珍しく見た夢
大正は十一年を迎える頃、源次郎は体調を崩しておりました。現代とは異なる気候にやられてしまったのでしょう。
離れの一室に、ノックの音が響きます。
「源次郎さん、大丈夫ですか?」
立花縁の声でございました。
「大丈夫だから、放っておいてくれ」
ベッドに体を潜り込ませたまま、源次郎は返しました。
暫くは扉の向こうに気配を感じていたものの、やがて音もなく消えていきました。
窓の外は白い景色で覆われており、ベッドに入っていても体が中々温まりません。
そのままぼうっとしていると、源次郎は実に数年ぶりに睡眠導入剤の助けを要さず眠りに落ちておりました。
曖昧な眠りの中で、源次郎は夢を見ておりました。
浮かぶ景色はこの世の終わりのような風景で、しかしそれでいて幻想的でもありました。
天上からは絶えずトランペットの音が聞こえ、地下からはドラムのような打撃音がしております。空には怪物と羽の生えた猫たちが飛んでおり、地上には小人やグールの姿がございます。
源次郎はそんな世界を、怪物たちを引き連れて旅しておりました。遠くで威容を誇る縞瑪瑙の城、カダスを目指して。
理由は何故だかわかりません。ただ漠然とした畏怖と情景と、使命感と焦燥感がないまぜになったような感情を抱えておりました。
目を覚ましますと、夢ははっきりと覚えています。高熱を発している際に見る悪夢のようなものでした。
いくらか熱が下がったことを確認すると、未だ気だるい体を引きずって、源次郎は女中に申し伝えて食事を摂り、薬を飲んでから眠りについたのでございます。
これまでと同様、夢はもう見ませんでした。




