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第三章・俺の女神ちゃん -1

 思わず顔をあげた俺の目に入ってきたのは、階段を上からおりてきた女子の太股だった。

 うほ、スカートみじけえ!

「あ──、高木くうーん。昨夜は先に帰っちゃって、ごめんねええ」

 胸ポヨンちゃんだった。胸ポヨンちゃんは、太股もポヨンちゃんなのだった。昨夜は胸ばっかり見てたから気付かなかったよ。絶妙な角度でパンツは見えない。くそ。

 そしてその後ろからは、勝ち誇った顔の昨日のいけすかねえ男が、俺を見おろしている。さりげなーくポヨンちゃんの肩に手を置いてる。あ、そう。お持ち帰り、されちゃったのね。そうなのね。

 青春がまたひとつ終わったよ……。

「また飲みにいこうねえ」

 いきません。

 黙って手を振って、ふたりの横をすり抜ける。なんて言えばいいのよ、こういう場合。「また飲みにいこう」なんて言うな──!

 女子って残酷。


 踊り場まできて後ろを振り向くと、男の腕にぶら下がったポヨンちゃんの斜め後ろあたりにバケモノになりかけの灰色のカタマリが見えた。

 恋は人の心に、邪悪なものも呼び込むものらしいデスよ。

 初めてのチューの相手だったユイは、俺と付き合い始めて三ヵ月で真っ黒バケモノを育ててしまったし、初めてエッチしたリナだって、半年後には立派なバケモノをしょっていた。

 例によってそいつらは俺に襲いかかってくるから、彼女らから引き離して、なんとか浄化してやったんだ。特にリナの育てたバケモノは手強かった。一回のトナエゴトじゃ浄化できなくて、二回目でやっと消えてくれた。あれはやばかった。もうちょっとで喰われるかと思った。

 そんな苦労をしてる俺なのに、ああそれなのに。

 バケモノを退治してやって感謝されるどころか、彼女らはバケモノが消えた途端、俺への恋心も消えてしまうらしく「高木くんて、なんかつまんなーい」なんつって「さよーなら」だ。「ワタシタチ、イイオトモダチデイマショウ」だ。

 なんなんだよ──っ! ちくしょ───!!

 もちろん彼女らにバケモノの姿は見えてないんだけどさ。俺がバケモノ退治したなんてことは、まったくもってあずかり知らぬことなんだけどさ。

 要するに、バケモノたちは俺のことを喰いたくて興味津々で、そうするとそれがくっついてる彼女たちも影響されて俺に興味を持つ、と。そんでもって、それを恋と勘違いしてお付き合いくださる、と。

 でも、恋なんて所詮勘違いから始まるものなんじゃないですか。ルルル~。

 でもでも、そのバケモノを俺が倒してしまうと、影響するモノがなくなるわけだから、俺への気持ちも冷めてしまうって寸法だ。

 ひどい。

 思うに恋心ってのは、黒い情念とセットになったものなんじゃないですかね? バケモノなんて見えない普通の方々は、お互いにその黒い気持ちを育てつつ、清い恋心も育てると。そんでもってそのバランスがうまくいくと、末永いお付き合い……となるんじゃなかろうか。黒い情念を消してしまっちゃいけないんだよ、きっと。

 あら、なんか文学的?

 これテーマに小説でも書いて、芥川賞狙おうからしら。

 しかし、んなことがわかったところで、俺のバケモノに襲われ体質が変わるわけでもなく、俺はリナ以降、彼女いない歴三年だ。

 この因果関係がわかっちゃって以来、恋をするのもなんだかなあの俺様なんですよ。

 かわいそうでしょ?

 二十歳なんて、人生で一番楽しい時期じゃないですかっ! 特に男女交際に関してはっ! ねえ!?

 それが……バケモノのせいで楽しめない。

 理不尽でしょ?

 一晩限りのつまみ食いで楽しむって手もあるんだろうけど、そんなおいしい話、そうそう転がっちゃいねえってわかってるし。昨日イイ線いくかな~ってちょびっと期待した胸ポヨンちゃんだって、結局あの男に取られちったしさ。

 だいたい俺、そんな度胸ねえもん。そんなテクねえもん。ちぇ。

 それに、それにね。

 俺は、普通の、ごくフツ───の恋愛をしたいんだ────っっ!

 映画に行ったり、海に行ったり、お互いの家を行き来したり、誕生日にはプレゼントし合ったり……。

 そんな、普通の青春希望。ほんっとに普通でいいんですが、ダメでしょうか……。

 ダメなんでしょうね。そうですよね。わかってますよっ。

 普通にバケモノがくっついてきちゃう女の子と俺は、普通の恋愛ができないってことは、もうわかってます。うっうっ……。

 俺はこのまま一生独身さっ。これから彼女いない歴を更新しつつ年老いていくのさっ。

 ふんっ。


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