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引きこもり賢者、一念発起のスローライフ 聖竜の力でらくらく魔境開拓!  作者: みなかみしょう
第十五章『シスコンと皇帝来訪の冬』

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212.この発言もどこまで信用していいものか。いや、頼もしい味方だと思おう。

 皇帝クレストの要望もあり、俺とアイノは滞在中は基本的に同行することになった。

 アイノに対して個人的に興味を持っているというのが心配ではあるが、同時にチャンスでもあると俺は判断した。


 ここで皇帝がアイノの味方になってくれれば、これほど頼もしいことはない。イグリア帝国内において、色々と助かることだろう。将来、アイノが独り立ちした時にこの出会いが役立つといい。そんな判断だ。


 帰ってきてすぐに独り立ちの心配をしているなど、我ながら自分勝手だとは思うが、先を見据えるのは大切なことだ。夜とかうっかり考えすぎてしまい、涙が出そうになったりするが、これは致し方ないことだろう。

 

「というわけで、すまないが協力を宜しく頼む。サンドラ」


 目の前にいる聖竜領領主に対して、俺なりに考えた事情を簡略化して伝えた上で軽く頭を下げる。

 時刻は朝、場所は屋敷の食堂。朝食を終えたサンドラ達を見かけて話しかけたところである。


 ちなみに皇帝は自室で食事で、アイノはマイアと朝の鍛錬を行っている。


「……色々と考えたのね。わたしとしても良いと思うし協力したいのだけれど、ちょっと難しいかも」


「別件があるのか?」


 意外な回答だ。皇帝来訪ともなれば、領主であるサンドラもそちらを最優先だと思っていたのだが。


「期間中、わたしはお父様と一緒にいることが多くなるの。これは皇帝陛下からの命令みたいでね……」


「そうか、それは大変だな……」


 事情は理解できた。皇帝からの気遣いというやつだ。サンドラ達親子が関係を立て直せるようにということだろう。


 これはこれで大変だ。和解したとはいえ、年頃の娘と不器用な父親、なんともいえない空気感を想像するのは容易い。


「ヘレウスは仕事面は有能だ。そちらの方は問題ないだろう」


「そう考えて仕事ごとこちらに来たんでしょうね。なにか初手から間違えてる気もするのだけれど」


 娘に見透かされているな。父親の活躍に期待しよう。


「……今になって少し不安になってきたな。アイノが同行している間、サンドラの助けがあるから平気だと思っていたのだが」


「アイノさんなら大丈夫よ。しっかりしているもの。皇帝陛下だってなんの考えもなく言ったわけではないでしょうし」


「その考えが見えないのが問題なのだが……」


 この後、サンドラと少し話をしたが、クレスト皇帝の狙い自体はまだわからないという結論になった。


○○○


 サンドラと話をしているうちに時間が過ぎて、外で皇帝と待ち合わせる時間になった。

 先に庭に出ると、そこには先日クアリアで買った動きやすい服に着替えたアイノがマイアと共に待っていた。


「おはよう、二人とも。朝からお疲れ様」


「おはようございます! 今日は宜しくお願いします!」


「おはよう、兄さん」


 答えるアイノの顔は少し上気していた。マイアと一緒に走り込んだ後、軽い素振りといったところだろうか。


「二人とも疲れたらすぐに言ってくれ。薬草も魔法もあるからな」


「はい! 頼りにしています!」


「兄さん、足手まといだと思うけれど……」


「気にすることはないよ。大したことではない」


 これから氷結山脈に向かって魔物狩りだ。一行の安全確保は俺の仕事になる。とはいえ、皇帝は帝国五剣、マイアは凄腕。同行するのも相応の者だろう。正直、心配なのはアイノだけだ。このくらいなら、負担でもなんでもない。


「昨日はよく眠れたようだな」


 妹の体調は一目でわかる俺だ。今日のアイノはいつも通り健康そのもの。日々の鍛錬のおかげか、長い眠りから目覚めた時よりも元気になっている。


「うん。皇帝陛下と一緒に夕食とかじゃなくて、良かった」


「これから先はわからないのが問題だな。けど、今日からトゥルーズも戻ってくるから少しは安心できるはずだ」


 皇帝がどの程度アイノのことを気に入るかわからないが、少なくとも狩りの間はずっと一緒だ。畏まった食事ではないにしても、アイノにとっては精神的な負担があるかもしれない。気を付けよう。


「ご安心ください。私は皇帝陛下と何度も食事をしていますが、一度も問題になったことはありません。だから、アイノさんも大丈夫です!」


 胸を張ってマイアが言う。一見粗雑なようだが、マイアは結構育ちがいい。マナーもしっかりしているので、この発言もどこまで信用していいものか。いや、頼もしい味方だと思おう。


「問題は、クレスト皇帝がアイノのなにに興味を持っているかなんだが……」


 そう懸念事項を口にしたところで、屋敷の入り口から五名ほどの集団が現れた。

 一番目立つのは小柄で皮鎧を身に纏った女性。

 魔物狩りの装備を身につけたクレスト皇帝は俺達を見つけると、明るく元気な声で言う。


「おはよう! 爽やかな朝ね! さっそく魔物狩りに行きましょ!」


 こうして、皇帝との日々がはじまった。

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