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後日談:泥水をすする愚者たち〜失われた奇跡を求めて泣き叫ぶ地獄の底〜

暗く、冷たく、そしてひたすらに臭い。

ここは人類未踏の最高難易度ダンジョン、その中層と下層の狭間に位置する『廃棄区画』。魔物たちの死骸や排泄物、そして迷宮内に仕掛けられた罠の犠牲となった者たちの残骸が水流に乗って流れ着く、文字通りの掃き溜めだ。

粘り気のある黒いヘドロが足元の石畳を厚く覆い、歩くたびにボチャリ、ボチャリと泥を捏ねるような嫌な音を立てる。空気には鼻の粘膜を突き刺すような強烈な腐敗臭が充満し、呼吸をするだけで肺の奥が汚染されていくような錯覚に陥った。

俺、かつて神に選ばれた天才勇者と呼ばれ、王都の民衆から熱狂的な歓呼を浴びていたザイードは、そのヘドロの海の中を四つん這いになって這いずり進んでいた。


「あ、がっ……ぐぅぅ……っ」


干からびた喉の奥から漏れ出るのは、もはや言葉にもならない獣のような呻き声だけだった。

オーガ・ロードの巨大な棍棒によって叩き潰された右腕は、すでに感覚がない。肩から先が赤黒く腫れ上がり、皮膚を突き破って露出した白い骨の断面が、周囲の薄暗い松明の光を不気味に反射している。傷口からは酷い腐臭が漂い、どこから湧いてきたのか分からない小さな死肉食いの蟲が這い回っているのが見えたが、それを払い落とす気力すら俺には残っていなかった。

俺の誇りであり、国王陛下から直接賜った国宝級の白銀の鎧は、酸性スライムに溶かされてただの重い鉄屑となり、今はその無駄な重さが呪いのように弱り切った体を押し潰している。毎朝、王都の専属美容師に手入れさせていた自慢の黄金色の髪は抜け落ちてまばらになり、泥と魔物の返り血でカピカピに固まっていた。


「ザ、ザイード……待って、置いていかないで……!」


背後から、擦れ枯れた老婆のような女の声が聞こえた。

振り返らなくてもわかる。リリアだ。

かつては最高級の絹で織られた純白のドレスに身を包み、女神の再来とまで持て囃された聖女。だが今の彼女は、俺以上に目を当てられない惨状だった。

オーガ・ロードから逃れる際、彼女は俺を盾にして生き延びようとし、俺は彼女を囮にして逃げた。結果として二人とも命からがら逃げ延びたものの、その代償はあまりにも大きかった。

リリアの顔の半分は吸血コウモリの爪で深くえぐられ、かつて王都の貴族たちがこぞって称賛した美しい肌は見る影もない。先端の宝石が砕け散った折れた杖を松葉杖代わりにし、片足を引きずりながら、腐った泥水に浸かって茶色く染まったドレスの裾を引きずってついてくる。

その姿は、俺がかつて王都の路地裏で見下し、小銭を投げつけて嘲笑っていた乞食よりも遥かに醜悪で、惨めだった。


「来るな……近寄るな、この疫病神が……っ」

「な、何よ……! あなたが私を盾にしたから、こんな大怪我を負ったんじゃない……! 治癒魔法も、もう魔力が空っぽで使えないのに……!」

「うるさいっ! お前のその腐った三流魔法のせいで、俺は何度も死にかけたんだぞ! さっきだってゴブリンに向けて放った炎が俺の背中で爆発しただろうが! お前がまともに魔法の一つも使えない無能だから、こんな目に遭ってるんだ!」


俺は残った左手で泥を掬い上げ、リリアの顔に向かって思い切り投げつけた。

ベチャリと音を立てて泥を被ったリリアは、ヒステリックな悲鳴を上げてその場に泣き崩れた。

俺たちはもう何日、この迷宮を彷徨っているのだろうか。

時間の感覚はとうに消失していた。太陽の光が届かない地下深くでは、朝も夜もない。ただひたすらに空腹と喉の渇き、そして終わりのない激痛に苛まれながら、暗闇の中を魔物から逃げ惑うだけの日々。

