広場
「目覚めるのだ。目覚めるのだ。妾の可愛いサクよ」
自室の鍵を勝手に開けて入ってきたアミーラに、作治は起こされた。
「まだ太陽も明けきってないじゃないか・・・」
「いいから早く着替えて降りてくるのだ。早くしないと間に合わなくなっても知らんぞぉ?」
一体何をそんなに急いでいるのか。
事情はまったくわからないが、作治は服を着替え、アミーラについていくことにした。
案内された先は、街の広場であった。
日の上がる前だというのに、多くの人が集まっている。
子供の姿が多いが、大人も見られる。大工職っぽい筋肉質の男性。しわしわの御婆さん。
パッショリさんやマルレーネさんもいる。
一体何が始まるというのか。
「アミーラさんおはようございます」
「うむ。おはようパッショリ」
「皆さまおはようございます」
「お、おはようございます」
とりあえず朝の挨拶を返す作治。
すると広場に響き渡る声があった。
「詩人体操はじめー」
その声と共にオルガンを弾く女性が広場の中心部にいた。
「腕を回しまーす。そとまわーし。うちまわーし。肘を伸ばして。しっかりと」
するとどうだろう。広場にいた民衆が、みなオルガンの演奏に合わせて、一斉に体を動かし始めたではないか。
「体をまわしてねじるうんどうー。最初はみぎにー。次はひだりー」
子供も大人も。男も女も。老いも若きも。当然アミーラさんやパッショリさん達もである。
「足を開いて斜め下へ。」
「み、みんな一体何をしているんだ??!!」
「ふ、どうやらニホンなどという三等国家には詩人体操がないらしいなっ!!」
「詩人体操だぁ?!!」
「終わったら説明してやろう。とりあえず皆に合わせて体を動かせ」
「軽くジャンプをしながら両手を開いてくださーい」
やむを得ず作治も体を動かし、詩人体操とやらに参加した。
「最後は深呼吸ーー」
詩人体操とやらが終わると、大人たちは徐々に去っていく。そして子供たちは一列に並び始めた。
「一体なんだ?この詩人体操ってのは??」
「五十年前、ニホン人のタナカ・ショーイがこの地に来た時に広めたそうですよ」
パッショリがそう説明した。
「ニホン人がっ!!?」
「ええ。毎朝こうやって体を軽く動かすことで、オークにも負けない体が出来上がるとかなんとか。ただ、子供のうちから毎日やるんで、私のように大人になっても習慣で朝の体操に参加する人もいますがね」
「というわけで妾は行ってくるぞ」
アミーラはフランドル衣装のポケットから、一枚の紙きれを取り出して言った。
「なにそれ?」
「体操がんばろうねカードだっ!毎朝詩人体操に参加するとスタンプを一個押してもらえるのだ。三十個集めると果物とか、お菓子とかに交換してもらえるのだぞ!どうだ、うらやましかろうぅ!!」
「そのがんばろうねカードを貰えるのは小学生以下の子供だけなんですよね。アミーラさん」
「まったく、小学生は最高だのうぅ!」
アミーラはマルレーネにそう返すと、スタンプを押して貰いにオルガンを弾いていた尼僧の元に走って行った。
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広場とは、街や村の中心部に位置する公共の空き地、空間の事である。
大きな街では噴水、小さな村では生活用水を提供する井戸を中心としてそれなりの空間を置いて、家が建っている。馬車などの交通の邪魔にならないように、あるいは井戸水を組むために適度なスペースを確保するためである。
それなりの空間があるので、必然的に情報伝達の場となる。
洗濯物をしながら主婦達が取り止めのない噂話をしている光景をみることができるだろう。
また、多くの人が行き交うので、領主や国王などの統治者が立札を立てたり、役人がオフレコならぬお布令書を読み上げることもあるだろう。
「昨今フランベルジュと名乗る盗賊団が出没し、領内を荒らしまわっておる。首領を討伐し、確たる証を持ち帰った者は金貨壱千枚の報奨金を取らす。勿論生死は問わずである。皆の者よおく覚えておくように」
こんな感じだろう。掲示板には賞金首の人相書き(ワンピースに出てくるような)が張られていて、冒険者達が食い入るように見ているだろう。
一般市民には賞金首など関係ない話なので、広場の使い方は少し違う。
普段は市場や祭りの会場として使われる。常設の店と違い、週一、あるいは季節ごとに行われる。
露天商達が木の棒と布地でできた簡単な屋根を造り、簡単な店が大量の店が瞬時に出来上がる。
地方の産物を売る店、珍しい魔法の品だと言ってインチキなガラクタを売りつける店、万引きやスリ、正体は異国のスパイな大道芸人。そういう者達がごちゃ混ぜに歩き回るのだ。




