十二
藤村が転校して来た次の日、芦田は学校を休んだ。
なんか変だ・・
昨日、屋上で叫んでいたことといい、藤村に無反応なことといい・・
そして今日は、学校を休んでいる。
藤村も、そのことが酷く気になっている様子だった。
「藤村くん・・大丈夫かい?」
俺は藤村に声をかけた。
「あ・・うん」
「きっと体調を崩したんじゃないかな。風邪も流行っているし」
「芦田くんはきっと・・僕がこの学校に転校してきたことが嫌なんだ・・」
「それはどうかな・・早合点な気がするけど」
俺は帰りに芦田の家へ行くことにした。
藤村にも声をかけようと思ったが、もし藤村の言うことが本当ならば、芦田にとって逆効果になると思い、俺は一人で行くことにした。
「こんにちは」
俺は芦田の家のインターホンを押した。
「どちら様でしょうか」
インターホンから聞こえた声は、運転手のものだった。
「あの、僕、先日お邪魔しました、草加です」
「ああ、草加くんですか。どうぞ」
俺はそう言われて玄関まで歩いて行った。
扉が開き、運転手が出てきた。
「こんにちは・・。突然すみません」
「いいえ。さ、どうぞ」
俺が中へ入ると廊下に置かれた椅子に、また何人もの人が座り、親父さんの「占い」を待っているようだった。
相変わらず、凄い人気だな・・
今日も、あの目をはめ込んでいるのだろうか・・
「あの・・芦田くんは大丈夫なんでしょうか」
俺は運転手に訊ねた。
「えぇ。平気ですよ。二階におられますからどうぞ」
運転手は俺に階段を上がるように促した。
コンコン・・
俺は芦田の部屋をノックした。
するとドアが開いた。
はあうっっ!!あ・・芦田・・何をしているんだ・・
芦田は手足をクネクネさせながら、目を見開いて口をとんがらせていた。
「芦田くん・・それはなんだい・・?」
「あかんか・・」
芦田はそう言って、普通の芦田に戻った。
うっ・・不覚だ・・
でも・・今のはさっぱりわからないぞ・・
タコ・・?の真似だったのか・・
でも、なぜタコなんだ・・
「じぶん、ノックしたやん」
えっっ・・ノックと関係があるのか・・
ノック・・ノック・・
はっっ!!そっ・・そうかっっ!!
横山ノックかっっ!!
そう、横山ノックとは、元お笑い芸人でトリオ漫才を経たのち、大阪府知事にもなっている。
ノックの頭はハゲ散らかしていて、タコのもの真似をしていたのが有名なのだっ!
そうか・・芦田は俺のノックに反応し、タコのもの真似をやっていたのかっっ!
まったく油断が出来ない・・
「横山ノック・・だったんだね・・」
「まあええやん」
芦田は俺に部屋の中へ入るよう、手で促した。
俺は、次にどんなボケが来るのかと、気が気じゃなかった。
いやいや・・今日来た目的はそうじゃなくてだな・・
「芦田くん・・今日、学校休んだよね・・」
「うん」
「どうしたの・・?具合でも悪かったの・・」
「別に」
うっ・・芦田の「別に」が出た・・
何も答える気がないってことか・・
「昨日さ・・屋上で叫んでいたよね」
「うん」
「あれは・・どういう意味だったの・・?」
「別に」
ううっ・・また「別に」か・・
これは話を変えないといけないかも・・
「今日も、たくさんの人が来てるね」
俺は応接間の前で並んで座っている人たちのことを言った。
「見たい?」
えっっ・・いいのか・・
「いいの・・?」
「うん」
そして芦田は下へ降り、俺も後に続いた。
芦田は何のためらいもなく、応接間のドアを開け中へ入った。
俺は少々躊躇しながらも、親父さんの「占い」を見たくて芦田に続いた。
すると親父さんは俺の予想通り、目にピンポン玉をはめ込んでいた。
やっぱりか・・俺ももう、驚きはしなかった。
親父さんと向かい合って座っている男性は、話が済んだのか、立ち上がって部屋を出て行った。
そして直ぐに次の客が入ってきた。
あっっ!あれは、元生徒会長だった黒岩の親父さんじゃないかっっ!!
「先生・・どうも」
黒岩の親父さんは俺と芦田に気がつかず、芦田の親父さんに深々と頭を下げていた。
ここが芦田の家だということ・・知らないのか・・
「先生・・わたくしは、とても不思議な少年に出会いまして・・。その少年の名前はエリザベスというのですが・・毎夜毎夜・・私の夢に現れては「おっさんアホか」と言うのです・・。わたくしは・・アホなんでしょうか・・」
げっ・・エリザベスって芦田のことだよな・・
芦田が夢に出てくるのか・・
それにしても、なんだ・・その相談。
マジでバカじゃないか・・
芦田の親父さん・・なんと答えるんだ・・
「アホなこと言うてんなよぉーーよっ、わーーれーー」
はあうっっ!!こっ・・これはっっ!
