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学習施設

「大変だぁーーー!!サク!!」


 アミーラがかなり慌てた様子でお店に戻ってきた。

 はて。今日は自分の通う小学校に授業を受けに行くと出かけたはずだったが。


「どうしたのアミーラさん。小学校がテロリストの襲撃でも受けたのかい?」


 作治は店の陳列棚に商品を補充しながらアミーラに尋ねた。


「テロリスト?そんななまっちょろいもんではないぞおぉっ!!!」


「じゃあなに?」


「”魔法学科の生徒”が小学校を襲撃してきたのだっ!!」


「はっ?」


 作治には、アミーラの言っている言葉の意味がよくわからなかった。


「俺達は転生チーター様だ。ヒャッハー!!」


「魔法学科の生徒様だぜ。イェー!!」


「金だ金を持ってこい!十億万円だぁ!!」


「おい、ここは中世ヨーロッパ風異世界だから金貨しか持ってこれねぇぞ?」


「あ、そうか。ちっ、めんどうくさい連中だぜ。じゃあ金貨でいい。金貨だ金貨だ。金貨を持ってこいっ!!」


「逃走用の車も忘れるなよ。発信機なんかつけるんじゃねーぞっ?!!」


「おい。ここは中世ヨーロッパ風異世界だから自動車なんてねーぞ?それに発信機の心配もいらねぇって」


「あ、そうか。じゃあ馬車だ。馬を用意しろ!サラブレッドだっ!ポニーじゃねぇぞお!!」


 アミーラの通う小学校の教室のひとつには魔法学科の制服を見に包んだやたらハイテンションな連中がいた。


「なんなんだあいつらは・・・」


 作治は思わず呟く。

 少し街の警備隊が盾を構えて整列していた。


「君たちはー、完全に包囲されているー」

「抵抗は無意味だー子供達を大人しく解放しろー」


「ウルセー税金ドロボードモガーッ!!!」


 赤熱球体が十ばかりふらついた軌道で警備隊に向かって飛んでいき、兵士達を続々吹き飛ばす。


「やりたい放題じゃないか」


「サク。事情を聴いてきたぞ!」


 アミーラが吹き飛ばされてもまだ残存部隊多い警備隊を掻き分け作治に駆け寄る。


「奴らは魔法学科の生徒らしい。なんでも学校の勉強が大嫌いで、テストを受けるのが嫌で、それでもダラダラした学生生活が大好きで、それを教員から『そんな事では魔王征伐軍の勇士どころか街の警備兵にすら取り立てもらえんぞ』と注意されたことに腹をたて、ああして暴れているとのことだ」


「なんだそれは」


 攻撃魔法を受けてなお戦闘の意思を捨てぬ勇猛果敢な街の警備兵に対し、今度は女性の声で警告の声があった。


「みなさーん!にげてくださーい!!この人たちはとっても狂暴でーす!!街の兵隊さんたちを殺しても全然心が痛まないこの世の人間とは思えないような人たちなんでーす!!だからきてはダメでーす!!!」


「あれ。マルレーネさんじゃね?」


「そのようだな」


「お知り合いですか?」


 警備兵の一人が作治達に尋ねてきた。


「ものすっごく」


「大変勇気あふれる女性です。人質として命の危険を晒されている身の上でありながら、子供達を逃がし、自分は犯人グループを押しとどめるためにその場に残るとは。一体どのような素性の御令嬢なのでしょうか?」


「どっかの商家の女中らしいぞ」


「しかしどうしてマルレーネさんが小学校にいて、犯人グループに人質として拉致監禁されているんだ?」


「そんなの当人に聞いてみればよかろう。おーいマルレーネーー」


 アミーラはいつもどおりに気楽に声をかけた。


「なぜそのような子悪党どもに捕まっておるのだー?」


「子悪党共じゃねぇクソガキィ!!」


「そうだ!俺達は泣く子も黙る魔法学科の奨学金生様よ!!」


「無事魔法学科を卒業した暁には、奨学金なんぞ踏み倒してくれるわっ!!」


「うあぁ。碌でもない連中だなあ」


 作治は苦笑する。


「この人たち街で私とすれ違った時に『ムシャクシャしていた。誰でもよかった。街中で爆破魔法による無差別破壊テロをしたかった』って言ってたんです。だからそんな事をするくらいなら小学校に立てこもって身代金を要求した方がよいと私が説得したんです」


