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ヒメノとの会談

俺が周囲のハーピー達の様子を困惑しながら見回していると、真横にいるヒメノと目が合った。

お互いの鼻先が接してしまうほどの近さだ。

すぐにでも距離を開けなければと思ったはずなのにうかつに動けば触れてしまいそうな近さとヒメノの真紅の瞳に動きを封じられ、気付けば瞳を見つめ合ってしまっていた。

すると恥じらいからか、ヒメノの頬にほんのりと赤みがさす。


「あ…も、申し訳ない。」


ヒメノは短くそう言うと距離を取る。

それに続いて銃を持っていたハーピーも含め、他のハーピー達も定位置へと戻っていった。

もう少し銃をいじってみたかったのだが、わがままを言う訳にもいかないのでおとなしく見送った。


「確認は取れました。

貴方がヒトである以上、我々は受け継いできた義務と責任を果たさなければなりません。」


ヒメノは力の入った瞳で話をする。

義務と責任とはなんだ?

まさか彼らにとってヒトとは排除すべき存在だったのか?

俺は助けを求めるように鈴音を見るが、彼女はそれに気づいてもこちらを向いて前と変わらぬ微笑みを返してくるだけだ。

ハーピー達は一体何をするつもりだ?


「一体…何をするんですか?」


俺は緊張で声が震えそうになるのを必死に隠しながらヒメノに問いかけた。


「小田島様にとって悪い話ではありません。

簡単に言えば、私の連隊はあなたの味方になるということです。」


え?

俺を助けてくれるのか?

俺がヒトであるというだけで?


「我々が存在しているのはヒトの命令に従い、ヒトを守り、ヒトのために戦うためです。

今もこの基地を守っているのも1000年前に施設を守れと命令を受けたから。

そしてその命令は今も健在です。

我々が続いていく限り我々の存在意義は変わりません。

ですから、我々はヒトである小田島様の命令に従い、守り、戦います。

それが我々の義務であり責任です。」


呆気に取られてしまった。

急に味方になると言い始めたかと思えば、俺の命令に従い戦いすらいとわないなんて。

そんなことを言われてもはっきり言って困ってしまう。

頼もしいのは確かだ。

しかし、俺はこんな大勢に命令を出したりまとめたりするような器じゃない。

そんな責任は持てないし、持ちたくない。


「い、いや、ヒメノさん、ありがたいお話ですが私には荷が重すぎます。

私は軍人でも政治家でもないですから貴方たちみたいに立派な軍人さんたちに命令なんてできませんよ。

ですからお友達というか、友好的に接していただけるだけで十分です。」


まさに逃げの一手だ。

だがそれでいい、俺にはお似合いだ。


「小田島様、ご安心ください。

何も私のように直接指揮や組織の維持をお願いしたりは致しません。

組織の維持や作戦の立案、実行は我々が行います。

ですからあなたはただ大まかな命令や希望を言って下さればよいのです。

勿論できないことや困難なこともありますがそれは逐次我々の意見を具申させていただきますし、最終的には連隊の最高責任者であるわたくしの責任で判断いたします。

残念ながらその結果実現できないこともあるかもしれませんが、それについてはご了承いただきたい。」


ヒメノは実にスラスラと当たり前のように話をする。

しかし、その内容はあまりに俺に有利に過ぎる内容だ。

要約すれば、雑務は全てヒメノが引き受け、俺は口先だけで命令をするだけで良い。

しかも責任はヒメノが持つというのだ。

俺の逃げ道は塞がれたが、これではそもそも逃げる選択をする理由となったデメリットを全て取り払ったような条件だ。

実際にどんなことまでしてくれるのかはわからないが、それにしても破格だろう。

ヒトであることはそんな条件を持ち出すほどの価値があるというのか?


「なぜ、そこまでしてくれるんですか?

自分で言うのもなんですが、私がそれに値する人間だとは思えません。」


俺はヒメノに訝しむような目をしながらそう問いかけた。

するとヒメノは一瞬まるで喉に小骨でも刺さったかのようなわずかな不快感を示す表情をした。


「小田島様がヒトだからです。

貴方にとってはおかしく見えるかもしれませんが我々にはそれだけで十分な理由です。」


「そう、ですか…。」


俺はそう言ってこの問答を切り上げることにした。

これ以上問い詰めても良いことはないだろう。

なんにしてもハーピー達が味方に付くことは良いことなのだ。

変に溝を作ることもない。


「そうだ、これからは小田島様のことを閣下とお呼びしましょう。

連隊の上位にいるのですから将官待遇が適切ですから。」


ヒメノが心なしか目を輝かせながらそんなことを提案してくる。

いやいや、待ってくれ、俺は軍人じゃないし大して学もないんだからそんな呼び方はやめてくれ。

身の丈に合わない称号なんてもはや嫌がらせだろう。


「閣下というのはちょっと恥ずかしいというか、呼ばれなれていないので今まで通りでお願いできませんか?」


「いえ、軍組織では厳格な規律と統制が必要です。

誰がどのような立場にいるのかを明確にしておかなければ指揮系統に混乱が生じます。

ですからこれは必要なことです。

閣下。」


ヒメノは初めて浮かべた笑顔で俺の提案をバッサリと切り去った。


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