260.本当に意外といった様子で言われた。
その日の夕食は、領内にある店で済ませることにした。
いつものダン商会の酒場ではなく、東都の商会が出している店だ。最近、クアリアと同時に開店した場所で、少し高級で個室があるのでよく商人が使っている。
この店を選んだ理由は、ちょっと良い目の夕食を取りつつ、アイノとちょっと面倒な話をするためだ。
トゥルーズの作る料理とはまた違った品の数々を味わいつつ、俺はその話題を切り出す。
「サンドラから聞いた。クアリア西の工事に参加したいと申し出たそうだな」
「……うん。まずかった?」
一瞬、動きを止めてからこちらをじっと見つめてアイノが聞いてくる。俺が反対することを懸念しているんだろう。実際、こっそり話してたわけだしな。
「説明を受けて了承したよ。ただ、いくつか条件はあるが」
「ほんと! ありがとう、兄さん。それで、条件は?」
「魔法具による連絡手段の確保と、メイドの同行だ。できれば護衛もつけたい所なんだが……」
「ちょっと大げさすぎない?」
「いや、むしろ足りないくらいだな。アイノ、これは俺の個人的感情から言っているわけじゃない。今のお前は眷属と同等の力を持つ、世界でも稀な存在だ。外で仕事をして能力を広く知られれば、利用しようと企む者が現れるだろう」
「…………」
周囲が守ってくれる聖竜領でも、出張所があるクアリアでもない場所で活動するならば、心構えの一つくらい持っていてほしい。少し過剰でも、それがアイノを守ることになるだろう。
「特にアイノは俺よりも自由に動ける立場だ。今はともかく、将来的にはそうなるだろう。それを知った者がどんな行動に出るかわからない。それ故に、多少大げさに見えるくらいの対応を準備しなければならないんだ」
眷属でないアイノは、今の時代の常識を身につけて、ある程度しっかりと身を守れるようになれば自由の身だ。恐らく、メイド学校を卒業する頃には準備は整うだろう。
目覚めてからそれなりの経験を積んでいるとはいえ、まだ単独行動をさせるにはちょっと不安なのもたしかだ。
『まあ、お前さんは基本シスコンじゃしの。過剰なくらい思い悩むのが似合っておる』
聖竜様もこうして認めてくれている。そう、これは妹を思うが故の仕方なき行動なのだ。
「……兄さん、そこまで考えて、よく許してくれたわね」
本当に意外といった様子で言われた。
「アイノが自分で考えて出した結論だ。それに、クアリアの西くらいならなんとでもなる。何かあったらすぐに聖竜様経由で俺に連絡するんだぞ。あらゆる脅威を排除して見せる」
「なるべくそうならないようにする。……ありがとう、兄さん。色々考えてくれて」
「それが俺の仕事だからな。気にしないでいい」
頭を下げてきたアイノに俺は笑顔で応じる。ちょうどそこで、デザートが運ばれて来た。俺達を見てサービスしてくれることになっていた品物だ。
なんか複雑な手法で作られたケーキを食べながら、俺は話を続ける。
「仕事としては俺にとって非常に助かる。帝国内の流通が早まれば、色々と便利になるしな。きっとメイド学校の開校も早まるぞ」
「それ、サンドラさんも言ってた。なんでも第二副帝様が強力に推し進めているんだって」
「待て、それは初耳なんだが」
まさかここで奴の名前を聞くとは。いや、そもそも資金の出所を考えれば容易に思いつける。くそ、さては出来るだけ早く聖竜領に来るために打った布石の一つだな。
「私が協力を申し出たらサンドラさんが教えてくれたの。ただ、西には兄さんが行って、私が南部って話を最初はしてたけど」
「南部の方は色々とあるからな。地形を動かすかもしれない」
「そうすると私には無理ね」
「だが、アイノは聖竜領から遠く離れて自由に動くことはできる。その練習だと思えばいい」
眷属である俺は聖竜様の領域にどうしても縛られる。それと比べれば、アイノは多くの自由を得ることができるだろう。
願わくば、楽しい日々を送ってほしい。それが俺の兄としての、変わらぬ願いだ。
「でも、ちょっと不安もあるの。ここから遠く離れるのって、初めてだから」
「なんなら、連絡さえあれば、空から会いに行くぞ。フリーバという新しい水竜の眷属が来たからな」
「大騒ぎになりそうね。でも、ちょっと見てみたいかも」
「そのうち色々な所へ空から移動できるようになるかもしれない。そうしたら、珍しい場所にだってたくさん行ける筈だ」
そのためには、イグリア帝国が出来るだけ平和でいてもらう必要がある。俺たちが国内をちょっと旅行するようになるくらいまで、落ち着いた治安をたもってほしいものだ。
「旅行か。いいなぁ、私、メイド島に行ってみたい。素敵なメイドさん達が沢山いるんですって」
「そ、そうか……」
その後、アイノがメイド学校を本当に楽しみにしていることを存分に聞かされた。リーラのことを本気で尊敬していることについては、「よく考えるんだ」と言っておいたが、真意が伝わった自信はない。








