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■7


 それは一通の通話から始まった


「助けてく…」


 そして突然切れた。しかし、その声には聞き覚えがある。そう、ボーラの声だ。


 ボーラは、とあるダンジョンのオーナーだ。そのダンジョンはずいぶん前に手直しをした記憶がある。そして、このダンジョンは初心者をメインターゲットにしていたと記憶している。まあ、よくある貧乏ダンジョンである。


「なんかさ、ボーラさんから電話来たんだけど。」


 レインは興味なさそうにこっちを見る。レインの興味は目の前にあるライオン屋の超高級カステラに向いていた。俺達は例の魔素茶でおやつの真っ最中なのである。ちなみにこのカステラは当然いただき物である。さすがに自分で買えなくはないが、ちょっと買うのはためらってしまう高級品だ。むしろ、こういう高級品は、自分で買うのではなく貰うからうまいのだ。


「でさ、助けてくれって、言ってる途中で切れた。」


「ちょ、ちょっと、ボス。それってなんかまずいんじゃないの?!」


 さすがに、レインもスラ吉も慌て始める。まあ、普通はそうだよな。でも、レインはカステラを手放さない。見事だ。


「って、ことで行ってみるか。」


 とはいえライオン屋のカステラは重要である。一通り食べ終わったところで、さっそくボーラのダンジョンに向かうことにする。


 程なくしてダンジョンにつくが、どうやら人の気配はないようだ。なんかさびれてるっぽい。まだ日は高いのにこの状況はちょっと不自然だった。


とりあえず、ダンジョンの中に入ってみる。みる。


「あれ?こんな道あったっけ?」


 俺達は、前回仕事をしたときに作った見取り図を片手にダンジョンを進んでいくが、見取り図には無いなにやら見慣れない道があちこちにできている。


「なんか、迷路なりね。」


 そう、スラ吉がいうように、いつの間にか迷路のようにあちこちに道ができていた。


「なあ、これってボーラさんはこのダンジョンの中で迷ったってことじゃないか?」


「ええ、なんかそんな気がしますわ。」


 思わず、レインと顔を見合わせる。


「そして、このまま行くと、私達も確実に道に迷いますわ。」


 間違いない。まだ見取り図にある道を進んでいるので戻れるだろうが、脇道にはいろうものなら出てこれない自信がある。そのぐらい厄介な迷路になっている。


「さて、どうするか。」


 一応、考えてはみるが、まったくアイデアが浮かばない。念のため、ボーラに連絡を取ろうとしてみるが、電波が入らないか電源が入っていませんというメッセージが流れるだけである。最近流行りの携帯型魔界網通話機って便利ではあるが、こういう時ってどうしようもないな。


「セオリーでいけば、紐とか目印をつけながらですね。」


「あとは、右手の法則なりね。」


 なんか、あっさり色々な意見がでてしまった。なんでそんなに簡単に思いつくんだろう。


「じゃあ、目印つけながら行って、最悪右手の法則かな。」


 右手の法則とは、右手を壁につけたまま、右へ、右へと進んでいけば、たぶんそのうち出られるだろうという、効率もくそもない力技である。ちなみに左手の法則というものもあるが、使うのが右手か左手かの違いだけである。

 とりあえず、目印をつけながら先へと進んでいく。ついでにマッピングもやってしまう。なぜか、マッピングは俺の特技だったりする。というか、この仕事はマッピングができないとやってられない。


「なんか、物凄いことになってるような気がするんだが。」


 どんどん進んでいくが、明らかにおかしい。緩やかではあるが、どこまでも下に向かっているような感じがする。このダンジョンは初心者向けということもあり、3層からなっている。しかし、なぜか4層にいるようだ。それも2層や3層は通った感じがない。つまり、いきなり1層から4層ぐらいの深さまで新しい道ができているということだろう。さっそくこれである。先が思いやられる。


「もう、魔素とか無茶苦茶なりね。」


 スラ吉は、お手上げというポーズをとる。まあ、スライムにお手上げってポーズが取れるのか? という突っ込みがあるかとは思うが、そこは付き合いが長いので何となくわかるのである。


 さらに進んでいくが、道というよりなんとなく掘り進んでいるだけに見えてくる。というか、あちこちに採掘の残骸が転がっており、歩くのが一苦労だ。これはダンジョンの拡張をしたかったのかと思っていたのだが、計画性がまったくない。さすがにこれはおかしい。


