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引きこもり賢者、一念発起のスローライフ 聖竜の力でらくらく魔境開拓!  作者: みなかみしょう
第十七章「聖竜領の春と新しい家」

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269.そして何より、今ここでやるべきことがある。

 久しぶりにアイノと顔を合わせて元気になった俺は、二日後に南部に戻った。その際、ヘリナとは別行動になった。彼女は彼女で、聖竜領内で動いてみることにしたそうだ。多少なりとも心理的な変化が起きているのだろうか。


 そして今、俺の前にはこれまでにない光景が広がっていた。


『よく出来たもんじゃのう』

『昼夜問わず、頑張りましたからね』


 一緒に景色を眺める聖竜様が語りかけてくる。

 俺の前に広がる景色、それは海だ。聖竜領南部の切り立った崖、その東部に若干だが傾斜が緩やかで、海面近くに平地が見える場所があった。

 これまでの工事の合間をみて、俺はそこに向けて坂を作った。材料はその辺にある岩。ゴーレムを作って、地面を掘り、崖を崩しての大工事だ。


『なんというか、まさか本当に一人でやりきるとは思わなかったのう』

『これは俺の個人的な趣味ですからね。寝ないで動ける眷属の特性を最大限利用させて貰いました』


 眷属である俺は昼夜問わず動き続けることができる。激しい働き方は精神的に良くないし、周りに心配をかけるのでやらないようにしているが、今回はあえてやらせて貰った。

 それと今更だが、俺はゴーレムを使った土木工事が嫌いじゃない。破壊のためにしか使ってこなかった魔法を建設的なことに使うのは素直に嬉しい。あと、今回みたいな造成は細かい挙動を要求されないから、自分でもできるというのもある。


 とにかく、無理矢理作った時間を使い、海への道が出来た。馬車がすれ違いくらいできる坂が出来上がった。少し急だが、まあ許容範囲だ。海辺の方もこれなら船が停泊できる港へと造成できるだろう。


 サンドラからの要望でもあった港の建築。その第一段階が完了した。

 そして何より、今ここでやるべきことがある。


『来ましたね……』

『そのようじゃ』


 接近してくる存在に俺と聖竜様が気づいたのは同時だった。

 港とは反対、南部の住宅地がある方角からやってきたのは小さな荷馬車。幌も無いその御者台と荷台には見知った顔が乗っていた。

 料理人のトゥルーズと、ドワーフ商人のドーレスだ。

 荷台には様々な物品とは別に細長い棒状の物が乗っている。


「では、早速、食材調達に挑戦しますか」

『うむ。期待しておるぞ』


 今日はこれから釣りの時間だ。

 聖竜領でこの場所のことを話したら、トゥルーズが物凄く乗り気で同行を希望した。移動手段についてちょっと悩んだら、自分からドーレスと話をつけてくるくらいの勢いだ。


「まさか、トゥルーズから釣りを申し出てくとは思わなかったよ」

「新しい食材のためなら、手段は選ばない。どんな魚が釣れるか確認したい」

「あてくしとしてもダン商会の新たな商材のために、このくらいは致しますです」


 それぞれ打算のためにやってきた料理人と商人は、釣り竿を手に胸を張って言った。

 荷馬車で坂を下り、目の前は海。足場の良い突き出た平らな岩場で、これから釣りの時間だ。


「俺としても報告してくれる仲間がいるのは助かるよ。釣りの腕も自信はないしな」

「任せて。料理人は食材の調達もできるところをお見せする」

「こちらも、新商売がかかった商人の気合いをお見せしますです!」


 釣り竿などの道具一式はドーレスがわざわざクアリアで調達してくれた。近くに海がないので入手に難儀したらしい。荷馬車まで手配してくれたので、後で謝礼を払わないとな。


「あんまり気負いすぎないようにな。せっかくだから、心穏やかにいこう」


 その辺で捕まえた虫を針につけ、それぞれ準備を完了。俺の言葉が聞こえているんだろうが、二人はやる気十分といった感じで、勢いよく竿を海に向かって振った。

 これで釣れなかったらどうしようか。


 そんな不安と共に、俺も竿を振ってみた。


 それから四時間。誰一人釣れなかった。


「……おかしい。これまで漁師の一人もいなかった海なんだから、それなりに釣れるはず」

「クアリアの元漁師のおじさんもそう言ってたです。大漁でお土産を約束してたですのに……」


 料理人と商人が、絶望で地面に崩れ落ちていた。ドーレス、保証できない約束はしないほうがいいと思うぞ。


「しかし困ったな。ここまで当たりがないとは思わなかった。この辺りに魚はいないのか? それとも、別に原因があるのか? ……あるいは、俺が原因か?」


 魔物の多くは、俺の気配を察すると逃げる傾向がある。目の前の魚もそれでいなくなってしまったのだろうか?


『さすがにそれはないと思うけどのう。今のお主は、殺気をまき散らしとるわけでもないわけじゃし』

『なるほど。つまり純粋に実力というわけですか……』


 絶望的な結論が出た。実力不足で釣れないとは。


「とりあえず、軽食を作るね。道具とパンだけは持ってきてるから」

「ほんとはお魚パーティーの予定だったんですけどね……」


 肩を落としながらも荷馬車から調理道具を下ろし始める二人。あまりにも居たたまれない。せっかく楽しみにして来て、やる気もあったんだから、それなりに良い記憶を残してやりたい。なにか、なにかないか……。


『海中に強力な魔法を打ち込んで爆発させるのはどうでしょう。魚が浮いてくると思うのですが』

『落ち着くのじゃ。あんまり極端な漁法は良くないぞ。それにほれ、救い主がこちらに来ておる。空を見るのじゃ』


 聖竜様の呆れ声に言われて空を見ると、見覚えのある巨大な影が見えた。


「こんにちは、アルマス様。魚は獲れた?」


 こちらに近づくにつれてサイズが小さくなっていくそれは、水竜の眷属、ハリアだった。


「助かった……。ハリア、頼みがある。魚を穫ってきてくれないか」


 その一言で優秀な水竜の眷属は全てを察してくれた。空からトゥルーズ達の様子を見て、だいたい把握していたらしい。


「じゃあ、ちょっと待っててね」


 気楽な返しと共に、巨大化したハリアが海へと潜っていく。


 それからしばらくして、ハリアが大漁の魚を確保してくれたおかげで、どうにかその場をしのぐことができた。

 釣りの技術に関しては、トゥルーズが本気で落ち込んでいたので、今度また再チャレンジすることになった。釣り名人でも領内に遊びに来てくれないものだろうか。

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