第三話 有用なスキル
気を逸らす事には当然のように失敗。96%の確率で失敗するのであれば、よほど運がよくなければ成功しないだろう。
更にこれで一つ分かった。確定ではないが、表示されている数字は失敗確率ではなく、やはり成功確率だという事だ。
となればとりあえず、成功確率が高い『尿を振りかける』を実行してみよう。
ただ振りかける事に成功するという事なのか、それともなにか起きるのか。どちらにしろ、迷っている時間も他の案のない。
(念のため、もう一度スキルを発動……!)
【脳天に枝を突き刺す――――※※】
【尿を振りかける――――76%】
【もう少し様子を見る————※※】
【枝を投合し注意を逸らす――――5%】
【※※※※※※※※――――※※】
(よし、ほとんどさっきと同じ表示だ……っと)
再度スキルを使用した瞬間、軽い立ち眩みのような感覚が襲ってきた。
スキルは無限に使用できる訳ではなく、使用者の精神力や体力、気力といった自分でもよく分からないものを使用して発動するらしい。
(今の僕は、どのくらいスキルを使えるのだろう?)
こんな短い間隔で神択肢を発動した事はなかった。今後のために、どのくらい連続使用が出来るのか試しておいた方がいいかもしれない。
(76%っていうのも変わってない。しかし枝を投合……5%? なんで剣より確率が高くなってんだよ)
だったら初めから枝を表示しろと思わなくもないが、どちらにしろ5%か。
心を決めた僕は立ち上がり、尿を振りかけるために準備を行った。
➡【尿を振りかける————76%】
するとどうだろう。尿を振りかける以外の表示が消えたではないか。
この行動を取る事を選択した、という事なのだろう。どことなく、迷いが消えて頭が尿の事で一杯になった気がする。
心に迷いがなくなるという事は良い事だろう。体のキレが増し、反応が鈍る事もない。心に迷いがあるというのは、どの物語でも大抵は失敗に繋がってるし。
迷わず、全身全霊で尿を振りかける。その事だけを意識すればいいのだ。
「でもこんな姿を誰かに見られたら……は、早く出さないとな」
木の上に立ち、下半身を露出する男。今まさに放尿しようというその態勢は、変態以外の何者でもない。
無能プラス変態。終わりだ、そんな事になったらもう挽回なんて出来ない。
「よ、よし。量は十分にありそうだ……じゃあ、行くぞっ!!」
感覚で尿の溜まり具合を把握。もし万が一、予期せぬ方向に飛んでしまっても、軌道修正できる量だ。
――――シャーーーーーー。
その溜めに溜め込んだ液体は、見事な弧を描きブラックベアに降り注がれる。
一先ず『尿を振りかける』事には成功したが、それでどうなる? まさか本当に、尿を振りかける事に成功するだけなのだろうか。
それではただの嫌がらせにしかならない。まぁ頭から尿を振りかけられたら、嫌がらせなんて言葉じゃ収まらないが。
「グゥヒヒ、グヒッ……グ……グゥ? ――――グギャァァァァァッ!!!」
「うおッ!? な、なんだ!? どうした!? 怒ったのか!?」
尿を降り注いですぐ、ブラックベアに変化が現れた。
あれほど熱心に行っていた爪とぎを止めて、鼻を押さえて暴れ出したのである。
「グゥアァァッ!! アッーーーーーー!!!!」
大きな雄たけびを上げたと思ったら、ブラックベアはそのまま遠くへ走り去っていった。
――――シャーーーーーー。
これは、文句なしに大成功だ。これで逃げる事ができる、活路が開けた。
「ふ……ふははははっ! やったぞ! やっぱり成功率なんだ! 恐らく自分にとって良い結果となる確率だ……すげースキルじゃないか!!」
尿を垂れ流しながらも、あまりの結果に震えながらガッツポーズ。
あの数字は尿を振りかける事に成功する確率ではなく、自分にとっていい結果となる確率なのだろうと、都合のいい解釈をしながら尿を垂れ流し続ける。
だって尿を振りかける事に成功する確率が76%じゃ低すぎる。量的に軌道修正できるから、もっと高確率じゃなきゃおかしい。
――――シャーーーーーー。
たまに二又に分かれて大惨事を引き起こす事はあるが、あれは避けようのない災害みたいなものだからな。
ともあれ、神択肢のお陰で助かった。覚醒したこのスキルを活用していけば、冒険者ランクを上げる事だって夢じゃない。
そのためにはもっとこのスキルの事を知らなければ。今の僕は日に何度使用できるのか、そもそも%表示は今後も出続けてくれるのかといった所か。
――――シャーーーーーー。
「さっきは軽めの立ち眩みだったけど……今度はどうだろう?」
使用回数の把握のため、僕は再度スキルを発動した。
【このまま尿を出し続ける――――19%】
【尿を出しながらこの場を去る――――※※】
【致し方なしにズボンを上げる――――※※】
【尿の放出を強制的に中断――――91%】
【※※※※※※※※――――※※】
問題なくスキルは発動した。再び軽い立ち眩みには襲われたものの、まだまだスキルを使用するのは問題なさそうだ。
表示されたものは全て尿関連のもののようだが、%表示もしっかりとあった事に安堵する。
「よし! 91%がある! これを選た……強制的に中断!?」
馬鹿な、あり得ねぇ。今の感覚から、尿の放出はピークを迎えているのだ。
そんな状態で強制的に中断。それは息子への負担が大きすぎるし、そもそもそんな簡単に中断できるものではない。
変な病気にでもなったらたまらない。僕は他の文字列に意識を切り替えた。
「尿を出しながら……この場を去る!? 尿を撒き散らしながら走り回る男……それはダメだ! 次は……致し方なし!? 致し方あるよ! 大惨事になるじゃないか!」
――――シャーーーーーー。
どれほど溜まっていたのか、尿の勢いはまだ衰えていない。
しかし中断する事も、撒き散らす事も、ズボンを濡らす事だって選択したくない。
(ど、どうする!? やっぱり思い切って中断するしかないのか!?)
➡【このまま尿を出し続ける――――19%】
「あっ!? なに勝手に選択してんの!? まさか時間切れとかあんの!?」
意識して『尿を出し続ける』を選択してはいなが、図らずも出し続けているという今の状況が選択したのだろうか?
どちらにしろもう選択済み、ステージは一歩先へと進んでしまった。
(19%って、80%以上の確率で良くない事が起こる……? まさかブラックベアが戻って――――)
「――――あ、あの……なにしているのですか……?」
ブラックベアの再来に恐怖していると、すぐ近くから人の声が聞こえた。
恐る恐る視線を向けると、変態を見てしまったとでも言いたそうな目をした、可愛らしい女の子が僕を見上げていた。
――――シャーーーーーー。
それでも止まらない僕の尿。大分勢いは衰えていたが、それでもバッチリ見られてしまった。
木の上で下半身を露出し尿を撒き散らす男、ロイス・ジェラール。
それを目撃した、冒険者風の装いをした見目麗しい女の子、名は知らない。
「き……きゃーーー!! 見ないでェェェ!!! へんたーーーいィィィ!!」
「いや、変態は君なんじゃないですか……?」
ブラックベア再来の方がマシだった気がする。そもそもあの時に中断しておけば、こんな事にはならなかった。
僕は心で泣いた。女の子に恥ずかしい場面を見られてしまった事。そして神択肢の有用さに。
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