表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アクアリス英傑記  作者: 芳田たかみ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
1/10

001話 勝唱の双玉1

 『勝唱の双玉』とは、アクアリス大陸の創世伝説において、この大地を産み落としたとされる聖獣獅子アクアリスが、神より授かった二つの秘宝を指している。

 その秘宝には、それぞれ智の光と勇の焔が宿り、聖獣獅子アクアリスが幾度の試練を越え、勝利へと歩むための力となったと、古き時代より語り継がれてきた。

 その物語は、いまもなお人々の胸に脈打ち、帝国の根幹を支える始まりの神話として息づいている。


 アクアリス大陸を統べるシャニア帝国の封建領主国のひとつ、ジェムジェーオン伯爵国。

 大陸前脚地方を領するこの地で、兄ショウマ・ジェムジェーオンと弟カズマ・ジェムジェーオンは、生まれ落ちた瞬間から運命を分かち合う双子の兄弟だった。

 ジェムジェーオンの『勝唱の双玉』と呼ばれるようになった。

 若く、凛々しく、そして美しい。

 その姿は、まるで伝承から抜け出した『勝唱の双玉』として、ジェムジェーオン市民の目に、未来を照らす希望の光として映っていた。




 帝国歴628年2月23日早朝、ジェムジェーオン伯爵国の北部要衝都市ハイネス。


 『勝唱の双玉』のひとり、ジェムジェーオン伯爵家世子ショウマ・ジェムジェーオンは、無明の隧道のなかで、歩みを続けていた。

 突入を始めてから、既に20分以上が経過している。


 濃密な闇。

 暗黒と静寂の世界は永遠に続いていくと思えた。

 闇はまるで生き物のように、身体に絡みつく。

 心の弱い部分に浸食してきた。

 暗黒のなかへと身体を吸い込もうとする。

 心を徐々に締め上げ、比例して不安を膨張させていく。


 ショウマは必死に抵抗するように、ゆっくり、静かに、ひたすら前へと足を進めた。


 呼吸音が聞こえる。

 自身の呼吸に加えて、仲間のものが混じっている。

 漆黒の闇に視覚が奪われたのに対して、嗅覚が鋭敏になっている。

 隧道のなかの黴臭くじめじめしている空気のなかで、自分や仲間が緊張から分泌されたアドレナリンが、鼻孔をかすかに刺激した。


 ショウマは右手に伸ばした。

 自身の手さえ暗闇に呑み込まれて視認できない。

 そこにあるはずの自分とそれ以外を区分する境界が消失していた。


 ――まるで、今の状況を表しているかのようだな。


 今回の計画の成功率は、ほぼゼロ。


 それでも、ショウマたちに残された選択肢は他になかった。

 唯一の可能性。状況を打開する道、それがこの計画の遂行だった。

 何度もシミュレーションし、皆で協議してこの賭けに臨んだ。


 ショウマは左の掌で自分の頬を覆った。


 ――暖かい。


 手の表面が温もりを知覚する。

 顔の頬に残る掌の感覚、ようやく、自分自身の存在を実感した。


 その時、遠くにゴォーと低い轟音が響いた。

 地鳴りのような振動が、隧道を震せる。


 ショウマと仲間たちは足を止めた。


「バトルシップのエンジン音だな」


 暗闇のなか、仲間のひとりが囁くように言った。

 エンジンの重低音が連続する。


「ハイネスの基地からバトルシップが出撃しているようです」

「始まったか」


 どの声も硬い。緊張に満ちていた。

 ショウマは短く命じた。


「進むぞ」


 ショウマの声に押されて、皆が足を前に進めた。

 その間も、幾重ものバトルシップのエンジン音が絶え間なく響き続けた。

 地上の基地から、バトルシップが連続で出撃しているという証だった。


 やがて、天井に続く梯子が現れた。

 天井の金網を慎重に外し、上部の空間に進んだ。

 相変わらず、光はなかったが、進んできた隧道よりも少し広い通路となっていた。

 暗闇の遥か先に、赤い電子光がぼんやりと浮かび上がっている。

 仲間のひとり、アレックス・ラングリッジ大尉が、警戒から最小限の声量で発した。


「俺が、先に行って、確認します」


 アレックスが足早に赤い電子光のもとに近づいた。

 扉に耳を当て、じっと、扉の向こうの様子を探っている。


 ……


 赤い電子光でぼんやりと浮かび上がったアレックスの姿。

 10秒ほどその姿勢で、様子を伺った後、手招きした。


 ショウマたちは、静かに扉のもとに寄った。

 扉に耳を当てたままアレックスが言った。


「物音なし。人の気配もありません」

「例の格納庫か?」

「おそらく。ここに認証機があります」


 アレックスが赤い電子光に照らされた虹彩認証機を指さした。


「扉が開錠したら、まず俺たちが先に踏み込みます。ショウマ様は、ここでお待ちください」


 ショウマは無言で軽く頷いた。

 続いて、虹彩認証機に瞳を近づけた。

 カチ、軽い音が響いた。


〈パターン特定〉


 虹彩認証機のディスプレイに緑色光でと表示され、同時に、扉が開いた。

 仲間たちが、素早く、静かに、一斉に、扉の向こうの格納庫のなかに踏み込んでいった。


