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引きこもり賢者、一念発起のスローライフ 聖竜の力でらくらく魔境開拓!  作者: みなかみしょう
第十七章「聖竜領の春と新しい家」

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293.さて、今年はどうなるかな。

「服を買い、料理を手配しました」

「そうか。ついにそこまで来たか。……お、釣れ……ないな」

「釣れませんねぇ」


 聖竜領南部、港予定地。最近では俺を含めた一部の人間が釣りをする憩いの場。今日はロイ先生と共に、俺は釣りを楽しんでいた。

 収穫祭を終えて、冬支度をしている領内の仕事は比較的穏やかだ。俺が担当する土木作業も残ってはいるが、こうして友人とゆっくりと過ごす時間をもうけるくらいはできる。


 ロイ先生といえば、アリアとの結婚である。秋も終わる気配を深めつつある昨今、その日は近い。何より、中央会館の講堂がほぼ完成しているのが、彼が落ち着きを無くす一番の要因だろう。

 

 のんびりと釣り糸を垂れているように見えて、ロイ先生から式の準備やら日程の相談を受けているわけである。正直、相談相手として俺はあまり相応しくない気はする。いつも思っていることだが。


「式の内容についてはサンドラと相談して決めるし。料理関係はトゥルーズに手配すればなんとかなるんじゃないか? 足りなそうなものは、ダン商会に頼んで揃えてもらうといいだろう」

「ダン夫妻にはむしろ、新生活について相談していますよ」

「なるほど。領内に家を建てる予定だったな」

「はい。魔法士の工房は作れませんから、屋敷に通う形になりますね」


 ダニー・ダンはここに来た時から妻帯者だった。結婚式の内容以上に、彼らの新生活についてはとても良い助言をしてくれることだろう。

 今の話の通り、ロイ先生とアリアは将来屋敷を出る。領内に家を建てて、そこから屋敷を仕事場として通う予定だ。


「中央会館内の事務室といい、領内の仕事の形が少し変わるな」

「良いことだと思いますよ。発展に合わせて、拡張できているわけですから」

「そうだな。良い変化だ。……あれの制作者のように、あまり変化のない者もいるが」

「スティーナさんとドワーフは相性が良すぎですから」


 そう言って俺達がみた視線の先には、小さな小屋があった。南部開発資材の余りを使って、スティーナが作った休憩所である。

 少し前まで、彼女はタイミングがあったらトゥルーズやアリアと共に釣りに来て、その成果をつまみにして飲んでいた。実質、彼女の飲酒小屋みたいになっていた。


 それも過去の話。先日のドワーフとの宴会事件以降、スティーナは禁酒を言い渡され、この小屋は普通の休憩所として運用されている。


「あの小屋については有効利用させてもらおう。さっき床の下に隠し倉庫があって酒が入っていた。俺が預かっておくとスティーナには説明しておく」

「お酒に対する執念が凄すぎて心配になりますね……」


 優秀な大工の飲酒量について本気で心配していると、遠くから元気な雄叫びが聞こえてきた。


「釣れましたぁぁ! 自由! 釣り! 自由! 冬は大好きです!」


 頭の先から怪しい触手みたいなのが生えている魚を持って駆け寄ってきたのは、エルフの族長ルゼ。収穫祭を終えて、医師と族長という二つの仕事から一時的に解放された姿である。


「凄いな。これで何匹目だ?」

「四匹です! たくさん釣ってお土産に持って帰りましょう」


 そういいながら、俺が冷凍の魔法をかけておいた箱に魚を入れるルゼ。彼女は釣りが得意だった。領内で一番かもしれない。釣り上げた魚は、屋敷に持っていってトゥルーズの手で調理される。実は、サンドラがここ最近で一番楽しみにしているメニューでもある。


「なんだか、ここで釣りをするのが定番になってきたな。そのうち近くに住居を設けてもいいかもしれん」


 海が見える場所というのは、結構気分転換になって良いし。一考の余地がある。アイノも喜ぶだろう。


「アルマス様の別荘ですか。それは良いことです。南部のお仕事は今後も増えるでしょうから」

「ああ、それだ。二人にちょっと相談なんだが、来年春に来る予定の牛をどう運ぶかの件だ」

「確か、近くまで来て山越えはハリアさん達を使うんですよね。牛を閉じ込めて飛ばすのはどうなんでしょう?」


 ロイ先生がそう疑問を述べると、ルゼが少し考えて言う。


「アルマス様の魔法で眠らせるのが良いかと思います。私達の薬でも可能ですが、調節が難しいので」

「そうか。薬は難しいな」


 相手の大きさや種族によって、必要な薬の量は変わるという。今回はその上、牛が対象だ。俺の魔法でいく方が確実だろう。


「眠りの魔法も調節が難しいんだが、まあ、なんとかなるだろう。体に異常はないはずだ。昔、氷結山脈の魔物を眠らせて、運んだことがある」

「その場で退治しなかったのですか?」

「少し珍しい魔物でな。氷結山脈固有のグリフォンの亜種だった。普段は山頂近くにいるのが、うっかり降りて怪我をしていてな。治療して帰してやった。昔の話だよ」

「ここに人が来る前のことですね」


 ルゼの言葉に頷く。もう百年以上前のことだ。賢い魔物だったが、今でも生きているのだろうか。魔物の寿命は謎が多いので詳しくはわからない。


「いつか、氷結山脈や、この辺りの海も地図にしたいですね」


 水平線の向こうを眩しそうに見つめながら、ルゼがうっとりとした声音で言った。


「いや、危ないからそれはやめておいた方がいいぞ」


 冒険好きのエルフの好奇心は、相変わらず留まるところを知らないようだった。


「冷えますね。小屋の暖房に火を入れてきます」


 穏やかな笑みを浮かべながら、ロイ先生が小屋に向かって行った。海からの風がとても冷たい。いよいよ、冬が来るな。

 本来は静かで落ち着いた季節になるべきだが、聖竜領にとっては来客の季節だ。

 

 さて、今年はどうなるかな。


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