かつて俺たちは、王都で最も高級な宿屋のスイートルームを貸し切り、毎晩のように最高級のワインと分厚いステーキを腹に詰め込んでいた。民衆は俺の歩く道に花びらを撒き、貴族たちはこぞって俺に媚びを売った。

あの頃の俺は、自分が世界の中心であり、自分の望むものはすべて手に入る絶対的な存在だと信じて疑わなかった。

それがどうだ。今は泥水にまみれ、死肉を食う蟲に怯えながら、ゴブリン一匹倒せずに逃げ回っている。


「水……水……」


俺はひび割れた唇を舐め、目の前にある小さな水たまりを見つめた。

それは岩壁から染み出した地下水と、魔物の体液、そして泥と排泄物が混ざり合った赤茶色の濁った液体だった。以前の俺なら、こんな汚水を見るだけで吐き気を催していただろう。王都では常に氷で冷やされた、南国の最高級果実を絞った果実水しか口にしなかったのだから。

だが今の俺は、その泥水に向かって這い進み、まるで飢えた野犬のように顔を近づけ、無我夢中で舌を伸ばした。


「おいしい……あ、ああ……水だ……」


泥と鉄の味、そして強烈な酸味が混ざった液体が、干からびた喉を潤していく。腹の中には無数の寄生虫や致死性の毒が入っていくのだろうが、そんなことを気にする余裕は一ミリもなかった。ただ、一滴でも多くの水分が欲しかった。生き延びるためには、この汚水をすするしかなかった。


「私にも……私にも飲ませて! ザイード、お願い!」


リリアが狂ったように這い寄り、俺の背中を押しのけて水たまりに顔を突っ込もうとした。


「どけっ! これは俺が見つけた水だ! 俺は勇者だぞ、お前みたいな役立たずの女が飲む水なんてねえ!」

「嫌っ! 喉が渇いて死にそうなの! 勇者なら、女に水を譲りなさいよ! あなたが私を守るって、運命の女だって言ったじゃない!!」


俺たちは泥まみれになりながら、たった一口の汚水を巡って醜い取っ組み合いを始めた。

かつては愛し合い、互いの才能を称え合った運命のパートナー。夜のベッドでは甘い言葉を囁き合い、共に世界の頂点に立つ未来を語り合った仲だ。

それが今では、腐った泥水を奪い合う飢えた獣に成り下がっている。

俺がリリアの泥だらけの髪を掴んで引き倒すと、リリアは狂気の発作を起こしたように俺の傷ついた右腕に食らいついた。


「ぎゃあああああっ!? 痛ぇっ! 離せ、この狂女!!」

「ガアァァァッ!! 水をよこせえええっ!!」


リリアの目は完全に血走り、もはや人間の理性など欠片も残っていなかった。俺は全力で彼女の顔面を左拳で何度も殴りつけ、ようやくその汚い牙を引き剥がした。

地面に転がったリリアは、口から泡を吹き、全身を痙攣させながら、それでも「水、水」と虚ろな声で呟き続けている。

俺は荒い息を吐きながら冷たい壁に寄りかかり、自分の無様な姿を見下ろした。


(どうして……どうして俺が、こんな目に遭わなきゃならないんだ……?)


