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引きこもり賢者、一念発起のスローライフ 聖竜の力でらくらく魔境開拓!  作者: みなかみしょう
第十七章「聖竜領の春と新しい家」

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265.難儀な性分だな。リリアに注意された意味がようやくわかってきた。

 聖竜領南部の湖には、川が流れ込んでいる。かつて俺が地形操作で生み出した川であり、資材の運搬や水の確保などで活躍している河川だ。

 俺とリリアは、その川の南部入口側に儲けられた資材の運搬所で人を待っていた。

 

「これから来るのはヘリナちゃん。腕の良い画家なんですが、ちょっと精神の起伏が激しいんです。でも良い子なので優しくしてあげてください」

「感情の起伏か、いかにも芸術家という感じだな。なにか気をつける点はあるか?」

「うーん。なんでしょう。アルマス様は自然体で平気な気もします。少し驚くことがあるかもしれないですけど、穏やかに接してくださいね」

「? 承知した」


 今一つ要領を得ない話だが、とりあえず理解はした。芸術家らしい、精細な人物が来るのだろう。画家というのはこれまで聖竜領にいなかった人材だ、どんなものか正直興味もある。

 そうこうするうちに川からイカダが下ってくるのが見えた。数は三つほどで、大量の資材に混じって見慣れない人影がいるのが見えた。

 数分もしないうちに、イカダは岸に到着し、大量の荷物と共に待ち人が上陸した。


 蜂蜜色の癖のある髪を伸ばしたラフな格好をした女性だ。動きやすさを重視しているのか、長袖の上下はどちらもゆったりと着こなしている。

 身長は普通といったところで、どこか疲れた目つきと、落ち着き無く周囲を見回している。


「ヘリナちゃん、お久しぶり」

「……リリアさん、久しぶりです。急な話を許可してくれてありがとう。そちらは?」


 にこやかに挨拶をしてきたリリアに、薄い笑みを浮かべながら返事を返すヘリナ。感情を表に出しにくいタイプなのかもしれない。


「アルマスだ。聖竜様の眷属をやっている」

「あ、あなたが噂の……普通の人間なんですね」


 あからさまにがっかりされた。俺に何を期待していたのだろうか。それこそ、絵の題材だろうか。


「悪いが、見た目は普通の人間なんだ。あまり変わったことは期待しないで欲しい」

「大丈夫、アルマス様の近くでは面白いことが目白押しですよ」


 その言葉を否定はしない。聖竜領で俺がやっていることは、イグリア帝国内ではちょっとは珍しいはずだ。

 挨拶を終えた後、荷物が次々に下ろされていき、別荘地行きのレール馬車に乗せられていく。ヘリナの荷物は個人にしては多く、大きめの木箱一つ分くらいあった。


「随分と荷物が多いな」

「画材です。自作の物も多いですし、手に入りにくいものが多いですから」


 それもそうか。聖竜領なんて田舎だと画材をそろえるのも一苦労になる。大荷物になるのも仕方ない。


「じゃあ、とりあえずは建設中の別荘地を見て貰いましょう。今回、結構頑張ってるんですよ」

「はい、宜しくお願いします」


 なんだ、聞いてた話より随分と穏やかじゃないか。心配は杞憂だったかな。

 そう思えていたのは、リリアが本気で設計した別荘地に足を踏み入れるまでだった。


「ああああ! 私は! 私はなんで何も生み出せないんでしょうかぁあぁ! リリアさんがこんな素晴らしいものを作ってる間に、私はっ、私ときたらっ、このクズ! クズですこれは! クズがここにいるんですよぉぉぉ!」


 大量の資材と人員とリリアの才能が注ぎ込まれた聖竜領の別荘地。それを見た瞬間、ヘリナは絶望して崩れ落ち、絶叫を始めた。


「落ち着いてください。ヘリナちゃん。貴方も立派な画家さんですよ!」

「そうだ落ち着け。地面を殴っても怪我をするだけだぞ」


 久しぶりにびっくりした。いきなり拳で石畳を殴り始めたからな。血が出ている、危ないし、見てて痛々しい。


「す、すいません。つい取り乱してしまい。スランプ如きで筆が止まる自分の情けなさに……つい」

「俺は芸術に関してはなにも言えないが、自傷行為は良くないと思う。手を見せてくれ」

「…………?」


 怪訝な顔をしつつ出された右手は、皮が厚く、彼女の研鑽を思わせるものだった。少し見える腕の筋肉も結構ある。絵を描く以外にも色々試しているんだろうか。

 とりあえず血まみれで痛々しいので、治癒魔法で治しておいた。


「おお、アルマス様、さすがの魔法ですね」

「このくらいは簡単だ。君の手は絵を描くためのものだろう、大切にしてくれ。俺は手先が器用な人間は尊敬しているんだ」

「……あ、ありがとうございます」


 不思議な顔をして右手を見ながら、お礼を言われた。治癒魔法を初めて見たんだろうか。


「ヘリナちゃん、注意しておきますけど、アルマス様にあんまり迷惑かけちゃ駄目ですよ。今みたいに自分を傷つけて魔法を使わせるのも駄目です」

「す、すいません。私、他の人の素晴らしい仕事を見ると、つい劣等感がほとばしってしまい……」


 難儀な性分だな。リリアに注意された意味がようやくわかってきた。


「いつも俺がいて治療できるわけじゃないしな。体は大事にしてくれ」

「はい。すいませんでした。それで、滞在中のお願いなんですが、絵を描かせて欲しいのです」

「スランプ脱出のためだろう。それは聞いてるぞ」

「できれば、アルマス様の仕事を見せて頂けると……」


 なんでそうなる。


「なにか理由があるのですか?」

「リリアさんと一緒にいると劣等感を刺激されそうで……。それに、噂の眷属様の近くの方が色々と刺激があるかな、と」

「俺の近くにいてスランプ脱出となるか、保証はできないぞ?」

「でも、さっき言ったように、たしかに刺激にはなると思いますよ。アルマス様はある意味聖竜領で一番刺激的な出来事を起こすことに長けていますから」


 我ながら嫌な能力だ。いや、眷属としての能力を使うとそうなるだけなんだが。

 どうしたものか、と思っていると、目の前のリリアが丁寧な所作で頭を下げてきた。


「アルマス様、どうか私からもお願いします。彼女は数少ない友人であり、優秀な画家です。きっと、お仕事の邪魔にもなりません」

「お、お願いしますっ。せめて、なにか着想を得られるまで」


 続いてヘリナが地面に頭を打ち付けんばかりの勢いで頭を下げてきた。いちいち怖い動きをする子だな。 


「退屈すぎて苦情を言うのは無しで頼む。割と地味な土木作業ばかりなんでな」


 こうなると断れない。

 画家が同行か。それ自体は問題ないが、どうなることやら。スランプ脱出の手伝いなんてできる気がしない。

 ともあれ、しばらく俺の仕事にヘリナという画家が同行することになったのだった。


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