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35話 ノーンとアリサ

評価ブックマークありがとうございます。

遅くなってすみません。テストが入って来たので書く暇が取れませんでした。

今後もこういったことはあると思いますがどうかこれからもよろしくお願いします。

7/9内容の加筆修正をしました。

ビー!


ホイッスルが鳴った。

同時に私たちは走り出し―――


「――《ソニック・ブレード》」


斬撃が飛んできた。

私はそれをステップを踏んで右に躱し―――眼前に槍の刃が見えた。


「《クロス・スラッシュ》!」

「くっ」


流石に躱しきれず、どうにか槍を水平にして二発の攻撃を受ける。

少しだがHPが削れていた。

やはりアーツだと、普通に受けたら重い。

だが―――


「《トルネード・スピア》!」


風を纏った一撃。それが、アーツを放った後、わずかな硬直を受けているノンちゃんに迫る。

ノンちゃんはそれを―――・・にしゃがんで避けていた。

(っ――――――ああ、やっぱりか・・・)


風の余波が彼女を襲い、付属ダメージを与えて吹き飛ばす。


それによって互いに一度距離を取った。

一連の動作で、与えたダメージはほぼ互角。

しかし。どちらが優勢かと聞かれればノーンの方だろう。

初手ではアリサが完全に手玉に取られてしまった。

というよりも。


「今の、《剣》のアーツだよね。何で使えるの?」

「フフフ、ヒ・ミ・ツ・デス!」


再度特攻。

一直線に走り込んでくる。

さっきと同じ―――――にはしないっ!


私は大きく横に跳んで、スピードに乗ってノーンの後ろへと回り込む。

速さはこっちが上だ。


キィィィンッ!


二つの槍が交錯する。

完全に背後を取ったアリサの槍は、同じく背後・・・に回された槍によって止められた。


「・・・・・・」


そこから左右に体を振っての連続攻撃。

腕、足、頭。それらの部位への攻撃は、まるで予知・・していたかのように、捻られ、跳ばれ、反撃される。

すぐに動いて攻撃を受けることから逃れる。


やはり・・・まともには通用しない。

それはやる前から分かっていたことだ。

『『彼女』を相手にするならこちらの攻撃は全て読まれていると思え』


その言葉を、私は何度聞いただろう。


―――『超直感』――


そんな、特殊能力とも呼べるような力が、ノンちゃんにはある。

人間に備わる五感、そしてそこに追加される勘と呼ばれる要素。第六感。それが、彼女はとても強い。

『そう感じたから』『そう来るかなって思ったから』『なんとなく』

それはきっと誰もが一度や二度は体験したことがあるのではないだろうか?

根拠のない予測が的確に当たる。そんな偶然を。


だが、それが『常時起こる』としたら、はたしてそれは偶然といえるのだろうか?


もし、そんなことが実際にあるとしたら。

それは、まるですべてを見透かされているような―――そんな感覚に陥ってしまうかもしれない。


そして、その実在するような怪物が、目の前にいるのだ。

エスパーやら、預言者やら、様々な呼ばれ方をしている彼女。だが、試合ではいつも相手チームが必ずこう呼ぶのだ。


天災―――と。


あれはもはや、才能と呼べる次元ではない。

彼女に好き放題させたら、どんなに恐ろしいことになるか分かったもんじゃない。


ボール、選手の位置、動き。それらがどう動くか、どういう展開になるのか。

まるで全てわかっているかのように先読みされるのだ。


彼女に勝つには一つ。『読み勝つ』しかない。


こちらも分析し、動きを読んで、読まれていることすら計算に入れて行動する。

正攻法は別にあるけど。今は使えない。

その方法は―――『犠牲』


二人の選手が彼女に付いて、その動きを完全に阻害するのだ。

アリサも一対一ではまず止まらないから、人数を割いても攻撃が緩むことはなく、一番楽な攻略法だった。


本音を言うと、一対一は自身がない。

実は試合のデータだと3:2くらいでアリサの方が負けているのだ。

さらに言えば、今回の勝負は抜けば終わりではない。

相手に直接ダメージを与えて倒す。それは、アタッカーよりディフェンダーとしての役割だ。


ルール、能力、経験。全てが不利。

唯一の利点は、まだこちらの手札を見せてないということ。


―――知らないものは予測の仕様がない。


私は、それを切る瞬間を攻防の中で探した。

いつがいい? 反撃を受けてる時、躱された瞬間、大技を受けた時に出来た隙を狙うか?


