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あいつとはその日から仲良しだ。あいつがどんな人間なのかも大体は知っている。音楽好きって事は話さなくたって分かる。しかも、上辺だけかどうかって事も俺には嗅ぎ分けられる。
けれどバンドを組もうとしているとは驚いた。しかもロックナイン? 目指すのは面白いけど、あいつらしいとは思えない。
あいつは一人がよく似合う。楽器を抱えてステージのど真ん中、スポットライトを独り占め。誰にも邪魔をされずに一人の世界。俺は今でも、その光景を求めている。
メンバー探しをしている事は知っていた。俺なんて眼中にない事も分かっていた。俺の前であいつは、音楽の話をしない。小説と映画、それから女と酒の話だ。ひねくれた大学生か、もしくは定年間際のオッちゃんのようだよな。
ずっと音楽が好きだった。当然ロックナインも好んで聴いている。あいつとも出会ったその日からそんな話がしたかった。
あいつは勘がいい。俺が音楽の話をしそうになると、そっと別の話題へ流れを作る。俺は馬鹿じゃない。流れに身をまかす。逆らう鯉にはなれない。恋はしているけど、それはあくまでも人間同士として。そこに性的感情は含まれない。
話は飛ぶ。鯉は美味しいよな。田舎に行くとばあちゃんが味噌汁を作ってくれた。骨は多いけれど味は抜群だ。あれはきっと、流れに逆らう度胸と体力の賜物だろう。俺にそんな度胸は必要ない。誰かに食べられる必要なんてないから当然だ。
音楽の話を避けているのはどうでもいい。他の話題だけでも楽しかったし、時間が足りない程だ。けど俺以外の奴と音楽の話をしているのを知った時は怒りだけでなく殺意さえ覚えた。
生憎と俺は馬鹿じゃない。それが良かったんだ。殺したり殴りかかったりはしない。感情のままに動くには、俺の感情は幼稚過ぎる。あいつのようにはなれないんだ。
俺は考えたよ。あいつが俺を誘うには、俺から直接音楽の話をしてはいけない。外から偶然耳にする。その方が断然興味を抱く筈だ。
幸いな事に、俺にはあいつ以外の友達がいる。音楽の話だって普通にしている。一緒にライヴにも行っている。バンドを組もうっていう話もある。
あいつは八方美人だけれど、友達は一人きり。俺以外であいつを愛せる奴はいない。きっと、家族でさえあいつを理解するのは難しい。
俺だって心は揺れる。音楽好きは女好きだ。バンドでモテたいっていう願望は消える事がない。多くの誘いの中から、本気で活動しそうな奴らを選んだ。