 説得に応じる気配のない魔法学科の暴走生の代わりにマルレーネさんが事情を教えてくれた。


「なるほど。よくわかった」


「なるほど。よくわかった。じゃないでしょ!小学校を危険に晒してどうするんでするんか?!」


「人の命を金で買えるなら、安いものだ。私の主から教わりました!」


「ははよくわかってるじゃねぇか」


 小学校に立てこもり続ける魔法学科の生徒がマルレーネの胸倉を掴んだ。


「ついでにこの姉ちゃんもいただくぜ!ヒャァー!」


「ああ!何をっ!!」


 力任せに引きちぎられ、絹製の女中服が破れる。


「四十秒で用意しな!でなけりゃこの姉ちゃんが産まれてから今まで大事に守ってきたもんを失う事になるぜぇ!!」


「ヒャア!!」


「あのう。私が産まれてから大事に守ってきたものってなんですか?」


 マルレーネは小学校に立てこもる魔法学科の生徒達に本気の表情で聞いた。


「え?そりゃ大事に守れて一個しかねぇだろ?」


 マルレーネは少し考える。


「産まれてから大事に守って着た者。大事に守ってきた者。ああ。御主人様のことですね」


 マルレーネはようやく合点したようだ。


「御主人様?男か?」


「いえ私と同じくらいの女性の方ですが」


「ならそいつもいただずぇ!!」


「ヒャア!頂きだぁ!!!」


「お前らいい加減にしろ!」


 作治は義憤にかられ、魔法学科の生徒達に向かって右の拳を出しながら話術サイドで説得を試みる。


「てめぇら何のための魔法学科に入ったんだよ?物語の主人公みたいなカッコイイ英雄になるためじゃなかったのかよ?お前らのやっていること。それが主人公のやるべきことかよ?!いい加減目を覚ませ!この世界の主人公になれよ!さぁはじめるん」


 赤熱球体が作治を吹き飛ばす。


「だ・・げ・・・」


「サク様!」


「不甲斐ないのう。所詮は三等民族か」


 マルレーネは真剣に、アミーラは左程心配なさそうに声を出す。そして作治を足で踏む。

 あ、痛みが引いていく。ちゃんと治癒魔法かけてくれるんだ。優しいなぁ。優しくて涙が出てくるぜぇ。


「残念だったなあ!物語の主人公になれるのはそれに相応しい力を持った者だけだぁ!」


「俺達には力がある!魔法学科の奨学生の俺達こそが主人公だぁ!」


「主役気取りは呪文無効化くらいできてからにするんだな!!」


「なら、私が主役気取りをしても構わんかな?」


 魔法学科の生徒達の背後に、バンディトメイルを着込んだ髭のガッチリとした大男が立っていた。

 髭の大男はその場にいた誰の目にもバンデット(山賊)に見えた。


「なんだぁてめぇは?」


「よく俺達の背後までこそこそ回りこめたな筋肉ダルマ。だがどうみても物語の序盤で主人公様に倒されている脇役風情に出番はねぇんだよ!!」


「そうかね?ではやってみたまえ」


 バンデットメイルの大男は魔法学科の生徒達にそう促した。


「死ね!」


 赤熱球体が髭の大男に迫る。

 大男は眼前にその破壊をもたらす魔力の球体を。蹴った。


「へっ?」


 蹴り飛ばされた球体はそのまま魔術を行使した魔法学科の生徒を直撃。黒い人型の物体が出来上がる。


「な、何者だ。てめぇは?!!」


「そうだな。物語の序盤で主役に倒される脇役でないことは確かだよ」


「舐めるなよ筋肉野郎!」


「そういう君は脂肪野郎ではないかな?」


「なんだとウワナンダコデハタスケテグベ」


「ひ、ヒイイイイ!!!!」


 立てこもり犯のうちの一人が突如巨大な脂肪の塊となる。オークよりも縦に。横に。多く。大きく。太く。


「先ほど背後に回った際に魔力視覚具現化拳を打たせてもらった」


「ま、魔力視覚具現化拳?なんだそれは?!」


「己の身に余る魔力がすべて脂肪へと変化する。まぁ一時的な物だ。しばらくすれば元に戻るし命に別状はない」


 バンディトメイルの大男は一歩前に出た。


「ち、近づくんじゃねえ!この女は人質だぞ?どうなってもいいのか!!」


「女?抱いているのは君の友人だぞ」


「お?」


 いつの間にか犯人グループの最後の一人は、マルレーネではなく脂肪人間となった仲間の最後の一人を大事そうに抱きしめていた。


「なにいいいいいいいい!!!!!!!!!」


「タチュケテクレエエエマイフレエンンジョオオオオオオ」


「重い!!!!潰れるぅうう!!!!」


「友情人命尊重拳。友との絆を大切にしたり、人の命を大事にしたくなるのだ。まぁこれも一時的な物なので悪人を更生させるのには使えん。さて」


 バンディトメイルの大男はマルレーネに話しかけた。


「余計なお世話であったかな?それとも御友人に助けてもらった方がよかったかな?」


「いえ。ありがとうございます。助かりました」


「とにかく御身が御無事でなにより。それにしても最近の魔法学科の生徒ときたらろくでもないやつばかりだな。街中で攻撃魔法を炸裂させて暴れまわる事しか頭にない。これでは国の治安が悪化するばかりだ」


