北海道編 プロローグ
<北海道編 プロローグ>
日付が変わったばかりの夜中の12時。
「おい、まじか?俺はどこに乗るんだよ」
旭川出身のそいつは、助手席のドアを大きく開けたまま、ダイハツ・リーザ・チャチャの車内を指差して固まった。
無理もない。後部座席は、これから始まる夢のキャンプ生活のために買い込んだシュラフ、テント、謎のアルミ製クッカーが詰め込まれ、完全にパンク状態だった。人の座るスペースなど、1ミリも残されていない。
リーザ・チャチャという車自体が、女性向けのお洒落な軽セダンとして一世を風靡したリーザの特別仕様車で、卵型のキュートなフォルムの3ドアのボディカラーはネイビー・ブルー。そもそも、男3人が乗り込むことが無謀と言わざるを得ない。
「すまない、もうスペースは無いな。じゃあお前の地元は旭川だし、現地集合ってことで向こうで合流な!」
すでに助手席にちゃっかりと陣取っていたシバは、呆然と立ち尽くす彼に向かってそう言い放つと、パタンと助手席のドアを閉めた。おいおい、サークルのコンパに行くみたいに言い捨てるなよ。
運転席に座る俺が苦笑いを浮かべる暇もなく、「冗談だろ……」と天を仰ぐ彼に対してシバは、窓からひょいと首を出して、トドメとばかりにこう言った。
「じゃあな、北の大地で待ってるわ!」
こうして、俺たちはスタートから定員変更して、金沢を飛び出したのだった。
――そうだ、思い出したぞ。あのとき、ドアを開けて途方に暮れていた、もう一人の友人の名前は『野口』だった。
記憶というものは勝手なもので、年月が経つと都合の良い輪郭だけを残して溶けていってしまう。だが、ふとした拍子に、濁った水底から片鱗が浮かび上がるように、どうでもいいディテールが鮮やかに蘇ることがある。
あの小さなリーザ・チャチャで、自分たちの限界も知らずに、果てしなく広大な北の大地を突き進んだ、最高の大冒険だったのだ。どうか俺たちが、北海道を旅した記録を聞いて欲しい。