いや――――


私の中で、スイッチが入った。

思考がどっぷりと浸かり、余計な考えを捨て去る。


「・・・・・・・」


『ギア』が―――――――――――上がった。





―――ノーン――

(入りましたね(※心の声なので通常の喋り方です))


アリサの本気。

それは小さなころから積み重ねられてきた経験に基づく反射運動だ。

相手がどう動くのか、その時体はどんな反応を見せるのか、彼女は全て知っている。

頭を使うよりも体で覚える。というのがアリサのやり方だ。

それはいつかロスを無くし、信じられない反応速度を実現させる。


一度その状態になると普通に戦ったら間に合わない。

故にノーンは思考を放棄する。

体を、全て降りてくる自分のに任せるのだ。


体の主導権を――――『それ』に渡した。









――始まりの街南方面郊外付近――

「アリサーッ! どこいったのーっ! アリサー!」


ロ―ナはアリサを探していた。

このゲーム、実はマップがないのだ。

あるにはあるのだが、それは専門の職業が必要となり、パーティメンバーの位置を教えてくれるような便利な機能は付いてない地図の製作くらいしかできなかった。


「ったく。本当にどこに行ったのよあの娘。ノーンって娘もいなくなっちゃったし・・・」


先程、いなくなる時、アリサは酷い顔で・・・・・泣いているように見えた。

(あんまり突っ込んで聞くようなものでもないわよねぇ)


きっとそれなりの事情があるのだろう。

一緒にいるときは、いつもはっちゃけて、笑っていた。あれは空元気か、それともあれが素なのか。

どこかわざとらしいふざけ方をする娘だと思っていた。

16歳。四つ下かぁ。


ちなみにロ―ナは現在の見た目では全く判断できないが、二十歳の大学2年生である。

今年で3年に上がる、アリサにとって、人生の先輩だった。


ロ―ナから見て、アリサはとりあえず良い子に見えた。

コミュ力もあるし、話してて会話を持たせるためにテンションの調節をするのが上手いのが分かった。

人を見てる。

その人に合わせたテンションで、うざがられない範囲を正確に見極めながら接してくるし、それでいて自分の意思もはっきりしてる。

完璧だ。

きっと彼女なら何処でもやっていけるだろう。

顔も良いし、ムードメーカーとして人々の中心にいるような存在。中々いない人材だ。

ああいうのは仲良くなっておくと色々得だ。

特にはぶられるような人物にとっては救世主にもなりえる。


―――が


やはり16歳というのは多感な年頃だ。

何かの拍子で一変する。人は大なり小なり闇を抱えているものだ。

深くは突っ込まないのが人間関係を上手く回すコツである。特にあれくらいの子は下手にちょっかいを出すと暴走してしまう。

先程走って逃げて行ったのがいい例だ。

ゆえに、見つけたらそっとフォローする程度に留めるつもりである。

ネットゲームにおいて、リアルの情報は聞かないのが礼儀だ。

まぁ、とりあえず。


「捕まえたら一回懲らしめてやるか。アリサァ―!」


―――見つからない方が、アリサにとっては幸せかもしれない。


その時。

「アリサー、どこにいますのー?」

「ノンちゃーんっ」

「おーいっ、ノーン、どこだー?」

「アリサー」


「「「「「え?」」」」」


二人の少女を探すグループが、一か所に集まった。







――ノーンとアリサ――

二人の攻防は、ヒートアップしていた。

今回、制限時間は設けていない。どちらかのHPが0になるまで終わらないディスマッチになっている。

二人とも自身の『武器』を最大限に生かして戦っている。

そのため動きの疎外となるアーツの使用をしていない。

だが、何十回という打ち合いを行い、完全に均衡状態となってしまった頃、変化が起きた。


柄による鍔吊り相い、その瞬間を狙ってアリサが動いた。


「《クイックチェンジ》、Ⅲ」


それは新しく取ったスキルを使用するためのコマンド。

装備を換装するためのキーワードだった。


ズパッ


ノーンの防御を越えて、鎧を切り裂いた。

初めて、二人の間にまともなダメージが入る。

アリサの手には、短剣が握られていた。


【ライトソード】耐久98%

ATK50 必要Str40

製作者:アリサ 品質:良


それは、質が良いということを除けばなんの変哲もないただの短剣だった。

ただ軽めに作られているという点だけが特徴と言えば特徴である。

しかしそれで構わない。

今は能力よりも、その形をしているというのが重要だった。


「グゥ」

「そいっ」


武器が変わったことで、ノーンの対応が変化する。

だが、アリサの動きの変化をとらえきれず、ちらほらとダメージが入り始める。

いくら鋭い直感を持っていようとも『慣れ』という感覚には勝てない。

先程まで槍を使っていたアリサを相手にしていたノーンはその動きに『慣れ』てしまっていた。

そのため突如パターンの変化したアリサの動きについて来れないのだ。


直感に勝つために五感を利用する。

それが例え相手のであろうと、勝つための手段に出来る。

それは、今までのアリサにはなかった『技』だ。アリサ自身、この思わぬ効果に驚いている。

このスキルは、実はロ―ナの真似だ。

ロ―ナが「どうせ能力値変えられるなら武器の交換も素早くできる方がいいわよね」と取ったのが始まりで。その高速交換は、三種類の武器を扱うアリサ二も優良なスキルだった。

効果は事前に登録していた五種類までの武器をコマンドに合わせて持ち替えることが出来るというもの。

単純だが、使い方によってはとんでもない効果を発揮するスキルだ。

今は数の問題で三つしか登録してないが、問題はない。



それからすぐにノーンは短剣に対応し始めた。

やはり身体能力が高いと適応性も高い。

だが、それはさらなる変化によってマイナスとなる。


「《クイックチェンジ》Ⅱ」


槍と剣が交錯する瞬間、反対の手にハバキが出現する。

一瞬それに、ノーンが目つられる。そして、それは明らかな隙だ。


「《ウォーターショック》!」


バンッ!