そう、これは新喜劇芸人だった室谷信雄の鉄板ギャグ!「よっ、わーれー」じゃないかっ!!
「そうでしたか・・やはり私はアホだったのですね!」
いや・・今のはギャグでアホと言っただけなのだが・・
でも、アホなことには変わりがないか・・
黒岩の親父さんは、ある意味「ふっきれた」様子で、胸を張って部屋を後にした。
やっぱり・・バカだ・・
「ちょっと休憩」
芦田の親父さんはそう言った後、俺の方を見た。
げっ・・なんで俺を見るんだ・・
ってか・・白目だから怖いんだけど・・
俺は挨拶した方がいいのか、どうなのか迷っていた。
「キリギリスくんと・・言ったね」
え・・俺、何も言ってないんだけど・・
ってか・・俺、キリギリスじゃないし・・
ここは当然、突っ込むべきだよな・・
「なんでやねんっ!」
俺は勢いよくそう言い、少しこける真似をした。
「あはは、うん。ええね」
親父さんは笑ってそう言った。
というか・・目は全然笑ってないから、逆に怖いんだけど・・
「まあ、ゆっくりしていっておくんなはれ」
親父さんはそう言って、部屋を出て行った。
芦田は俺の方を見て「どうする?」というような表情をして見せた。
「芦田くん・・明日は学校へ来るよね・・」
「どうかな」
「えっ・・来ないの・・?」
「決めてない」
「休む理由って・・もしかして藤村くんが関係しているんじゃないの・・」
「あのな・・藤村って女やで」
なにっっ!!マジかっっ!
うちは男子校だぞ・・
藤村は性別を偽ってでも、芦田に会いたくて追いかけて来たというのか!!
「来たもんは、しゃーない」
「しゃーないって・・」
「まあ、そういうこっちゃ」
「そういうって・・藤村くん・・いや、藤村さんは芦田くんのこと好きだって言ってたよ・・」
「アホな。あり得んやろ」
「ううん。はっきりそう言ってた」
「まあ、その話はええわ」
***
そして次の日、芦田は登校して来た。
藤村も、少し安心した様子だった。
それにしても・・女なんだな・・
どうりで可愛すぎると思ったよ。
でも・・バレたらどうするつもりなんだろう・・
先生たちも知らないのだろうか・・
そして芦田の提案で、突然、わが校は男女共学に変わった。
これは、芦田の藤村に対する気づかいなのだろうか・・
男女共学に変わったことで、三年生以外の生徒たちは喜んでいた。
だよな・・次年度からは女子も受験できるんだから、そりゃ嬉しいよな。
そして次の日から、藤村は女子として通学することになった。
制服はまだ出来ていないから私服ではあったものの、「掃き溜めに鶴」とはまさしくこのことだと俺は思った。
「草加くん・・僕、びっくりだよ」
真城が休み時間、そう言ってきた。
「だね・・」
「それにしても、男女共学・・そして藤村さんは女子だったなんてね」
「でもこれで、藤村さんは通いやすくなったよね」
「そうだけどさ・・藤村さんって、芦田くんのことが好きなんだよね」
「うん・・」
「芦田くんって、ほんとに何でも№1っていうか・・あんな可愛い子に追いかけられちゃって・・」
「でも芦田くんは戸惑っているようだね・・」
俺は実際のところ、芦田の気持ちがわからなかった。
芦田を見ていると藤村には全く関心がない様子だし、でも独断で共学って決めちゃったし・・
芦田が藤村にバカにされたことで、大阪を離れたことは確かなんだよな。
うーん・・まったくわからないな・・
「芦田くん・・」
藤村が芦田に声をかけた。
おおおっ・・どうするつもりだ・・芦田・・
それでも芦田は無視していた。
「あの・・共学にしてくれてありがとう・・」
なにか・・なにか返答してやれよ・・芦田。
「僕と結婚してください」
なーーーにーーー!!
い・・今、なんと言った・・?
けっ・・結婚だとっっ!
クラスのみんなも芦田がそう告白したことで、二人を注目していた。
いや・・ちょっと待てよ・・
今のはもしかして、岡八郎のギャグなのかっっ!
そう、これは岡八郎が初めて出遭った綺麗な女性に対して「結婚してください」と突拍子もないことを言うギャグなのだっっ!!
藤村・・どう答えるつもりだ・・
「嫌ややわあ~~結婚やなんて~もう~~うち、恥ずかしいやんかいさ~~」
藤村はそう言って、通学鞄で芦田の頭を思いっ切り叩いた。
ぎゃ~~~マジで叩いたぞ!
さっきのボケに対しての突っ込みは・・果たしてこれでよかったのかどうかはわからないが、とりあえず俺は正しいと判断した。
さあ・・どう出る・・芦田!
「じぶん、ええやん」
芦田はポツリとそう言った。
おおおお~~~合格だ!よかったな、藤村!
それにしても藤村・・突っ込みを覚えていたんだな・・
藤村は顔を赤くして、ニコッと微笑んだ。




