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アクアリス英傑記  作者: 芳田たかみ


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045話 ジーゲスリード入城4

 帝国歴628年3月16日、ジェムジェーオン伯爵国首都ジーゲスリード。

 新当主ショウマ・ジェムジェーオンが最初に直面したのは、首都の治安という重い問題だった。


 遠征軍は進軍途上で、規模を膨れ上がらせてきた。

 志願兵、義勇兵、帰順兵、なかには、素性が怪しい者も混じっていた。

 そして、兵士たちは勝利の昂揚に包まれ、興奮状態にあった。


 総勢10万人以上に超えた大軍。

 この兵士たちが大挙してジーゲスリードへ押し寄せれば、街は治安を維持できない。


 ジーゲスリード市民は新君主ショウマに、大きな期待を抱いていた。

 だが、それが故に、兵士たちが街で暴れれば、反動でショウマへの失望も大きくなる。

 当主としての器量が、早くも試されていた。


 ショウマは、街のなかではなく郊外で駐留するように、遠征軍全軍に命じた。


 当然、兵士たちからは不満の声が上がった。


〈一刻も早く家族と会いたい〉

〈どうして、戦いは終結したのに、自分の家に帰れないんだ〉

〈これまでずっと戦いの連続だったんだ。少しくらい、羽目を外して騒いでもいいだろ〉


 その不平の声は、ショウマの耳にも届いていた。


 兵士たちの絶対的な支持は、現時点でショウマが持つ最大の力だった。

 今後の国造りを考えれば、兵士たちの支持を失うわけにはいかない。

 幕僚のひとりが具申してきた。


「兵士たちが不満を募らせています。これ以上悪化させぬためにも、一刻も早くジーゲスリード入城を認めるべきかと」


 ショウマは首を横に振った。

 断固として命令を覆さなかった。


「10万人を超える遠征軍の兵士が街に入れば、収拾がつかなくなる」


 ショウマは、双子の弟カズマ・ジェムジェーオンに協力を仰いだ。

 ふたり揃って直々に、兵士たちの駐屯地を巡った。


「ここにいる全員がジーゲスリードの街に入れば、混乱が生じる。申し訳ないが、計画的に休暇を与えることにしたい。理解してほしい」


 家族をジーゲスリードに残している者を優先し、順に休暇を与えていく。

 併せて、兵士たちに特別ボーナスを支給した。


 そしてこの間、『勝唱の双玉』のふたりは、昼は内戦の後処理と政務のため、街のなかのジェムジェーオン防衛軍本部庁舎へ出向き、夜は居城『グランドキルン』に戻らず、郊外の駐留地で兵士たちと寝食をともにした。


〈『勝唱の双玉』ですら、グランドキルンに戻らずに我慢している。俺たちが文句を言えないな〉

〈私は休みを貰って、家族と一緒に過ごせた。だが『勝唱の双玉』は終戦から休みなく働いている〉


 兵士たちの昂ぶりは、次第に鎮まっていった。


 ジェムジェーオンの内戦終結から5日が経過した。

 全兵士が計画に沿って、一度はジーゲスリードの街で休息を楽しんだ。

 刹那的な享楽よりも、未来へ向けて気持ちを切替えし始めていた。


 明日からは、兵士たちの帰還が始まる。

 首都ジーゲスリードは、ようやく平穏を取り戻しつつあった。


 ショウマ・ジェムジェーオンは、民衆と兵士、双方の支持を失うことなく、当主として最初に降りかかった何台を、身後に切り抜けた。




 帝国歴628年3月20日、ジーゲスリード郊外の遠征軍駐屯地。


 第一師団第三連隊、ショウマ・ジェムジェーオンがクードリア地方で編成した連隊の駐留陣に、一台の車両が近づいてきた。

 この車両は立派な黒塗りの高級車だったが、非武装の通常車両だった。


 陣に設けた門の前に、車が止まる。

 車中から、長身の男性が降り立った

 赤毛の長髪が風に揺れ、左耳の大きなピアスが光った。


 直ちに、ふたりの衛兵が駈け寄る。


「通行証は持っていますか」

「持っていない」

「それでは、通行を許可できません」


 男はわずかに眉を動かし、名乗った。


「俺はバルベルティーニ伯爵国のベリウス・クラウディウスだ。ここに、ハイネスの戦闘で、俺の部隊と遭遇したASランサー部隊『ビャクレン隊』が、駐留していると聞いている。ぜひとも、バルベルティーニに帰国する前に、あの部隊を指揮していた者と話がしたい」


