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命知らずは嗤う

またもやお久しぶりです

 ふっ、と溜め息が漏れた。

 同時に空気が変わる。


 フェイはそれを無視して、グラスに口を付けた。



「フェイ」


 ひどく傲岸な声が聞こえる。

 ちらりと視線のみをそちらに向ける。口はグラスを齧ったまま。

 店主の作るつまみの匂いに触発されてか、空っぽの胃がキリリと痛んだ。


「フェイ、我に二度言わせるか」


 視線の先では、不愉快そうに眉を寄せたウィ・ザルドがこちらを睨んでいる。

 屋内だというのに、微風が吹いていた。

 魔術師の髪がさわりと揺らめく。

 ちり、とうなじが粟立つ。店主の視線が鋭くなったのが目の端に映った。

 背後に感じていた小蠅のような殺気が萎縮したように消えていき、かわりに好奇心や警戒、愉悦を含んだ視線がいくつも向けられるのが分かる。

 何だ?

 揉め事か?

 やるか?

 殺るのか?

 やれ。

 殺れ!

 そんな空気が当たり前のように伝わってくる、それはそうだ。暗殺者ギルドの受付で酒を呑むなんて連中が平穏を好む筈がない。

 憩いの場として、あるいは気を抜く為の場として酒場に行きたい奴なんかが、殺しを生業とする者の集う場所で酒を呑むなんてするわけがないのだ。

 彼らは身を切るようなスリルを望んでいる。

 例えそれで己が死のうとも、それがどうしたというのだ?

 死は隣人だ、今更恐れるべくもない。

 さあ、

 

 殺れ! 



——————————————————————ガンッ!!







「おい、フェイ。カウンターに足を乗せんな」




「ウルサイおっさんね。依頼人とお話中よ、黙ってるいいね」





===




 ようやく商談に入りやがったか。

 二人から距離をとりながら、店主は内心肩をすくめた。

 ウィ・ザルドはギルドで有数の魔法使いだ、フェイとの実力差は比べるのも馬鹿らしい程。

 そして力を振るうのに何の躊躇いもない——ウィ・ザルド相手にこ狡く稼ごうとして、物言わぬ肉塊になった人間は少なくない。

 己を侮った者には情けも容赦もなく、あらゆる手段で洗いざらい情報を吐かせ、放逐する。放逐される頃には、その人間はもはや肉体か精神かのどちらかが確実に死んでいる。

 彼について少しでも調べればすぐに分かるその事実を、当然ながらフェイは知っている。

 人間を人間とも思わぬ言動はあからさまだ。

 そんな相手に、フェイはほぼ毎回、商談をゴネるのである。

 それがフェイのやり方だと言うならいいだろう、地雷原でタップダンスを踊るようなイカレた馬鹿を止めはしない。


 ――――――商談の場が、この酒場でさえなければ。


 フェイがここに常駐しているからというのが原因だろうが、毎回毎回巻き添えにすんじゃねえ馬鹿野郎、というのが店主の偽らざる気持ちである。

 しかも高確率で店主の目の前で揉め始める為、度々不穏な殺気に晒される。なんたってゼロ距離だ。魔法使いがプッツンいけば、店共々巻き込まれるのは確実である。


(毎回脅されてんのに懲りねぇ奴だ)


 とはいえ、フェイが全く考えなしにゴネているだけではないのは分かっている。

 意外なことであるが、ウィ・ザルドはこれでいてかなり気が長い。

 ――もし、彼が短気であったならば、どうなっているだろうか。


 彼の性格からして、世界のありとあらゆる情報機関、情報屋は軒並み彼の襲撃を受けていたことだろう。

 かつ各王国の宝物庫は荒らされ、国宝は持ち去られ、歴史的な遺跡は破壊されていたであろうことは想像に難くない。

 そして確実に、全世界的な高額賞金首になっていたに違いない。


 その辺見極めているのか、フェイが商談を始めるのはいつもギリギリだ。綱渡りを好む性質にあるらしい。

 まったくどいつもこいつもろくでもねえ野郎どもだ。




 無言でグラスを磨く店主の耳に、入り口の扉の開閉する音が聞こえた。

 さっと集まる視線の中心。幽霊のように気配の希薄な、古びたドレスの女が入ってくる。

 折れそうに細いその体つきは、場違いと言えば場違い。だがふわふわとしたその足取りは臆した様子もない。

 女は店主の前に来ると、にこりと笑って消え入りそうなか細い声を上げた。


「お久しぶりですわね、親爺さま」

「誰かと思えばレスじゃねえか。珍しいな」

「ええ、実は、宴会を開くので、お部屋を貸して欲しいんですの」

「ああ、構わねえが、何部屋使うんだ?」

「そうですわね……階全部貸し切りでよろしいかしら」

「……全部?貸し切りたァ、……豪勢だな?」


 儚く微笑む女の、全体に色褪せた雰囲気の中——首飾りだけが、妙にギラついて見える。


「【神官狩り】が大変愉快に終わりましたので、皆でお祝いする事にしましたの」


ツクモガミ連合の面々、全員出席しますのよ。


 百鬼夜行の訪れをこともなげに告げた女を見て、こりゃア大変だ、と呟いた。



ウィ・ザルド:

ギルド有数の魔法使いだが、他の魔法使い曰く魔法に酷似しているが魔法ではないとの事。

傾国の美貌を持ち、冷酷かつ大変尊大な性格をしている。

過激で手段を選ばないが、意外にも気は長い方。

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