 それからずいぶんと調べたが、すでに元の痕跡すら残っていないことだけが解った。正直、ダンジョンとしては全く機能していない。迷路過ぎて、冒険者はおろか魔物ですら近づかない状態になっている。ボーラは一体何をしていたのだろうか。


 結局、半日ほど歩き回っていた。しかし、まだ確認していない道がいくつか見受けられる。もともとのダンジョンは、戦闘こみでも半日で戻ってくることが可能な程度だったので、まったく戦闘をしていない状態でこれとなると、おそらく数倍の広さになっているのは間違いない。どんだけ掘ってんだよ。


「人の気配がします。」


 レインが身構えながら言う。


「でも、殺気はないようですね。」


 しかし、俺達は慎重に進んでいく。まあ、今このダンジョンにいるのはボーラだけだとは思うんだがな。しかし、ボーラは何者かに拉致されており、その犯人が何らかの目的でこの状態にしたということも考えられる。一応、ライトは消しておく。


 しばらく進んでいくと、確かに人の気配はするのだが、姿は見えなかった。まあ、真っ暗だしな。


「誰か倒れてます。」


 さすがにレインはダークエルフなだけはあり、この暗闇でも普通に見えている。そして、罠という可能性もあるのだが、一応駆け寄ってみる。

 倒れていたのはボーラだった。


「ボーラさん、大丈夫ですか?」


 どうやら、まだ生きているようだ。しかし、衰弱しているようで、体に力がない。


「レイン、回復を頼む。」


 レインがボーラに回復呪文を唱えると、若干体に力が戻ってきたようだった。そして、しばらくして、意識が戻ってきた。


「おお、ロイドか。助かったのか。」


「ええ、こっから無事戻れればですが…」


 とりあえず、マッピングはしてあるので戻れるはずだが、なにせ迷路の状態が半端じゃない。そして道も悪いので、ボーラが歩いて戻るのは正直厳しいだろう。とはいえ、俺が担いで戻るにしてもこの道の悪さがちょっと厄介だ。


「なあ、ロイド。酒はあるか?」


「はあ? そんなもん持ってきてる訳ないでしょうが?!」


 この場に及んで酒とか、この人は何を考えてるんだ?


「お酒はありませんが、魔素茶ならありますよ。」


 レインがボーラに魔素茶を差し出す。ボーラは、それを受け取るとぶつぶつ言いながらも一気に飲み干した。どうでもいいけど、それ高いんだからな。もうちょっと味わってのもうや。


「うわ、なんだこれは。こんなうまいものがあるとは。」


「ええ、高級魔素茶ですわ。ちなみに後ほど請求書はお送りしておきます。」


 うん、ぼったくっておいてくれ。


「いや、請求書は構わんが、それよりこの魔素茶も追加で売ってくれんか。」


「売るのはいいですけど、これ結構高いですよ?」


 ボーラはなぜか、ぴんぴんしていた。魔素茶の効果だろうか。でも、値段を聞くとまた気絶するってパターンが読める。


「金ならいくらでもある!」


「「へ?」」


 どう見ても、金は持ってそうに見えない。しかも、このダンジョンは閑古鳥どころか誰もいないのである。ひょっとして宝くじでも当てた?


「なら、こんな物もありますが。」


 レインはライオン屋の超高級カステラを取り出す。まだ残ってたんだ…


「それはライオン屋のカステラか?! とりあえず手付だ、とっておけ。」


 そういうと、レインからカステラをひったくり、俺に直径10cmほどの石を手渡してきた。


「なにこれ?」


 なんかの鉱石のようなきがする。とりあえず、ライトで照らしてみる。


「え? マジで?」


 念のため、スラ吉にも見てもらう。スラ吉は自分の中にその鉱石を取り込むと、解析を始める。


「こ、これはアダマンタイトなりね。」


 やはりそうか。アダマンタイトは最高級の素材である。そして、この大きさだと魔素茶とカステラ食い放題は間違いなかった。


「これってどっから盗んできたんですか?」


「げふっ。おい、ロイド。人聞きの悪いことを言うな。ここで取れるんだ。」


 なんだと?! 


