a man called brother
ドガーーーンッ
あの二人が向かった先からとんでもない爆撃音が聞こえた。
「大丈夫かな……あの二人は?」
俺が心配そうな声を出すと同時に何かが飛んでくる。
ヒュンッ
「おっと? なんだ? 石?」
「なんだじゃねぇよこの腰巾着のFランク野郎が!」
声の主は先ほど俺に絡んできた集団のリーダーらしき男。
この男が俺の開幕戦の相手である。
「てめぇ……さっきはよくもやってくれたなぁ!」
「兄貴ィ! そんな奴ぶっ殺してやってください!」
「そうだそうだあああ! そんな氷帝の腰巾着やっちまってください!」
「くそっ! 氷歌ちゃんの腰巾着とか羨ましいぞコンチクショーがっ!!」
罵声の中、一部だけおかしな奴がいたが気にしないでおこう。
「おい腰巾着野郎……これを見ろ」
男はそう言うと、自身の腕を出し、さっきまで無かった痣を俺に見せる。
「さっきそんなタトゥーなんかありましたっけ?」
「お前が握った手の痕だ! おかげでコーヒー飲んでたらこぼしてこんな恥ずかしい場所にこぼしちまったじゃねぇか⁈」
こぼしてしまった場所を見ると、大事な場所にこぼしていた。
つか、なんで俺のせいでこぼしたんだ?
「てめぇと別れた後、手がプルプルと震えてコーヒーを上手く飲めなかったんだ……」
「逆の手で飲めばいいだろうが⁈」
「俺は利き手でしかコーヒーは飲まないって決めてんだよ!」
「なんだよその頑固な性格は⁈」
「うるせぇえええ! 人の拘りをバカにすんじゃねえええ!!」
「兄貴は繊細なお方なんだ!」
「そうだそうだ! 兄貴はなぁ右手出してくださいって言っても、『おうっ! こっちだな』 ……って、自信満々に左手を出す人なんだ!」
「そうそう! カラーボックス作る時、ちゃんと説明書を見ているのに、絶対に部品が何個か残っちゃうほど集中力が半端ねーんだ!」
取り巻き達が兄貴と呼ぶ男の情報をくれるが、傍から見たらアホじゃんと思うかもしれない……だが、俺は逆に親近感が湧いた。
俺もその類の事をやった事があるからだ。
だから馬鹿にはできない。
俺がうんうんと頷いていると、上からもの凄い殺気が降りかかる。
俺はビクッとなり、恐る恐る上を見ると氷の様に冷たい眼差しで俺を見ていた。
俺は一瞬で正気に戻る。
俺は冷静になり、ふと疑問が生まれる。
「なぁ、あんた……なんでそんな俺に突っかかってくるんだ? ただ俺が氷歌に推薦されてここに来た事以外に、あんたから違う何かかが俺に対して怒ってるのが伝わってくるんだけど」
俺がそう言うと、男は俺を強く睨む。
「……お前と氷歌ちゃんは付き合っているのか?」
「……はぁ? 今何って言った?」
俺が聞き直すと、男の体がフルフルと震えだす。
そして――
「お前と氷歌ちゃんは付き合っているのかと聞いているんだああああああああああああ――!!!」
「なっ⁈」
俺は男の声で後ずさる。
男の切実で、顔を赤らめながらも……恥ずかしさで震えながらも勇気が籠った声は俺の心を打ちぬ――
「抜くかああああああああああああああ――!!」
俺は自身が生きてきた中で、こんなに大きな声が出るのかと、言い終えてから驚いたのであった。