 幸いなことに、格納庫は無人だった。

 アレックス・ラングリッジ大尉を先頭に突入した仲間たちが、暗い格納庫のなかを隅々まで丁寧に確認した。


 しばらくして、アレックスが言う。


「誰もいません」


 ショウマは大きく息を吐いた。

 仲間たちも、全員の張り詰めていた緊張感が、弛緩していく。


 格納庫のなかは、所々で輝く電子光が、部屋のなかをぼんやりと浮かび上がらせていた。

 モニカ・オーウェル大尉が部屋の隅に、歩み寄った。


「スイッチがありました」

「点けてくれ」

「はい」


 スイッチを押すと、格納庫の天井の明かりが、輝いた。

 暗闇に慣らされていた眼に、突然の灯は光が強すぎた。


 ショウマは眩しさに、思わず、目を閉じた。


 数秒後、ようやく眼が開いた。

 そこには、全長3・5M、紫光(ロイヤルパープル)に輝くAS(アーマードスーツ)、リゲル‐02カスタムが1台と、最新式のAS(アーマードスーツ)リゲル‐03が100台ほど燦然と並んでいた。

 奧には、バトルシップが2隻格納されている。

 2個中隊の戦力だった。


「す、すごい……」


 仲間たちがこの装備に息を呑んだ。


「まさか、これほどの装備が……」

「この格納庫は、20年前の北部大震災の時に作られた被災支援物資倉庫だった。復興後に、父アスマが軍事格納庫に変更していた」


 父アスマから聞かされていたこの倉庫の経緯だった。

 ショウマの説明に、アレックスが反応した。


「それにしても、なぜ、暫定政府軍はこの格納庫の存在に気づかなかったのでしょうか?」

「公式には、この被災支援物資倉庫は、廃棄されたことになっている。今回使用したあの秘密の接続路を含めて、この格納庫の存在を知っているのは、ジェムジェーオン伯爵家と軍の最高幹部のみだ。ロックを解除させる虹彩認証も、その者たちのみ登録している」


 アレックスが怪訝な表情を浮かべた。


 ――アレックスの表情も、当然だ。


 暫定政府軍の首脳のひとりは、ジェムジェーオン防衛軍の最高幹部、司令長官マクシス・フェアフィールド元帥だった。立場上、彼はこの倉庫の存在を知っていたはずだ。


「いま、私たちがハイネスに潜入しているとは、暫定政府も思ってはいない。そのため、この倉庫も接収されていなかったのであろう」

「ショウマ様が考えていた通りになりましたね」

「そうだな」


 ショウマも疑念を払拭しきれずにいたが、いまはその疑問を追求している時ではなかった。

 立ち上がる時はいまだった。


 ショウマは紫光(ロイヤルパープル)AS(アーマードスーツ)の前に進んだ。

 ジェムジェーオン伯爵家の一族のみが騎乗を許される紫光(ロイヤルパープル)AS(アーマードスーツ)。身体の奥から興奮が突き上げてくる。

 紫光(ロイヤルパープル)に輝くAS(アーマードスーツ)を見上げた。


 ――何にせよ、戦いの舞台に上がることだけは許されたか。


 熱く、震えが止まらなかった。

 恐怖によるものか、緊張によるものか、はたまた、これから始まる険しい戦いを予測してか、ショウマ自身にも判然としなかった。




 アレックス・ラングリッジ大尉は、ショウマ・ジェムジェーオンが昂然と紫光(ロイヤルパープル)AS(アーマードスーツ)の前に身を置く姿に、目を奪われた。

 黄金色輝きながらなびく髪、彫像の如く圧倒的な美の若者ショウマ・ジェムジェーオン。

 荘厳な情景だった。

 アレックスだけではない。この場に居るすべての人間が、ショウマの立ち姿に心を魅了されていた。

 神々しい儀式に口を挟むことは禁忌にも似ていた。


 ――だが、俺たちにはやらねばならないことがある。


 アレックスは意を決して、言葉を発した。


「ショウマ様、よろしいですか」


 一瞬の間のあと、ショウマが顔を向けた。

 アレックスは続けた。


「作戦を進めませんと、カズマ様のほうが」

「そうだったな」


 ショウマが頷いた。


「ここに至る途中、基地から出撃するバトルシップが出撃する音が聞こえたな。あの量からするとほぼハイネス駐留軍のほとんどが出たと思うが……」

「間違いありません。音から52隻のバトルシップが出撃したのを確認しました」


 ショウマに問いに応じたのは、ツインテールの髪の毛に赤縁メガネを掛け、幼い少女のような外見をしたモニカ・オーウェル大尉だった。


「ということは、ここハイネスにはほとんど戦力が残っていないということだな」

「はい。ハイネスに配備されているバトルシップは2個師団約50、ほぼ全軍がハイネスから出撃したと考えてよいかと」


 アレックスはモニカの言葉に頷いてから、ショウマを凝視した。


「今ごろ、イル=バレー要塞から出撃したカズマ様たちは、渓谷出口で待ち受ける北部方面軍司令デービス少将の部隊と交戦していると思われます」


 ショウマが微笑した。


「予定通りであれば、カズマたちの部隊が戦闘を開始したのは、1日以上前のはず。それだけ時間が経過していれば、ここハイネスの部隊も戦闘の情報を掴んでいるとみて間違いない。そして、ハイネスの軍勢は動いた」