 衛兵の顔色が変わった。


「バルベルティーニのクラウディウス!?」

「おい、……まさか」


 2メートル近い長身、長髪の赤毛、特徴的な左耳の大きなピアス。

 噂に聞くバルベルティーニ黒騎士第二軍団を率いるクラウディウス将軍そのものだった。


 衛兵が同僚の衛兵の小声で囁きあう。


「間違いないだろ……」

「だが、護衛もつけずに来るものなのか……」


 衛兵のひとりが伺いを立てるように尋ねてきた。


「もう一度、確認させていただきたい。本当に、バルベルティーニ黒騎士第二軍団長ベリウス・クラウディウス将軍ですか?」

「そうだと言ったであろう」


 衛兵ふたりともが、驚愕の表情を隠せなかった。


「アポイントは取っておりますか」

「ない」

「そうですか……」

「出直した方がいいか?」


 衛兵が慌てて手を振った。


「い、いえ。こちらで確認します。少しだけ、お待ちいただけますか」


 もうひとりの衛兵が呟く。


「おい、……バルベルティーニのクラウディウス将軍だぞ。こんな場所で待たせていいのか?」

「と言っても、俺たちで決められない。上の判断を仰ぐしかなかろう」


 クラウディウスは軽く手を振った。


「俺のことは気にしないでくれ。突然、何の約束もなく訪れた俺が悪い。ここで待たせてもらう」

「承知しました。少々お待ちください」


 ふたりの衛兵のうち、ひとりが走り去る。

 もうひとりの衛兵と、クラウディウスは、その場で待った。


 10分ほどで、衛兵が帰ってきた。

 その後ろには、ふたりの人物が続いていた。

 衛兵の上官と思われる人物と、もうひとりは白い仮面、恰幅が良く髪をドレッドロックスにまとめた異様な人物だった。


 体格の良い仮面が、クラウディウスと相対するなり、言い放った。


「貴公か。俺をここに呼びつけたのは」


 横にいた衛兵の上官が顔を顰めた。

 体格の良い仮面の人物を諫める。


「こちらの方を、どなたと思っているのだ」

「知らん」

「バルベルティーニ黒騎士第二軍団長クラウディウス将軍だ」

「それがどうした」


 ハハハ、クラウディウスは豪快に笑った。


「約束もなく、押しかけた俺が悪い。それに、バルベルティーニ黒騎士第二軍団長と呼ばれていたのも、昨日までのことだ。今は、本国バルベルティーニから官職を解かれ、召還命令を受けている身でな」


 衛兵の上官が苦い顔をした。


「そう仰られても、隣国バルベルティーニ伯爵国のクラウディウス卿といえば、名門クラウディウス一門の当主。失礼があってはなりません」


 クラウディウスは上官の襟章を確認した。少佐だった。


「少佐、心遣いは無用だ」


 クラウディウスは、体格の良い仮面に訊ねた。


「貴官があのランサー部隊『ビャクレン隊』の指揮官か」

「そうだ」

「突然の訪問を許してくれ。改めて、バルベルティーニのベリウス・クラウディウスだ」


 クラウディウスは右手を差し出し、握手を求めた。

 体格の良い仮面が、差し出した手を無視した。


「どれほど、バルベルティーニのクラウディウスが偉かろうと、俺は呼びつけられる筋合いはない。帰らせてもらおう」


 少佐が、踵を返そうとする体格の良い仮面を、慌てて引き留めた。


「待ちたまえ!」

「なんだ」

「貴官はショウマ様の客将とはいえ、ジェムジェーオンに陣借りしている身。ジェムジェーオンにとって、クラウディウス卿は大切に遇すべき御方だ。そのあたりを踏まえた態度を考えてもらいたい」

「知らん」


 少佐が顔を紅潮させた瞬間、クラウディウスはふたりの間に入った。


「少佐、俺が無理を言っているようだ。バルベルティーニ本国に戻る前に、ぜひ、ハイネスの戦場で見たあのランサー部隊『ビャクレン隊』の指揮官と、同じランス使いとして戦術の話がしたいと思っただけだ。しかし、ショウマ・ジェムジェーオン卿の客将とはな」


 体格の良い仮面が言った。


「そうだ。だから、俺はジェムジェーオンの陣中で、『ビャクレン隊』の戦術を軽々しく話すつもりはない」

「戦術をひけらかさないのは理解できる。だが、俺はバルベルティーニの3武臣『トライデント』のひとり。貴官も武人であるならば、俺たちバルベルティーニの『トライデント』の戦術に興味があろう。決して、損をさせないつもりだ」


 体格の良い仮面が腕組みをした。


「……ふむ」


 クラウディウスは衛兵の上官の少佐に顔を向けた。


「この者と俺、ふたりだけで話をさせてもらえないか」


 少佐が忌々しい目つきで体格の良い仮面をちらりと視た。


「しかしながら、この者とふたりきりにするには……」

「よかろう」


 体格の良い仮面が腕組みを解いた。


「貴公が俺たちの陣屋にひとりで来るというなら、考えよう」

「な、何を勝手に! クラウディウス卿の身に何かあっては……」


 少佐が憂慮の言葉を口にした。

 クラウディウスは大きく手を広げた。


「よし、決まりだな。彼の者の陣に参ろう。交渉成立だな」

「クラウディウス卿!」

「少佐、心配は無用だ。俺は自らの意志で、彼の者の陣屋へと赴くのだ。何があったとしても、少佐は責任を負う必要はない。腹心のガルバを車に残している。こちらに連れてきて、俺の言葉の証人としよう」

「しかしながら……」

「もし、俺の身に何かあったとしても、ガルバが証言してくれる。すべてはベリウス・クラウディウスの意志であったと。それで問題がなかろう」


 少佐が渋々頷いた。


「クラウディウス将軍が、そこまで仰られるのならば……」


 クラウディウスはガルバが残る車に戻り、ガルバに事情を耳打ちした。

 すべてを理解したガルバが頷く。


「承知いたしました」


 ガルバを伴い戻ると、クラウディウスは体格の良い仮面に尋ねた。


「そういえば、まだ貴官の名を聞いていなかった。教えてもらえないか」

「ハクだ。クラウディウス将軍、付いてこい」


 ハクが踵を返し、歩き始めた。

 クラウディウスは、その背中を追った。



「面白い」


「続きが気になる」


と思いしたら、下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援をお願いします。


つまらなかったら☆1つ、面白かったら☆5つ、正直な気持ちでもちろん大丈夫です。


ブックマークもいただけると本当にうれしいです。


よろしくおねがいします。


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