第97話 王の覚悟
朝食。
食卓には全員が揃っていた。
「よしっ」
アウルが満足そうに周囲を見る。
「みんなで飯食いたいからよ?」
「堪忍な?」
ヘレナは小さく鼻を鳴らした。
「構わん」
「そうかっ」
アウルは嬉しそうに笑う。
食事が始まる。
穏やかな朝だった。
その時。
ヘレナがノアを見つめた。
「……」
「?」
ノアが首を傾げる。
「どうかしました?」
「馴染んでるな」
「え?」
「王城だ」
ヘレナは静かに言った。
「日が浅いとは思えん」
ノアは少し困ったように笑う。
「ありがとうございます?」
「……ふむ」
ヘレナはそれ以上言わなかった。
その様子を。
ソフィアが怪訝そうに見ていた。
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食事を終え。
しばらくして。
「よっしゃっ」
アウルが立ち上がる。
「そろそろ行くかっ」
空気が少しだけ引き締まる。
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王城。
小謁見室前。
重厚な扉の前にアウル、ノア、ソフィア、ヘレナが立っていた。
アウルが振り返る。
「ノア」
「なに?」
「覚悟は出来てるか?」
ノアは少し考えた。
「なんとなく?」
「そうか」
アウルは笑った。
そして。
「行くぞっ」
扉が開かれる。
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小謁見室。
中央には女王。
カエリア・ヴァルディア三世。
その隣には。
双子の娘。
リリアンヌ・ヴァルディアとマリアンヌ・ヴァルディア。
そして。
王国最強の騎士。
老獅子。
レオニウス・レオグラン。
一同が跪く。
アウルが口を開いた。
「陛下っ」
「アウレリウスよりご報告があります」
カエリアは静かに頷いた。
「聞きましょう」
アウルは報告を始める。
中央島の特異性。
魔石鉱脈。
ノア。
そして中央島開拓計画。
まとめ上げた報告書を提出する。
部屋は静まり返っていた。
全てを聞き終え。
女王が小さく息を吐く。
「……成程」
そして。
「レオニウスはどう見ますか?」
老獅子は腕を組んだ。
「……そうですな」
少し考える。
そして。
「その前に陛下」
「ノアに対しての印象をお聞きしても?」
カエリアは微笑んだ。
「そうねぇ」
ノアを見る。
「……寵愛領域」
「この子が側に居ると心が穏やかになるわね」
ノアが僅かに肩を震わせる。
「アウルも言っていたけど」
「ノアを交渉に使えば穏便に済む可能性」
「十分にあるわね」
リリアンヌも頷く。
「昨夜、ノアくんと初めて会いましたが」
「彼に対して警戒心は湧きませんでした」
「むしろ……」
マリアンヌが続ける。
「わたくしとリリもアウル同様、ノア様とお友達になりましたものね?」
老獅子は黙る。
「……ふむ」
灰色の瞳が細くなる。
「陛下ですらそう仰るか」
短い沈黙。
そして。
「まぁノアのこともそうですが」
「中央島に魔石の鉱脈が見つかった以上」
「秘匿は出来ますまい」
重い声だった。
「ヴァルディアだけが中央島を独占し続ければ」
「必ず争いになるでしょうな」
カエリアが静かに頷く。
「そうね」
老獅子は続ける。
「既に共和国が嗅ぎつけて接触して来ている」
「……頃合いでしょうな」
そして。
視線がアウルへ向く。
「アウレリウス」
「はっ」
老獅子の声が響く。
「お前の覚悟を問う」
空気が変わった。
「お前は帝国や聖国という大国を相手にして」
「ヴァルディアを守り」
「ノアを守り」
「世界の中心を統べる覚悟があるか?」
沈黙。
だが。
アウルは迷わなかった。
「誓います」
真っ直ぐ前を見る。
「私……いや」
一度だけ息を吸う。
「俺の全てを賭けて」
「ノアを守り」
「ヴァルディアの次代の王として」
「世界の均衡を守るっ」
老獅子が問う。
「その言葉に偽りは無いな?」
「ありませんっ」
即答だった。
老獅子は頷く。
「うむ」
そして。
今度はソフィアを見る。
「ソフィアよ」
「はっ」
「お前はどうだ?」
ソフィアは僅かに視線を動かす。
「私は……」
ノアを見る。
「命に代えても」
一拍。
「ノアを守ります」
沈黙。
「……そうか」
その目は何かを察していた。
そして女王へ向き直る。
「如何ですかな?陛下」
カエリアは微笑んだ。
「許可します」
アウルが顔を上げる。
「アウル」
「はっ」
「頑張りなさい」
「はいっ」
力強い返事だった。
「それと」
カエリアが続ける。
「ルクレツィアとの交渉だけれども」
「王城に呼びなさい」
アウルは頷く。
「ルクレツィアとの交渉がまとまってから」
「謁見を開きます」
「良いですね?」
「承知しました」
カエリアは満足そうに頷く。
「まぁ詳しい話は追々詰めましょう」
そして。
「レオニウスは最後に何かありますか?」
老獅子は小さく笑った。
「そうですなぁ」
灰色の瞳が向く。
「ノア」
「はっ、はい」
「良いか?」
「くれぐれも寵愛領域を抑えるのだぞ?」
「わっ、分かりましたっ」
老獅子は深く溜め息を吐く。
「広げれば半径二キロか……」
「まったく……」
ノアは縮こまった。
「すみません……」
「……ふん」
老獅子は視線を逸らした。
「私からは以上です」
女王が頷く。
「では下がりなさい」
アウルが頭を下げた。
「失礼いたしますっ」
一同は小謁見室を後にする。
扉が閉まる。
静寂。
その中で。
カエリアが小さく微笑んだ。
「頑張りなさい」
ヴァルディアの未来は。
静かに動き始めていた。




