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第二章・あっちの世界? -2

 やっと自分の聞きたいことを的確に言うことができた気がした。まあ、「あっちの世界」つうのがホントにあると仮定しての話だけどな。仮定しないと話が進まないし。普通の人は、「あっちの世界」なんて信じないだろうけどさ。

 なんか、でも、俺の中の大切なものをなにか手放したような気がする、そんな夏の日。


「お前に用があるんだろ、誰か」

 がく。

 シナツヒコのお言葉に俺が脱力したちょうどその時、あたりの校舎からは二限目が終わった音が聞こえてきた。教室のドアを開け閉めする音、椅子を引きずる音、階段を駆けあがる駆けおりる音、言葉の聞き取れない声の集まり。

 急に世界に色がついて動き出したような、そんな物音たちがまわりにあふれる。

 すぐ近くの校舎の出入口からぞろぞろと人が出てくるのを見て、俺は、上斜め四十五度の角度にあがっていた自分の顎を下方向十度の角度に修正した。また「だいじょぶか」とか言われちゃヤダからね。

 そんでもって、ゆっくりと歩き出す。

(誰かって誰だよ。俺はあっちの世界に知り合いなんていねーよ)

 声には出さずに質問する。どうせこいつら、俺の心ん中を勝手に読んであーだこーだ言ってくるんだ。同じことだ。

「あっちの誰かにスサノオの存在が知れてしまったということでしょうね」

「今までどうにか隠してたんだがな。なんかあったんかな?」

 顔をあげなくとも、ふたりがフワフワついてくるのが気配でわかる。

 で、今なんつった? 俺の存在が知れてしまった? 今まで隠してた?

 俺って有名人? 知りませんでしたよ。今の今まで二十年間。

 容姿十人並み。身長百七十六センチ。体重六十キロ。成績中の上。性格おとなしめ。特に引っ込み思案てことはないけど少なくとも自分から笑いを取りにいったりはしない、そんな性格。今まで付き合ったガールフレンドはふたり。もう振られたけど。「高木くんて、なんかつまんないー」とか言って俺の元から去っていったユイとリナ。くっそー今に見てろよ。ぜってー後悔させちゃるからなっ。

 そんなこんなで普通でしょ? どこにでもいる二十歳男子ですよ俺。他の人には見えないバケモノが見えるってこと以外は。

「その見えるっていう力に、目をつけられたんですよ。そんな能力持ってる人間はあっちにもそうそういませんから、いろいろ活用したがる人はいるんです」

「あっちはこっちより、オカルト的要素が強いらしいしな。おまえのその珍し能力は、活用のしがいがあるってこったろ」

 あ、そう。

 あっちの世界ってのは、バケモノを見る能力なんてみんな持ってて特別でもなんでもなく、俺はそもそもあっちの世界の人間で、こっちでは普通じゃなくともあっちでは普通で、この度俺はかぐや姫みたく本来の世界の人にお迎えに来てもらっちゃった王子様……とかそんなストーリーを今〇・〇五秒の間に組み立ててたんですが、違いましたか。がっくり。


 王子様じゃない俺は、授業が終わって晴れ晴れした顔の人々とすれ違いながら、校舎の入口を入った。明るい外から急に薄暗い屋内で、一瞬目が見えなくなる。

 ゆら…と足元がふらついた気がして、またあっちの世界とやらに行っちゃったかとひやっとしたけど、目が慣れるとそこはいつもの校舎内の階段だった。

「さっき、あっちに引きずり込まれた時に結界のトナエゴトを唱えましたね」

 唱えたよ? それがなにか?

 ピータイル貼りのいかにも学校の階段て感じの階段を登りながら、頭の上に浮いているやつらと会話する。声に出さずに。

 普通じゃないよな。ホント。

「それであっちの誰かさんは、おめーのことを補足できたんだな。あっちからこっちの世界なんてそうそう見えるもんじゃねえから、おめーの声と力の波動をさがして、今朝からずっと名前を呼んでたんじゃねーか?」

「こっちから引き戻すのも、スサノオの声が頼りでしたからね」

「『俺になんか用?』って間抜けな声が聞こえなかったら、見つけらんなかったしな」

 間抜けで悪うございましたねっ。

 でもさー、あっちの世界の誰かさんが俺になんか用があるんなら、あのままあっちの世界にいて、会って用件聞いてきてもよかったんじゃねーの? どんな用件か知んないけど。

 それともなにか? あれって、敵? 悪者? ま、「うらめしや~」だしな。でもさ、悪者かもしんないけどさ。話聞かないことには始まらないっしょ。

「あっちの世界にはちゃんとした入り口から入らないと、帰ってこれなくなりますよ」

「無理矢理連れ込まれたら、呼んだやつに取り込まれて言いなりだな」

 えー? 言いなりはやだな。

 で、ちゃんとした入り口? そんなんあんの?

「ありますよ」

 どこに。

「わかりません」

 あ、そう。

 …………。

 おー、まー、えー、らー、な───!

 ええ加減にせえよっ!!

 えらそうなことばっか言っておいて、肝心なとこは「わかりません」じゃあよっ。どうしようもねえじゃねえかっ。

「ただ、手掛かりは」

 手掛かりがあるなら早く言えっ!

「龍吉、だな」

 親父? 八年間行方不明の親父のなにが手掛かりなんだよ。またわけわかんねえこと言ってっと承知しねえ。

「どうも、龍吉もあっちの世界に行ってしまっているようなんです……」

 な、に────い!?


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