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新喜劇少年  作者: たらふく
11/12

十一

           


俺は気がついた・・

ここに通う生徒も、その親たちも「バカ」なのだと。

勉強が出来るからといって、頭がいいとは限らないのだ。

普通に考えればわかることが、わからないのだ。


それもこれも、芦田の不可解な言動によってわかったことだ。

つくづく・・人間とは不思議な生き物だ。

理解不能なことに出くわすと、時に人間は、「常識」を見失うものなのだ。


俺は芦田を理解しているから常識で判断できるが、みんなはそれができない。

それにしても芦田は・・一体、なぜ新喜劇のギャグをやり続けているのだろう・・

俺の不可解な点はそこだけだ。

芦田・・お前の目的はなんなのだ・・


俺の目の前では、今、芦田が体育館の舞台に立っている。

そう、今から生徒会による総会が始まるのだ。

先日、退学の件で芦田が三名を救ったことで、芦田は生徒会長に任命されたのだ。

とうとう・・芦田・・生徒会長にまで上り詰めた・・


「新しく生徒会長になった、権左衛門です」


「いいぞーー権左衛門!」

「待ってたぞーー」


芦田のわけがわからない自己紹介に、みんなはエールを送っていた。

だから・・権左衛門じゃないだろう・・なぜ、みんなわからないんだ・・


「それで、わたくし、権左衛門こと、エリザベスが決めた校則ですが・・」


いや・・芦田。お前は権左衛門でもエリザベスでもない・・

なぜ、みんな突っ込まないんだ・・


「今までの校則は全部破棄します」


なにをっっ!!破棄・・だと・・

じゃ、どうするんだ・・今後は決まり無しで行くというのか・・


「そこで新しい校則ですが・・」


みんなは息を飲んで次の言葉を待った。

もちろん俺も例外ではない。

なんだ・・なにを言うんだ・・


「校則は規定しません。その代わり、学校名を変更します」


なにをっっ!!規定しないだと・・そして学校名を変更だと・・っっ!!


「おおおー」


館内から一斉にどよめきが起こった。


「今日から本校名は、花月(かげつ)学園にします」


か・・花月学園・・

そのままじゃないかっっ!!

そう、新喜劇では常に物語の設定として、会社名や旅館等には「花月」という名称が用いられるのだっっ!!

芦田・・花月学園に命名したということは・・学園全体の新喜劇化を図るつもりだな・・


館内では「花月・・花月・・」と囁く声が聞こえた。




***




それから数日後、また転校生がやって来た。

今回は事前の噂などもなく、「いきなり」のことだった。


「えー、またこのクラスに転校生が入ることになりました。みんな、仲良くするように」


担任の太川先生がそう紹介して、そいつは入ってきた。


おお・・なんというイメケンなんだ。

背は低めだが、顔はアイドルと見間違うようで、目はクリクリと大きく、鼻筋が通っていておちょぼ口。

髪はサラサラと音が聴こえるかのような、綺麗な髪質。

女装すれば、絶対に女子に間違われるぞ・・


藤村(ふじむら)(かおる)です。みなさん、よろしくお願いします」


藤村は声も女子みたいだった。


「藤村くん、とりあえず窓際の端の席に座りなさい」


太川先生にそう言われ、藤村は窓際の一番後ろの席へ座った。

俺がふと、芦田を見ると、珍しく芦田は無反応だった。


なぜだ・・なぜなにも反応しないんだ・・

絶好の「いじり」時だろう・・芦田・・

そして藤村は、なぜか芦田の方ばかりを見ていた。


「藤村くん、初めまして」


俺は休み時間になり、藤村に声をかけた。


「初めまして・・」


藤村は恥ずかしそうに俯いて、小さな声でそう言った。


「藤村くんはどこから来たの?」

「え・・っと・・大阪から・・」


え・・大阪なのか・・

でも、なんか大阪弁じゃないし、話し方も女みたいだ・・


「大阪っていえば、芦田くんも大阪から転校して来たんだよ」


俺は芦田の方を見てそう言った。


「うん・・知ってる・・」


なにっっ!知ってるのか・・

ひょっとして知り合いとか・・?


「そうなんだ・・。じゃ大阪で知り合ったの?」

「うん・・」


なんか・・気の弱そうな子だな・・


「芦田くん・・」


藤村はそう言い、芦田の席まで近づいて行った。


「会いたかった・・」


藤村は突然芦田にそう言った。

なにっ・・!会いたかったって・・

でも芦田は知らん顔してるぞ・・


「芦田くん・・何か言って・・」


藤村は哀願するように、芦田にそう言った。

芦田は何も返答することなく、教室を出て行った。


一体、どうしたというのだ・・

あの芦田が無反応なんて、あり得ないぞ・・


「藤村くん・・大丈夫かい・・?」


俺は遠慮気味に声をかけた。


「うん・・いいんだ・・」

「大阪で何かあったの?」

「ううん。ごめん、心配をかけてしまったね・・」

「いや、それはいいんだけど」

「僕・・芦田くんに嫌われているんだ・・」

「えっ・・」


嫌われているのか・・

それを知ってて追いかけて来たの言うのか・・

でも、どうして・・


「実は僕・・東京から大阪へ引っ越して、その時に芦田くんと出遭ったんだ。当時、右も左もわからない僕に、芦田くんは変な言動で僕を笑わせようとしてくれたんだけど、僕はそれが理解できなくて虐められていると勘違いしたんだ・・」