腹にめり込んだ一撃が、ノーンの体を吹き飛ばす。ノーンのHPは大きく削れ、2割を切った。

ここで追い打ちをかけるっ。

そう思い突っ込んだ。次の瞬間。


――――ノーンがぶれた。


いや、左右に素早い移動をすることでそう見せているのだ。

これは―――


「《コンバート》―――《ソニック・スピア》」

「ごっ!」


速い。

その一言に尽きる突きが、アリサに直撃した。

アーツの効果で、今度はアリサが吹き飛ばされる。


吹き飛ばされる中、ノーンが高速で迫ってくる。

着地と同時に追いつかれ、振りかぶられた槍をハンマーの柄で受け流す。が―――


ピッ――

完全に避け切ることが出来ず、軽く切られてしまった。

しかも、今ので1割近く削られたというのだから笑えない。


明らかに先程よりも早い。そして重い。

その原因に、一つ心当たりがあった。

2割以下となったHP。その瞬間でのパワーアップ。

前にその説明文を見たことがあった。


《火事場》:HPが二割以下になった時HP以外のステータスが倍になる。


どうやら、私はミスをしてしまったらしい。

目覚めさせてはいけないものを呼び起こしてしまった。

私のHPは1割以下まで落ちている。元々少ないHPだ。減りも速い。

どうにか距離を取ろうとすると、頭上に黒い影が映った。


「オワリデス。《コンバート》―――


それがきっと―――彼女の切り札なのだろう。

《コンバート》。その効果もこの一連の動きで理解した。

二種類の武器アーツの取り換え。装備中の武器のアーツとそれ以外の武器のアーツを入れ替えたのだ。

故に、今、使われるアーツは―――


―――《ブレイブ・ソード》!」


眼前に迫る槍の刃。

私はそれを―――受けた。






その時。

ノーンに直感が告げた。自分の敗北を。

一瞬前までは勝ったと思っていた。しかし、攻撃に移った瞬間に見た。アリサの目を。

悪寒が走った。

アリサの目には諦めはなかった。

それは最後まであきらめないとか、全力を出し切って終わろうとか、そういうのじゃない。

アリサには・・・まだ奥の手が残っていたのだ。


このまま攻撃してはまずい。

そう思っても、一度放ってしまったアーツはもう止められない。


「《タイラント》!」


アリサは武器を捨てて、頭で攻撃を受けながら右手で腕をとらえ、ノーンの眼前に赤く光る左手を構えた。


次の瞬間、砂が襲ってきて、飲み込まれる。腕を掴まれているので避けることもできず、ノーンの体は流される。


HPが・・・・1残った。

それはスキル。《不屈》の効果。

低確率だが、HPが0になる時、一度だけHPを1だけ残すスキルだ。

(まだ終わって―――――っ)


その時、霞む視界に―――を構えるアリサが見えた。






ノーンのHPが1残る。

それを予想していたわけじゃない。ただ、終わりたくなかっただけだ。

《クイックチェンジ》で、手に【地槍:オルム】を握る。

最後は最高の技で決める。


「《ソニック・バッシュ》」


一瞬。

それでノーンへと詰め寄った。

ノーンはそれに目を見開いて・・・・ふっ、と笑った。

それは諦め。

勝負が決まった瞬間だった。


ガンッ


「「ッ」」


それは情けか悪戯か・・・アリサの攻撃は、最後に苦し紛れで振るわれたノーンの槍に命中した。

ノーンにダメージは・・・・ない。


「マ―――「《ブレイク・ランス》!」


ノーンの目に再び闘志が宿った瞬間、アリサがアーツを発動させる。

最後の切り札。

槍が、青い光を放つ。

その光が、ノーンへ向けて破壊のエネルギーをぶつける。


バキンッ


衝撃に耐え切れず、ノーンの槍が破壊される。

私はそのまま押し込んだ。


今度こそ―――勝った。

そう思った下で、ノーンが何かを呟きながら倒れて行った。


『勝者:アリサ』

倒れる際のノーン。

(流石アリサです。まさかこれほどまでに手札を持っているとは思いませんでした)


槍を壊されて、もはやノーンは自分の敗北を疑わなかった。

そして襲ってくる衝撃に、考えたことは。

(アリサ二一個忠告デス)


―――この技を


「ヒトニ使ッテハ・・・イケマ、セン。――――――――――!」


その先は、声にならなかった。

ただ、その感覚は、頭が割れるようだったとだけ言ってこう。

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