表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
引きこもり賢者、一念発起のスローライフ 聖竜の力でらくらく魔境開拓!  作者: みなかみしょう
第十五章『シスコンと皇帝来訪の冬』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

218/397

204.完璧な返答だった。サンドラが関わらなければ本当に能力の高いメイドだ。

 冬の聖竜領において、忙しい場所の一つは外部からの客の受け入れ口である、クアリア出張所だ。都市部でも自由な時間が増える時期は、来客も増えるというわけである。


「レール馬車ができていて良かった。これは揺れが少ないからアイノが酔う心配が少ない」


「私、馬車は殆ど乗ったこと無いけど酔ったことなんてないよ?」


「レールがなくても、クアリアまでの街道は綺麗に整備されているので揺れは少ないのだけれどね」


 クアリアで仕事をするサンドラに同乗している俺とアイノである。日用品の買い出しと、勉強も兼ねての良い出かける機会というわけだ。

 遠回しに気を使いすぎだとサンドラに言われた俺だが、特に気にせず話を続ける。


「これから向かうクアリアは聖竜領にとっての生命線だ。人と物資だけでなく、色々な面で協力し合っている。この冬は料理人が修行に出ているしな」


「トゥルーズさんね。聖竜様に色々と聞いてるわ」


 得意げに言ったアイノに、俺は目を見張った。色々……だと。


「興味深いわね。どんな話か聞いて良いかしら?」


 サンドラが話に乗ってきた。隣のリーラは黙っているが、明らかに会話に集中している。


「兄さんが泣いて喜ぶくらい料理の上手な人だって。聖竜様もお気に入りみたい」


「泣いて喜ぶか……そんなこともあったな」


「懐かしいわね。あの時はびっくりしたわ」


「兄さん、家事とか全然できないから。サンドラさん達が来てくれて良かったわ」


 サンドラ達の来る前の生活。今となっては遠い昔のように感じる。考えてみると、この地で過ごした大半の時間は殆ど野生みたいな生活をしてたんだが、安定すると記憶も薄れるものだ。


「実際、トゥルーズの料理は美味しいからな。楽しみにしていることは否定しない」


「アイノさんと入れ違いでクアリアに行ってしまったのが残念ね」


「会えば何か作ってくれるだろう。今から楽しみだな」

 

 そんな風に世間話をしているうちにクアリアが近づいてきた。昔は歩いて数日かかっていたのが嘘のようだ。

 俺の横ではサンドラとアイノがにこやかに話を続けている。屋敷にいるおかげか、大分打ち解けてきたようだ。


「屋敷の人は迷惑をかけていないかしら? なにかあったら言ってね」


「とんでもない。皆さん親切で。特に、リーラさんが凄いですね。美人だし、なんでもできるしで。憧れちゃいます」


 アイノの発言で車内の空気が一瞬凍った。


「…………」


 俺とサンドラは難しい顔で黙り込み、リーラは一瞬だけ体を震わせた。静かながら、感情表現が豊かだ。


「いや、アイノ……それはだな……」


 妹の誤解を解くべく、どうにか言葉を紡ごうと頭の中で必死に思考を巡らせる。


 リーラはサンドラに付き従う戦闘メイドだ。見た目に関しては間違いなく美女の部類、常に冷静沈着。家事と事務のどちらにおいても限りなく有能。その上戦闘も達人の域だ。


 ……まいったな。こうして並べると、隙が無い能力をしている。サンドラに対する過剰な愛情を目にしているとつい忘れてしまう、驚きの事実だ。


「二人ともどうしたの? 急に黙り込んで」


「いえ、リーラのことをそう言う人は珍しいから、ちょっと驚いて」


「そんなことないですよ。屋敷のメイドさん達の憧れの的なんですから、リーラさんは」


「そ、そうだったわね」


 聖竜領内のメイド達は全員メイド島とかいうよくわからないところ出身であり、リーラはそこでは伝説的な存在らしい。故にアイノの発言に間違いはない。


「…………」


「兄さん、どうしたの?」


 黙っている俺を見て、心配そうにアイノが顔を覗き込んできた。

 困った、率直な意見を言うと間違いなく怒られる。間違っても「リーラはサンドラ狂いでちょっと変態入っているからやめておけ」とか言ってはいけない。


「きっと嬉しいのでしょう。アルマス様は、私に似ているところがありますから」


 ずっと黙っていたリーラが、とんでもないことを言いだした。


「似ているって、どこがだ」


「もちろん、身内をとても大切にするところです」


 完璧な返答だった。サンドラが関わらなければ本当に能力の高いメイドだ。


「……そういうことに、しておこう」


 自分がリーラと似ている。その事実に戦慄し、変な汗が出るのを必死に抑えつつ、俺は何とか言葉を絞り出した。


「リーラはたしかに凄いけれど、クアリアにはお姫さまもいるのよ。それと、マルティナという戦闘メイドとその主人も貴族だし……」


 ちょっと落ち込んで黙り込む俺の横で、サンドラが話題を変えるべくクアリアの話を始めていた。


「アルマス様。気分が悪いようなら馬車を止めますが?」


「いや、このまま行ってくれ。できるだけ早く」


 俺を気遣うリーラの表情が、とても楽しそうに見えたのは気のせいではあるまい。

  

 早くクアリアについてくれ……。


 そんな願いを乗せて、レール馬車はいつも通りの速度で隣町に向かうのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。



新作はじめました。宜しくお願いします。

作品リンク→『一部イベント特効ゲーマーの行くVRMMO』



書籍化します。
2025年8月末発売予定です。

作品リンク→『生まれ変わった最強魔術師は普通の暮らしを求めます 』

おかげ様で第2巻が発売中です。
画像をクリックで出版社の紹介ページに飛んでいきます。
html> キャラ紹介
発売日を過ぎてOKが出たので2巻のキャラ紹介口絵です。
読むときの参考にして頂ければと思います。
書籍版、発売中です。宜しくお願い致します。
画像をクリックで出版社の紹介ページに飛んでいきます。
html>
キャラ紹介
書籍販売後はカラー口絵掲載OKとのことでしたので、登場人物紹介を一巻より。
読むときの参考にして頂ければと思います。


ツギクルバナー cont_access.php?citi_cont_id=758394018&s

小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