「そのようなお話は我が主の前でしただきたいのですが」


「そうであるな。ではそのように御注進いたそう」

_________________________________


 ひとくちにファンタジー世界といっても、その文化、技術レベルの差異は非常に大きい。

 古代ローマが中世ヨーロッパのほとんど都市より進んだ文化を築いていたのは有名な話だし、一見するとSF風ディストピア世界に見えてその世界に住む人々が大幅に退化していることはよくあることだ。

 そういった文明レベルを決めるのが教育機関である。

 子供達がまず最初に学問を受ける場所としては幼年学校、小学校的なものが思い浮かぶ。読み書き算盤を教わる場所であるが、余程文化レベルの発達した社会でなければ学校という概念すら存在しないだろう。アフリカ貧困国の児童労働がそれを証明している。

 ファンタジー世界で学校というと、まず魔法学校が思い浮かぶ。しかしファンタジー世界ではやたらと多い魔法学校ではあるものの、現実の中世ヨーロッパではまともな学校は産業革命までなかった。

 国民全体の品位を決め兼ねない重要な要素にも関わらず、ファンタジー世界では軽視されている事が多いようだ。宗教施設で子供たちに読み書きを教えてくれていればマシと考えるべきであり、ほとんどの人々は文盲、つまり文字の読み書きができない事が多い。

 ある有名なファンタジー作品では、魔法使いのエリートを育てるという学校が登場してたが、教員もろくに存在しておらず、まともなカリキュラムもなく、そのくせプライドだけは異常に高い魔法学科の生徒たちが街中で攻撃魔法を撃ちまくるという話だった。

 道徳教育も集団行動も帝王学も学ばない彼らはそのままの状態で社会の上層部に君臨するのであろう。一般市民がどのような生活が強いられるのか。私はそんな恐ろしい世界には住みたくないものだ。

 学校とは違うが、大工や鍛冶屋ならば職人の弟子になるのが一般的だろう。住み込みで働きながら親方の技術を学ぶのである。

 改めて魔法学科に戻すと、完全に冒険者養成所になっている節がある。授業内容は攻撃魔法が主体であり、体育の授業は剣術が主であり、実技試験と称してモンスター討伐を行う。

 日本の反戦団体や人よりクジラの命が大事な自然保護団体が見たら激怒しそうな組織でしかない。ただ、行政である王国がこういう魔法学科の存在を容認しているということは、その国が臨戦状態若しくは継戦状態にあると考えて間違いないだろう。

 話を別方向に向けよう。イスラム文化圏ではどうだったのだろうか。

 預言者ムハンマドの時代には教育組織と呼べるものはなかった。子供たちは両親からラクダの乗り方を世話、テントの扱い方を教わり、オアシスに住む者はナツメヤシの栽培方法、商売の仕方を教わる。少女たちは母親から家事を教わり、十代半ばで嫁いでいく。

 文字自体は存在したが、大部分の者は文盲であった。

 けれどムハンマド逝去して数年もするとコーランの公認テキストを創るべしという運動が起こり、二十五年ほどで完成する。方言の差はあれど、コーランの確立と共にアラビア語の定着、書写の方法が広まっていった。

 富裕層は子供たちに家庭教師をつけ、馬術、水泳、礼儀作法や武芸も教えた。一般の子供たちは商店や個人の住宅、モスクなどを間借りし、算術、読み書き、コーランの教え(これないとイスラムじゃないよ)などを教えた。

 教師が聖地メッカの方を向き、(ここんところもイスラム式)そして生徒が教師の方に向かって授業を受ける。このような寺子屋形式の学校がイスラム世界全体に広まるまで八世紀中ごろまで時間がかかってしまったという。

 ヨーロッパ?産業革命に至るまでまともな学校はなかったけどそれが何か?

 またこの時代のイスラム教師は複数の学校を掛け持ちする教師というのは珍しくなく、広大な砂漠をロバに乗って、三千人の生徒にコーランの教えを授けたという教師もいたらしい。おそらくは美しい魔法使いを妻にめとり、たまに砂漠で遭遇する盗賊や十字軍の兵士を素手で殴り倒しがら子供たちに読み書きを教える。そんな教師だったのだろう。

 そういえば日本の創作ファンタジー世界には魔法学科の教師が足りないから学校の建物だけ造って生徒に延々自習させているライトノベルがよくある。

 国民の税金を浪費してコンクリートの入れ物だけ造るのはアフリカの建物だけ造って後の面倒は見ないテレビ局の御涙頂戴番組と同レベルと言えよう。

 そんなお金があるのならすぐ近くの人々に手を差し伸べてもらいたいものである。

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