変な言動・・うん、そういうことだな・・


「クラスのみんなもそれを見て笑っていたし、僕はてっきり・・。で、それがきっかけとなって、僕は不登校になってしまったんだ。するとある日、芦田くんは僕の家へ来て吉本新喜劇のDVDを置いていったんだ。僕は何が何だかわからないまま、そのDVDを観たよ。すると謎が解けた。芦田くんの言動は、昔から大阪に伝わる笑いの文化で僕を笑わせようとしてただけなんだって。でも僕にはその笑いのツボというか・・意味がわからなかった」

「そうなんだ・・」

「その後、僕は登校するようになって、芦田くんにこう言ったんだ」


なっ・・なにを言ったというのだ・・


「あんなの大阪の人にしか受け入れてもらえない笑いだ、って」


ぐわっ・・なんという・・

それは芦田にとっては屈辱以外の何物でもないぞ・・


「それからほどなくして・・芦田くんは引っ越したんだ・・」


そうか・・!そうだったのかっっ!

芦田が関東に・・そしてこの進学校に来たのは、いわば「殴り込み」だったのか。

大阪の笑いを関東の人間に理解させようと・・

いや・・理解させるというより、藤村にバカにされたことへのリベンジだったのか。


そういう意味では、芦田の戦略は見事に成功したと言える・・

しかし藤村は・・なんで芦田を追いかけて来たのだ・・そこがわからない・・


「藤村くんは、どうして芦田くんを追いかけて来たの・・?」

「芦田くんがいなくなって、初めて気がついたんだ。僕・・芦田くんのことが好きなんだ・・」


げっっ!!

それって・・腐女子が大好きなBLってやつじゃないのか!


「でも・・藤村くんは・・男だよね・・」

「うん・・」


藤村は赤くなって下を向いた。


「でも芦田くんは・・僕が嫌いなんだよ・・」

「そうかな・・?」

「きっとそうだよ。でも僕は諦めない。芦田くんに振り向いてもらえるよう頑張る。その覚悟でここに来たんだ」

「そ・・そっか・・」


なんか・・凄い展開になって来たな・・

芦田は実際のところどうなんだろう・・

藤村のことが嫌いなのかな・・


「俺・・提案があるんだけど・・」

「えっ・・なに?」

「芦田くんに振り向いてもらうためには・・芦田くんのボケに突っ込むことだよ・・」

「えっ・・そんなこと・・僕にできるかな・・」

「できるよ。DVD観たんだろう?」

「うん・・」

「それ、覚えてる?」

「うん・・かなり覚えてる」

「じゃ、大丈夫だよ。芦田くんはかなりの頻度でボケるから、そのチャンスは結構あるよ」

「そうなんだ」



***



「草加くん、さっき藤村くんと話してたけど、なんか深刻そうだったね」


昼休み、食堂で真城がそう話した。


「うん。なんでも芦田くんを追いかけてきたらしいんだ・・」

「えっ・・どういうこと・・?」

「藤村くんって、芦田くんのことが好きみたいだよ・・」

「ええっっ!!」


真城は顔を引きつらせて驚いた。


「・・ん。なんかいけない恋だよね・・」

「信じられない・・男が男を好きになるなんて・・」

「俺も信じられなかったけど、どうやらそうらしいんだ」

「で・・芦田くんはどうなの?」

「うーん・・芦田くんは今のところ、無視してるよね・・」

「ああ・・確かに・・」

「それにしても・・大阪から追いかけてくるって・・相当だよね・・」

「だよね・・。僕も引くよ・・」


そして俺たちは食事を済ませ、校庭を歩いている時だった・・


「なにをぬかしてけつかるんでございますかあああーーーー」


突然、屋上から大きな叫び声が聞こえた。

見上げると、屋上のフェンスの傍に芦田が立っているのが見えた。


芦田・・誰に向かって末成由美のギャグをかましているんだ・・

どうしたというのだ・・


「バカなこと、言っちゃあ~~、あっ、いけないよーーー」


うっ・・次はチャーリーか。

それにしても・・なぜそんなところで叫んでいるんだ・・


「いゃあああああーーーーーー」


はあうっっ!!これはっっ!!

そう、これは浅香あき恵が突然、叫び声をあげるというギャグなのだっっ!!


「あっ・・サイレンだ。早く教室へ戻らないと」


俺の横を通り過ぎる生徒がそう言った。

ぬうおっっ!今の生徒・・ちゃんとボケている・・

そう、これは浅香の叫び声がサイレンだと勘違いする落ちがあるのだっ!


他の生徒も急いで教室へ戻って行った。

バ・・バカなっっ!もうこれほどまでに芦田効果が浸透していたのか・・

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