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引きこもり賢者、一念発起のスローライフ 聖竜の力でらくらく魔境開拓!  作者: みなかみしょう
第十六章「南へ……」

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234.俺がいない間に一体何があったんだ……。

 帰路は途中まで馬車だったが、山越えになればどうしても徒歩になる。

 往路よりは早いとはいえ、結局七日ほどかけて、俺達は聖竜領に到着した。


 驚いたことに、山を越えて南部の平原に到着したところで、ハリアが迎えに来てくれた。聖竜様とこまめに連絡していたおかげで、サンドラが手を回してくれていたらしい。

 おかげで俺達は人間用の荷箱に乗り込んで、聖竜領に帰ったその日のうちに、領主の館にかえることができた。


「三人とも、お疲れ様。本来ならわたしが行くべき所を任せてしまって申し訳ないの。報告を聞いた感じ、上手くいったようだけれど」


 増築が進み、新たに設けられた応接で出迎えたサンドラは、俺達を労いつつ、今回の遠出についての報告を促した。

 彼女の言葉通り、報告は適宜行っていた。あくまでの確認のための行為だろう。

 サンドラの表情は穏やかで、不穏な気配は無い。久しぶりに会ったが、癖のある金髪と強い意志を感じさせる眼差しもそのままだ。もう十七歳だが相変わらず小柄な所は、俺はあえて触れないことにしている。


「報告した通りだよ。ロウニィ地方の領主サーフォと、昔からの重鎮達の関係が悪かったが、仲介役になるヨセフという人物を治療して復帰してもらった。仕事量を調節しつつだが、少しずつ情勢は安定するようになるだろう」


「アルマス様の案で、メイド島から人を派遣できないかという話になったです。それは大丈夫ですか?」


 俺の発言を補足するように付け足したドーレスの言葉に、サンドラは頷いた。


「そちらも把握しているわ。既に私の方からお父様……魔法伯をはじめとして問い合わせをしているの。できれば、アルマスからも第一副帝に連絡をお願いしたいのだけれど」


「俺の言いだしたことだからな。すぐに手紙を送るよ。悪いことじゃないし、何とかなるだろう」


「あ、それでしたら、私にも魔法具を貸してください。第一副帝にお願いできますからー」


 リリアが手を挙げていう。あの第一副帝だ。リリアからの手紙は効果絶大だろう。かなりの速度でメイド島から人が派遣される予感がする。


「ええ、是非お願い。三人とも、長旅の後だからしばらく体を休めてね。……なんだか凄い元気そうだけれど」


 俺達三人を軽く見回して、サンドラが何ともいえない目をした。


「山越えをしたとはいえ、緩かったし。温泉に滞在したからだろうな」


「ヨセフという方が療養していたという場所ね。……いいところだった?」


「かなり」


 俺が即答すると、サンドラがどんよりとした目をした。

 行きも帰りも山越えしたし、仕事もちゃんと果たしたが、しっかり休養をした上での帰還だ。温泉地での休息のおかげか、身も心もすっきりしている。


「……わたしも行きたかったな。温泉」


「街道がちゃんと出来れば、領主を訪ねるついでに行けると思うぞ」


「本当にそう思う?」


「…………」


 サンドラは領主の仕事で多忙だ。領主サーフォを訪ねたついでに、温泉地に滞在なんていうスケジュールを組むのは難しいだろう。

 それをわかっているので、俺達三人は沈黙するしか無かった。


「お嬢様、その際はこのリーラにお任せください。なんとしても、お嬢様に温泉での癒やしの時間を設けます」


 ずっと沈黙していたリーラが、突如そんなことを言いだした。

 俺にはわかる。一見、主君を気遣っているようだが、サンドラと共に温泉に入りたいだけだ。そしてきっと、そのために自分の全能力を使って実現する。この戦闘メイドはそういう存在だ。

 

「メイド島以外の件でも、いくつか話が必要になると思う。ドーレスはダン商会の支店を出したいみたいだし。リリアは資材類の手配先に顔を通してきた」


「はい。目処をつけてきたです」


「仕事をしやすくなる予定ですよ」


 しっかり仕事をしてきましたと言わんばかりの二人を見て、サンドラは頷く。


「そういった細かい報告も後で聞きましょう。とりあえず、今日の所は三人とも屋敷で休んで頂戴。トゥルーズに頼んで好きなものを作ってもらって良いから。まずは休養よ」


「そういうサンドラはちゃんと休めているのか?」


 一時的とはいえ、人手が減って大変だったんじゃないだろうか。とくに俺がいないと魔力供給関係に滞りが出る。

 そんな心配から出た言葉だが、意外にも、サンドラは軽く笑み浮かべながら答えた。


「最初は覚悟していたのだけれどね。アイノさんが思った以上に頑張ってくれているの。アルマスの代わりの仕事をしたり、色々とね」


 聖竜様もそんなことを言っていたな。さすがは俺の妹だ。早くも兄の想像を超えて活躍を始めた。


「そういえば、アイノを見かけないな。てっきり屋敷で出迎えてくれると思っていたんだが」


「少々、仕事の関係で外に出ておりましたので。まもなく戻って来られるはずです」


 いつも通りの無表情で、リーラが教えてくれた。


「そうか。土産話では無く、アイノの活躍を聞かなきゃいけないな」


 嬉しくなってそんなことを言うと、サンドラが少しだけ真剣な顔をして言った。


「アルマス、驚かないでね」


「? どういうことだ?」


 俺が疑問を口にしたのと同時、部屋に近づいてくる足音が聞こえた。

 眷属としての俺の聴覚は凄まじく、それが聞き慣れた身内のものであると即座に判別する。

 間違いない、アイノが俺に会いにやってきている。

 感覚は正しく、すぐにドアがノックされた。


「アイノです。宜しいでしょうか?」


「……答えが来たわね。どうぞ、入ってちょうだい」


 サンドラの声を聞いて、ゆっくりとドアが開く。

 姿を現したのは薄茶色の髪に柔らかな印象の顔つきをした女性。

 間違いなく、我が妹アイノだ。


「失礼します。兄さん、おかえりなさい。無事に帰ってきて良かった」


 弾むような口調で話しながら入室してくるアイノ。

 その姿に、俺は驚きを隠せなかった。

 

 久しぶりに会う妹は、何故かメイド服を着ていた。


「どういうことだ?」


 この状況を説明してくれそうな領主主従に向かって言うと、二人揃って目を逸らした。


 俺がいない間に一体何があったんだ……。

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