 一瞬の沈黙。

 ショウマが周囲を見やってから、続けた。


「戦場から最も近い拠点のここハイネスを預かるトマソン少将は、駐留しているほぼ全軍を援軍に出した。つまり、カズマたちが奮戦し、暫定政府軍が苦戦しているということだ。

 そして、トマソンも最前線を預かる将のひとり、兵力を出し惜しむのは愚策と判断した。たとえ、イル=バレー要塞から出撃したカズマたちが、士気高く精鋭だったとしても、兵力は限られる。最終的に兵数や兵站が勝敗を決する。最悪の場合でも、足を止めて持久戦に持ち込めば、首都ジーゲスリードからの援軍も頼れる」

「トマソン少将はそのように考えていると思います」

「想定通りだ。戦局は、私たちの思惑通りに推移している。つまり、現在、ここハイネスはもぬけの空に等しいはず。私は皆に確認したい。私自身の願望が、現実認識の判断を誤らせてはないかを」


 アレックスは大きく頭を振った。


「いえ。小官の考えもショウマ様と同じです。ここハイネスには、間違いなく僅かな戦力しか残っていません。ハイネスの守備に残したAS(アーマードスーツ)は最大で200にも満たない。しかも、固まって配備されているとは考え難い。であれば、ここにある戦力で対処できます」


 アレックスの言葉にここにいる全員が頷いた。

 超エース級の2人、『怒涛』のアレックス・ラングリッジ大尉、『死神』のモニカ・オーウェル大尉を筆頭に、今回の突入部隊に選ばれたその他メンバーも、ジェムジェーオンのエース級のパイロットたちだった。


 ショウマが皆に視線を送った。


「甘い考えかもしれないが、ハイネスの守備隊も、私たちと同じジェムジェーオンの市民だ。戦うのではなく仲間に加えて、一緒に暫定政府軍に立ち向かっていきたい。もちろん、私も前面に出て、呼びかけるつもりだ」

「小官たちが全力でショウマ様をお守りします」


 戦場に紫光(ロイヤルパープル)AS(アーマードスーツ)が舞い降りる。

 居合わせた士官たちは、身を引き締めた。

 紫光(ロイヤルパープル)AS(アーマードスーツ)の起動キーは、ジェムジェーオン伯爵一族の登録済みのDNAだった。登録していない人間が紫光のAS(アーマードスーツ)にライドインしても、起動すらできない。

 紫光(ロイヤルパープル)AS(アーマードスーツ)は、ジェムジェーオン伯爵家そのものを意味していた。

 絶対の忠誠の対象であり、どんな犠牲を払ってでも護らねばならない。

 ショウマが左手を振り上げた。


「命令を再度、確認する」


 一同がショウマに向けて、整列した。


「モニカ・オーウェル大尉以下は、直ちにハイネス行政府と放送センターを占拠する」

「はい」

「アレックス・ラングリッジ大尉、そのほかの者は私とともに、ハイネス残留部隊を鎮圧する」

「承知」


 この場の全員が、敬礼をショウマに向けた。


「これより、ハイネス奪取作戦を開始する。一同の奮戦を期待する」




 ショウマ・ジェムジェーオンは紫光(ロイヤルパープル)AS(アーマードスーツ)にライドインする前に、自問した。


 ――勝てるか。


 ここまでの流れは、想定した通りの状況となった。

 とはいえ、決して楽観視できない。限りなくゼロに近い可能性が、僅かに光が見え始めたに過ぎない。


 ――頭で考えてもダメだ。


 シミュレーションは何度も行ってきた。あとは、変化する状況や条件のなかで、最善の選択を採ることだ。


 亡き父アスマ・ジェムジェーオンの顔が浮かんできた。


〈頼んだぞ、ショウマ〉


 そう言われた気がした。


 ――よし、これで間違えない。


 ショウマ・ジェムジェーオンは自身に向かって勝利を宣言した。

 胸の奥で、静かに、しかし確かに火が灯るのを感じた。


「面白い」


「続きが気になる」


と思いしたら、下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援をお願いします。


つまらなかったら☆1つ、面白かったら☆5つ、正直な気持ちでもちろん大丈夫です。


ブックマークもいただけると本当にうれしいです。


よろしくおねがいします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