俺は選ばれた天才だったはずだ。

剣を振れば敵の急所を貫き、どんな絶体絶命の危機に陥っても、必ず偶然の助けによって回避してきた。王都の民衆は俺の圧倒的な強さを讃え、王すらも俺の前に頭を下げた。俺は世界で一番特別で、神に愛された存在だったはずなのだ。

だというのに、あの魔竜を倒した直後から、世界のすべてが狂い始めた。

いや、狂ったのではない。

俺はついに、認めたくなかった、直視したくなかった残酷な真実に直面せざるを得なくなっていた。


『突っ立って見てるだけのゴミがいっちょ前にパーティメンバー面してんじゃねえよ! 俺の剣が常に敵の急所を穿つのは、俺が神に選ばれた天才だからだ!』

『ち、違う……。俺のスキルがなければ、お前たちはとっくに……!』


魔物の群れに突き落とす直前、アレスが俺に向けて放った必死の叫び。血を吐きながら俺に訴えかけていた、あの男の悲痛な声。

あの時は、ただの無能な負け犬の遠吠えだと笑い飛ばした。自分たちの栄光に寄生しようとする、浅ましい男の戯言だと本気で思っていた。

だが、彼を失ってからの俺の剣撃は、ただの一度も敵に当たらなかった。

それどころか、剣は手から滑り落ちて真っ二つに折れ、鎧はリリアの魔法の自爆で壊れ、罠という罠をすべて踏み抜いた。リリアの魔法も同じだ。味方を巻き込む暴発か、明後日の方向に飛んでいくかの二択。

運が悪い? 星の巡りが悪い?

そんな見え透いた言い訳で片付けられるレベルの不運ではない。これは異常だ。

もし、もしも仮に。

あの無能だと思っていたアレスの『観測』という名のスキルが、俺たちの戦果をすべて裏で操作していたのだとしたら?

俺の剣が敵に当たるように、俺が死なないように、あいつが裏で命を削って『奇跡』を演出していたのだとしたら?


「……あ、あは……あははははっ」


乾いた笑いが口から漏れた。

認めるしかなかった。俺の天才的な剣技も、リリアの完璧な魔法も、すべてはあの男が命を削って作り上げた『偽物の奇跡』だったのだ。

俺たちは天才でもなんでもない。ただの力任せの素人と、魔力制御の基礎すら理解していない三流以下の小娘。

その二人が、アレスという絶対的な保護者の庇護下で、さも自分たちが世界最強であるかのように勘違いして舞い上がっていただけだった。

絶対に転ばないように補助輪のついた自転車で猛スピードを出して、「俺は世界一速い」と威張っていた子供と同じだ。

その補助輪を、俺は自分から蹴り飛ばして奈落の底へ突き落としたのだ。


「俺は……俺はなんて馬鹿なことを……!」


後悔が、遅すぎる絶望となって胸を激しく締め付けた。

アレスがいれば、右腕を失うこともなかった。こんなヘドロの海で泥水をすするような地獄を味わうこともなかった。今頃は魔竜討伐の英雄として、王都で豪奢な宴を楽しんでいたはずなのだ。

あいつをただ後ろに立たせておくだけで、俺たちは永遠の栄光を手に入れられていた。多少の分け前を与えて、適当に褒めておけば、あいつは馬鹿みたいに喜んで俺たちのために命を削り続けてくれたはずだったのに。

それなのに、俺のちっぽけなプライドと見栄が、その唯一の命綱を自分から切り捨ててしまった。


「あ、アレス……アレス、どこにいるんだ……」


俺は泥にまみれた顔を上げ、暗闇に向かって虚しく呼びかけた。


「俺が悪かった……俺が全部間違っていた……! お前は無能なんかじゃない、お前こそが真の英雄だったんだ……! だから、だから頼む、戻ってきてくれ……! 俺たちを助けてくれ……!!」