「じゃあ、この迷路はアダマンタイトの採掘の結果ってことですか?」


「ああ、最初は拡張しようと思ってたんだがな。」


 どうやら、貧乏ダンジョンにありがちなオーナー自ら拡張工事をするという暴挙に出たようだ。そもそも、ダンジョンってのは勝手に掘ればいいものではない。冒険者達の導線やら対象レベルに合わせた構成、それに魔素の流れなんかも考慮してやる必要がある。勝手に掘っても大丈夫なら、俺達のような仕事は需要がないわけで。

 とはいえ、とりあえず掘っていたらアダマンタイトが採れてしまったそうだ。なんていう偶然。ただし調査はしていないので、どこに鉱脈があるのかまではわからないそうだ。それって無茶苦茶効率が悪いんだが、下手に業者を入れることで話が広がるとほかの採掘者も来てしまったり、どの程度の埋蔵量があるか分からないので、下手に調査を入れたら、赤字になることすらあるため、ある程度は自分だけでやらなくてはいけないのでしょうがないと言えばしょうがない。

 それに、大体私有地とかいう発想はないし、仮にあったとしてもやはり勝手に来て勝手に掘ってしまう。では訴えるとか言っても、誰に訴えるんだという話になる。ダンジョンには、人間社会のように国とかいう制度はない。よって、結局のところ力で追い返す必要があるわけで、ボーラのように一人でやっている場合にはそれらを監視しつつさらに追い返すとか無理な話である。

 

 まあ、一人でやった結果、迷路を作った挙句に道に迷って俺達に助けを求めてきたわけなんだが。


「お前ら、このことは内緒だぞ。」


 一応、俺達は信用されているようだ。たしかにアダマンタイトは魅力的だが、その辺の仁義はわきまえている。


「とはいえ、採掘したアダマンタイトを売るルートも探さないといけないんだがな。」


 いやいや、それは先に探そうよ。売らないことには、お金は入ってこないし、物々交換にも限界はある。

 スラ吉と目があった。同じことを考えていたようだ。二人そろってレインを見る。


「それは、おじい様に話をしろということですね。」


 レインは理解が早い。


「ボーラさん、レインの爺さんに話をしてみたらどうでしょう。」


「おお、クラウドさんか。あの人なら信用できそうだな。」


 さすがはレインの爺さんである。手堅い商売人かつ、信用第一でやってきた成果だろう。


「それに、うまくいけば採掘や警備のほうも手を貸してくれるかと思いますしね。」


「よし、じゃあ頼めるか。」


 レインがさっそく爺さんに連絡を取る。まあ、かなりおいしい話である。間違いなく乗ってくるだろう。


「こちらに来るそうですわ。」


「ありがとう。じゃあ、いったん上に戻るか。」


 なんとか動けるようになったボーラを連れて、俺達は歩き始める。

 

 

 

 調査は困難を極めた。そもそも人気のなかったダンジョンに、突然人が入り始めると噂になる。噂が人を呼ぶのだが、ダンジョンは機能していないのだ。では、機能していないダンジョンに、なぜ人が入り始めるのか。憶測が憶測をよび、調査どころでは無くなる。

 それにも関わらず、転送魔方陣などさまざまな手段を使い、調査は進められた。

 

「いやいや、驚いたぞ。」


 クラウドが書類片手に部屋へ入ってくる。ここはボーラの家をかねたダンジョンの一室である。

 

「現時点でアダマンタイトが結構な量を確認できておる。かなりしっかりした鉱脈がありそうだ。」


 クラウドが書類をめくりながら、ボーラを含めた俺達に説明し始める。

 

「それと、いくつかの希少金属も、それ程量は無いが確認できておるな。これは結構な金になるぞ。」


 書類から顔をあげ、クラウドがにやっと笑う。

 

「クラウドさん、どんくらいの金額になるんだ?」


 ボーラが身体を乗り出す。

 

「具体的な金額はまだ難しいですな。埋蔵量も不明であるし、それを掘り出す方法や人数も特定できておりませんですしな。だた、いえることは、間違いなく豪遊して暮らせるということでしょうな。」


「ま、まじか・・・」


 ボーラの顔が真剣になる。

 

「ボーラさん、この件、採掘からうちに任せてもらうということで、よろしかったですよな。」


 クラウドがボーラに念を押す。

 

「ああ、よろしく頼みます。あんたは信用できる人だ。」


 ボーラとクラウドが、がっちりと握手する。

 俺とレインもそれを見て、ほっと胸をなでおろした。

 

