、侵攻軍の歩みを一歩一秒でも遅らせる役目を担うことになる。

数万の兵を擁する巨大要塞が数時間も経たずに陥落することもあるし、

 王都の陰謀に巻き込まれ僻地の砦に送られた王子が飲んだくれの司令官や避難民と一緒に紛れ込んだ敵国の王女や口封じに父親を殺された敵国の密偵の娘と協力してオンボロ砦を守りつつ次々襲来する帝国軍最強の魔導士を打ち破っていくということもあるだろう。

 冒険の舞台としてはまず街の代わりに使われる場合がある。

 寝る場所、装備を整える場所などが一通り揃っており、昼夜を問わず見張りの兵士が警戒している。

 ここでぐっすり眠り、体を休め、気力体力を充実させてから旅の続きをするのがいいだろう。

 また、冒険者が砦にいる時に敵襲があれば、砦の防衛に協力して欲しいと頼まれるかもしれない。

 襲来する敵兵を大砲などのあらかじめ用意された設備で吹き飛ばしながら防戦するのである。

 あるいは難攻不落の敵の砦に潜入し、将軍を暗殺するという任務を受けるということおあるかもしれない。

 もし貴方が冒険者ならば、そういう時はとりあえず木箱を探すといい。

 木箱をかぶり、その中に隠れれば哨戒中の敵兵に怪しまれずに砦内を探索できるだろう。

 なお基本構造としては『想定しうる』その世界、地域での戦闘での対応するのが前提である。

 山一つ吹き飛ばす攻撃魔法をバンバン撃ちまくる魔法使いが大量にいるような世界では、

 砦建設も構造もかなり違ってくると追記しておく。

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