泣き叫び、頭を汚い石畳に何度もこすりつけて謝罪した。

プライドなどとうに消え失せていた。ただ元の、すべてが上手くいっていたあの都合の良い世界に帰りたい。アレスの背中に隠れて、天才のふりをしていたあの甘美な日々に。

しかし、いくら泣き喚こうと、俺を包み込むのは冷たい沈黙と、ダンジョン特有の腐敗臭だけだった。


「ひぐっ……うぅっ……アレス……助けて、アレス……!」


隣では、我に返ったリリアもまた、俺と同じようにボロボロと血の混じった涙を流しながら虚空に向かって手を伸ばしていた。

彼女も気づいたのだろう。自分がいかにアレスに守られ、無条件の愛を注がれていたか。その純粋な愛を裏切り、俺という中身のない無能な男に乗り換えた自分の愚かさに。


「私が馬鹿だったわ……。あんな男、あなたの足元にも及ばないのに……。ねえアレス、許して……私、心を入れ替えるから……。昔みたいに、一緒に平和な世界を作るって約束したじゃない……! あなたの幼馴染の私を見捨てるの……!? だから、助けに来て……!」


リリアの哀れな命乞いを聞きながら、俺は激しい自己嫌悪と絶望に苛まれた。

もう遅いのだ。

アレスは俺たちの手によって、無数の魔物が蠢く奈落の底へと落ちていった。あの高さから落ちて、さらに凶悪な魔物の群れに襲われれば、生きているはずがない。

俺たちは、自分たちを救ってくれる唯一の神を、自分たちの手で殺してしまったのだ。


その時だった。

俺たちが絶望の底で泣き崩れている広間の奥、青白く発光する巨大な魔力水晶の柱が、突如として眩い光を放ち始めた。


「な、なんだ……?」


ダンジョン内には、外界の強力なマナの波動と共鳴し、遠く離れた場所の映像を蜃気楼のように映し出す『共鳴水晶』が存在する。

その巨大な水晶の表面に、揺らめくようにしてある光景が映し出された。


それは、王都の広場だった。

見慣れた白亜の王城、そして広場を埋め尽くすほどの莫大な数の群衆。彼らは一様に地面にひざまずき、空を見上げて歓喜の涙を流していた。

その群衆の視線の先、王都の上空に浮かぶのは、圧倒的な神々しさを放つ光の階段。

そして、その階段をゆっくりと下りてくる二人の男女の姿があった。


「あ、あれは……」


俺は自分の目を疑い、泥だらけの左手で何度もまぶたを擦った。

右側に立つのは、この世のものとは思えないほど美しく、純白の六枚の翼を持った女神。

そして左側に立ち、その女神の腰を抱き寄せながら悠然と微笑んでいる男。

見間違えるはずがない。

それは、俺たちが奈落の底へ突き落としたはずの男。

アレスだった。


『おおおおおっ! 見よ、新たなる神の降臨だ!!』

『我らを救い給う、真の英雄アレス様! 万歳! 万歳!!』

『魔竜を単独で討伐し、伝説の創世のオーブを持ち帰られた神の使いだ!!』


水晶から漏れ聞こえてくる群衆の熱狂的な歓声。

国王すらもアレスの前に平伏し、最高の礼をもって彼を迎え入れている。

アレスの姿は、俺たちが知っている地味でみすぼらしい支援職のそれではなかった。

全身から溢れ出るような圧倒的な魔力、堂々たる立ち振る舞い、そして何よりも、彼の隣で彼だけを愛おしそうに見つめる絶対的な美を誇る女神の存在。

それはまさに、俺がずっと憧れ、手に入れたかった『真の勇者』の姿そのものだった。


「嘘だ……嘘だ嘘だ嘘だ!!」


俺は絶叫しながら、這いずるようにして水晶の柱に向かって進んだ。


「なんで……なんであいつが、あんな場所にいるんだ!? あいつは俺に守られていたただの給料泥棒だろうが!! あそこに立つのは、俺のはずなんだ! 俺が魔竜を倒したんだぞ!! 俺が勇者なんだ!!」

「アレス……ああっ、アレス!!」


リリアも狂ったように水晶にすがりつき、映像の中のアレスに向かって血まみれの手を伸ばした。


「私よ! あなたの幼馴染のリリアよ!! 私を迎えに来て! その汚いダンジョンから助け出して!! 隣にいるその女より、私の方がずっとあなたを愛しているわ!! お願い、私を王都に連れて帰って!! あなたの隣に立つのは、私のはずでしょう!! だから、お願い……!!」