「採掘の方じゃが、準備が出来次第はじめられそうだが、問題は・・・」


「搬出と警備ですか。」


 レインの言葉に、クラウドが頷く。

 

「搬出はうちでやれるんじゃが、警備がな・・・」


 搬出の方はクラウドに任せるしかない。採掘されたアダマンタイトを運び出すのはいろいろと厄介だ。かさばる上に重く、さらに運び出しているところを見られるのも危険を伴う。おそらく、搬出用の転送魔方陣を使うことになるだろう。

 そして、警備についても、信用でき、かつ強い必要がある。アダマンタイト採掘の話は、いずれどこからとも無く流れるだろう。その時にやってくる盗掘者などを排除する必要がある。

 

「一時的に警備を出すことはできるが、継続的に出すのは難しいな。信用できるもの、強いものは居るが、両方を兼ね備えたものとなるとあまり居らんでな。」


 クラウドの言葉に、場の空気が重くなる。

 

「ところで、このダンジョンはこれからどうするなり?」


 沈黙を破ったのは、スラ吉だった。

 

「ああ、食うに困らんなら、別に続ける必要はないんだが、やめるというのも寂しいものがあるな。」


 ダンジョンをやめてしまうなら、守りを固めることで警備はしやすくなる。しかし継続も検討するとなると、選択肢はぐっと減ってくる。

 

「なあ、ロイド。お前に任せるから、このダンジョンを存続させる方向で考えてみてくれんか。好きにしてくれてかまわん。」


 願ってもいないボーラからの仕事に、俺は頷く。

 

「ダンジョンと採掘場所は分けるとしても、やっぱり警備は問題だよな。とりあえず、採掘場所の方に高度の警備システムを入れるとして・・・」


「ええ、それに盗掘者の掘った穴の処理などもありますね。」


 俺は思わず頭を抱えてしまった。

 ふと、スラ吉を見ると、のんびりとダンジョンマガジンを眺めてやがる。

 

「あ、迷路ダンジョンが閉鎖なりね。」


「ああ、あそこは一時期は話題でしたけど、最近はめっきり人が減っていたようですね。」


 迷路ダンジョンはシーフダンジョンのような変り種ダンジョンの一つだ。いや、あそこはダンジョンといっていいのだろうかと疑問に思う。もともとは、ここと同じような貧乏ダンジョンだったのだが、オーナーのカルマンがダンジョンの工事にはまってしまい、いつの間にか迷路になってしまった。

 その上、頻繁にレイアウト変更をするため、下手をすると入ったときと出るときで道が変わっていたりもする。そのため冒険者はおろか、ダンジョン内の魔物すら次々と退去してしまったようだった。

 

「迷路ダンジョンか。まあ、あれは実用性はないからな。ん? 実用性?」


 思わずレインと目があう。レインも同じことに気がついたようだ。

 

「実用性がないなんて、いいじゃないですか。」


「ああ、最高かもしれないな。」


 俺はレインとにやりと笑いあう。

 

「ちょっと待て、迷路作るつもりか? 大体、アダマンタイトの搬出はどうするんだ?」


 ボーラがあわてて俺達を止めに入る。

 

「いえ、問題は無いはずです。アダマンタイトの搬出は転送魔方陣を使う予定ですよね?」


 レインがクラウドにたずねる。

 

「ああ、転送魔方陣は費用がかかるが、アダマンタイトの運搬と警備を考えると、そっちの方が安全だし安いかもしれん。」


 クラウドに任せるといってしまった手前、ボーラはしぶしぶと引き下がる。外出も転送魔方陣を使えばいいので、問題ないんだけどな。

 

「レイン、カルマンさんに話してみてくれ。多分暇してるはずだ。」


「了解しました。」


 レインがカルマンに連絡を取るために席を離れる。スラ吉は相変わらずダンジョンマガジンを見てやがった。

 

「ボーラさん、ダンジョンの種類とか、魔物のタイプとかで、なんかこだわりはありますか?」


 俺はふと思いついたことがあり、念のためにボーラに確認する。

 

「こだわりってお前、種類は迷路なんだろ? それに今は俺しかいないんだから、別に何が増えようとかまわんぞ? それにダンジョンのあがりは期待していないから、好きにしろ。」