水晶の表面を爪が剥がれるほど引っ掻きながら、リリアは血の涙を流して叫び続けた。

だが、映像の中のアレスがこちらを向くことはない。彼は地上で、最高の栄光と究極の愛に包まれながら、至高のカタルシスを味わっているのだ。

俺たちがこの泥にまみれた地獄で苦しんでいることなど、思い出しすらしないだろう。

いや、あるいは。

彼はすべてを知っていて、あえて俺たちを見捨てたのかもしれない。俺たちが自らの愚かさで自滅していく様を、高みから見下ろして冷たく笑っているのかもしれない。


「ああああああああああああああっ!!!」


俺は水晶の硬い柱に何度も頭を打ち付け、獣のような咆哮を上げた。額が割れ、血が流れ落ちても痛みを忘れるほどに。

悔しい。妬ましい。そして何より、自分自身の取り返しのつかない愚かさが憎い。

補助輪を外された俺たちは、ただの道化だった。

アレスという絶対的な光を失った今、俺たちに残されているのは、この底なしの暗闇と絶望だけだ。


『ギギャ……ギヒャヒャヒャッ』

『ブヒィィィィッ』


不意に、背後の通路から複数の下品で嫌な笑い声が響いた。

振り返ると、暗闇の中に無数の赤や黄色の目が光っていた。

ゴブリン、オーク、そして酸性スライムの群れ。

ダンジョンの底辺に生息する魔物たちが、俺たちの流した血と、泥の匂い、そして騒がしい叫び声を嗅ぎつけて集まってきているのだ。


「ひっ……! くるな、来るなァッ!!」

「嫌っ! 助けてザイード! 魔法が、魔法が出ないのよぉぉっ!!」


俺とリリアは抱き合いながら後ずさりするが、背中はすでに冷たい水晶の柱にぶつかっていた。逃げ場はない。

武器はない。魔法は使えない。体はボロボロで、立ち上がることすらできない。

ただの低級魔物の群れが、今の俺たちにとっては死神の軍勢に見えた。かつて俺が剣の風圧だけで吹き飛ばしていたような雑魚どもが、今や俺たちの命を蹂躙しようとしている。


『ギギャッ!』


先頭のゴブリンが嘲笑いながら飛びかかってきて、俺の腐りかけた右腕にその汚い牙を深く突き立てた。


「ぎゃああああああああああっ!!」


想像を絶する激痛が全身を貫き、俺の意識が白濁していく。

リリアもまた、オークの太い腕に髪を掴まれ、泥の中を引きずり回されて絶叫している。オークの涎を垂らした口が、リリアの顔へと迫っていく。


「アレスぅぅっ! ごめんなさい、ごめんなさいぃぃっ!!」

「助けてくれ……俺が間違ってた……俺たちは無能なゴミだ……だから、だから奇跡を……奇跡を起こしてくれええええっ!!」


血を吐きながらの魂の絶叫。

しかし、その声が外界に届くことは永遠にない。

かつて無尽蔵に与えられていた奇跡は、彼らが自らの手で粉々に打ち砕いてしまったのだから。

薄れゆく視界の端で、水晶に映るアレスと女神の幸福な微笑みが、眩しいほどに輝いていた。

それを最後に、俺たちの意識は終わりのない苦痛と蹂躙の地獄へと完全に呑み込まれていった。


「もう……遅い……」


誰に届くこともないその虚しい呟きは、魔物たちの下品な咀嚼音と歓喜の咆哮に掻き消され、奈落の深い闇の中へ虚しく溶けていった。二度と彼らが光の当たる場所へ戻ることはない。これが、他人の命を食い潰して増長した愚者たちに相応しい、絶対的な結末であった。

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