 なら、問題ない。そう、最強にして最悪、かつなるべく足を運びたくなくなるダンジョンが出来そうだ。

 俺は、思わずにやりと笑った。

 

 

 

「こっちでいいのか?」


「知るか! とにかく前に進め。そして手当たり次第に掘ってみろよ。」


 俺は、監視システムに映る盗掘者達を眺めていた。アダマンタイトの発掘が軌道にのるあたりから、どこからともなく盗掘者達がやってくるようになった。


「来たなりよ。5地区のAなり。」


 スラ吉がインカムで指示を出す。

 

「了解ぜよ。いくぜ。」


 スラ吉に答える声が聞こえる。

 

「しかし、こんなに凶悪だとは知らなかったぞ。」


 俺の脇で、ボーラがニヤニヤしている。

 

「ええ、でも人気はないんですよ。そのおかげで、ここに来てもらえたんですけどね。」


 俺はボーラに苦笑し、画面に向き直る。

 

 

 

「なんじゃありゃ?」


 その声に、壁を掘っていた盗掘者の手が止まる。ふと見ると、ふにふにと何かがこちらに向かってきているのが見える。

 

「ありゃ、スライムじゃねえか。」


「ほっとけ、あんなザコ。それよりとっととアダマンタイトを掘り出せ。」


 盗掘者達は採掘作業に戻るが、一人だけスライムを見続けていた。

 

「邪魔だな。」


 そういうと、その男はスライムに向かう。しかし・・・

 

「おい、何時まで遊んでやがる。」


 盗掘者の一人がスライムに向かった男に怒鳴りつける。しかし、そこには男はいなかった。それどころか、4人いたはずのほかの男たちも見当たらない。その代わりに数匹のスライムがいるのみ。

 

「あ? あいつらはどこだ?」


 盗掘者は周りを見渡すが、どこにもいない。

 

「お前の仲間なら、もういないぜよ。」


 目の前のスライムが盗掘者に話しかけていた。

 

「な、な、なんだこりゃ。ス、スライムがしゃべってやがる・・・」


「お前も、もういなくなるぜよ。」


 ポン太の声に反応するように、一斉にスライム達が男に襲いかかった。

 

 

 数ヶ月後。

 

「なあ、例の噂を聞いたか。」


「ああ、のろわれたアダマンタイト採掘場だろ?」


 とある酒場で、男はけだるそうに返事する。

 

「ばかいうな。そんなのただの噂にきまってるだろうが。刻々と経路が変わるダンジョンだとか、突然仲間が消えるだとか、そんなもんがあるわけねえ。」


 チェンジリングで姿を変えていた俺は、その冒険者達の会話を聞いて、そっと酒場を出る。どうやら、ポン太のスライムダンジョンは順調なようで、カルマンも好きに迷路を作っているようだ。

 

 

 

「なんじゃこりゃ。」


 俺は思わずうなった。

 

「親分、逃げるならいまのうちなりよ。強盗はよくないなりよ。」


「いや、やってねえし。」


 俺とスラ吉は口座に振り込まれている大金を知り、頭を抱えていた。

 

「それね、ボーラさんからの依頼料なのよね。」

 

 レインがぼそっと答える。

 

「いや、あの仕事はそれほどたいした仕事じゃねだろ?」


「まあ、たしかにそうね。でも、おじい様から貰った連絡だと、命を救われたお礼も含まれているんだって。」


 たしかに、今回の話の始まりは、ボーラからのSOSの電話だった。そして、その連絡のおかげでボーラは助かったのは間違いない。

 

「でもね、それだけでは終わらないの。ボーラさん、採掘場の利益の一部をこちらに渡してほしいっていったそうよ。」


「じゃあ、なんだ。採掘場が続く限り、この金額が振り込まれ続けるってことか?」


「そういうことになるわね。」


「じ、じゃあ、遊んでくらせるじゃねえか。」


 俺は思わず飛び上がる。

 

「でも、仕事は来てるから、そっちはちゃんとやらないとダメよ。」


 レインがニッコリ微笑む。

 

「断れないのか?」


「自分で断ってくれる?」


 レインから案件のリストを貰う。俺はそれを見て、がっくりとうなだれる。

 

「断ったら、ただでは済みそうも無いな・・・」


「じゃあ、頑張らないと。」


 レインはそういうと、俺にニッコリと微笑みかける。



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