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引きこもり賢者、一念発起のスローライフ 聖竜の力でらくらく魔境開拓!  作者: みなかみしょう
第十四章『北から来るものと例の件』

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183.俺達は、久しぶりの野営を楽しんでいた。

 聖竜領の西はクアリアを始めとする人間の住む地域。南は草原。東は断崖絶壁と海。

 そして北。そこにあるのはある意味この辺りで最後の魔境とも言える氷結山脈であり、そこを越えた先にドワーフ王国はある。


 距離としては大したことはない。過去にドーレスがふらふら歩きながらどうにか聖竜領に到達できたように、方角さえ間違えなければ数日だ。

 ただ、数百年人の往来がなかった土地であり、魔物がひしめく土地であり、険しい山地である。


 聖竜領にサンドラ達がやって来て三年と少し。遂にその地を抜ける時が来た。主に時間短縮のために。


 今回俺と一緒に行くのはサンドラ、リーラ、ディリン、マイアの四人だ。俺とマイアとリーラの三人でかなりの戦力になるとはいえ、人数が多いと守り切れないかもしれない。なので、一行の人数は少ない。

 目と鼻の先にありながら手出しできなかった氷結山脈に入るとあって、エルフのルゼなどは血の涙を流さんばかりの勢いで俺に苦情を言ってきたが我慢して貰った。

 短い期間とはいえ、聖竜領から決断できる責任者があまりに減るとまずい。特にエルフ達は人間相手の商売を初めたばかりなので若長の存在は必須だ。


 そんなわけで、出発の人員選びに多少の問題はあったものの、話をまとめた俺達は出発した。

 行き先は氷結山脈。久しぶりの旅らしい旅。サンドラなどは緊張した面持ちで一緒に歩き出した。

 彼女は戦えないし旅慣れているわけでもないから、残って欲しかったのだが、同行は譲らなかった。リーラがいるから何とかなると判断しての同行である。


 聖竜領の北側、エルフ村から出発して三日目。

 俺達は、久しぶりの野営を楽しんでいた。


「ううむ。まさかこれほどまでに順調な旅程になるとは思いませんでしたのう」


 焚き火の横に作った即席のかまどの上で湯を沸かしながら、ディリンが言う。ドワーフ王国の偉い人の割に、率先して野営作業をするなど変わった人物である。なんでも、こういう旅は久しぶりで楽しいらしい。


「少しくらい魔物との遭遇があると思ったんですが。まるで見かけませんね」


 焚き火に横に立って周囲を警戒していたマイアがそんなことを言う。


「聖竜様が言うには、恐い外敵が暴れたから魔物はもっと標高の高い所へ行ったようだ。それと、一応だが俺が一緒にいるからな」


 最近はすっかり普通の生活が染みついて忘れそうになるのだが、俺は竜だ。魔物や野生の獣など、感覚の鋭い生き物からすればとんでもない化け物に見える。よほどの事情がない限り近寄ってすら来ないだろう。


「殆ど人が足を踏み入れたことの無い氷結山脈。覚悟していたのだけれど、思ったよりも楽で良かったわ」


「土地に詳しい上に地形を動かし魔法で道を切り開ける方がおりますから」


「普通ならありえないくらいの僥倖ですね!」


「そうね。アルマスのおかげで聖竜領を長く離れずに済みそうなのは助かるわ」


 サンドラに続いてリーラとマイアが俺のことを褒めてくれたが、これができるからこそ提案した手法である。

 俺も氷結山脈の地形に詳しいわけじゃないが、行き先ははっきりしている。なので、聖竜様に手伝ってもらって地形を読み、できるだけなだらかな道を選んでいる。

 途中、越えにくい場所があったら地形操作の能力を少しだけ使ったり、聖竜領から持ち込んだ魔法陣で作ったゴーレムに作業をして貰って強引に進む。

 氷結山脈の山頂を目指すとかでなく、谷間を縫うように進んでドワーフ王国に向かうなら、何とかなるものだ。標高の高いところを通過しないで良いのも幸いした。


「この分だと、あと二日ほどでドワーフ王国に到着するな。だいたい五日ほどの道程か」


「早いのう。きっとドワーフ王も驚くことじゃろう」


「帰りはハリア殿を使うのですよね。楽しみです! ……はい。私は言ってはいけませんでした」


 嬉しそうに言うマイアに対して、ディリン以外の全員が鋭い視線を向けた。

 今回、ドワーフ王と無事に話がついたらハリアに飛んできてもらうことになっている。

 その際にいつもの輸送用の荷箱を乗れるように改造したものをぶら下げて貰って、俺達が乗り込む予定だ。

 できるだけ早く往復したいこと、どうせならハリアの現物に会ってみたいこと、それらの理由が合わさっての処置である。実現するかはわからないが。


「ハリアの輸送に人を乗せるのは俺がいる時のみにしよう。そうすれば安全は保証できる」


「聖竜領の特別な移動法ね。クロード様がどうにかして乗ろうとすると思うの」


「せっかくだから交渉材料にするとよろしかろう。あの第二副帝殿なら、乗るでしょうなぁ」


 クロードのことを知っているらしいディリンが楽しそうに言った。あの第二副帝のことだ、ドワーフ王国の重鎮と会ったときにも好奇心に任せて何かやったのだろう。


「俺達が通った道も、後で通れないようにしておこう。氷結山脈から聖竜領へは簡単に抜けられない方がいい。安全も保証できないしな」


「そうね。魔物がいるし。冬は雪に閉ざされるものね」


「それが宜しかろう。国境は容易に越えられない方が良い」


 ディリンがかまどで沸かしたお湯を自前の鉄瓶に注ぎながら言った。この旅の中、彼は疲労が取れるという自前の薬草茶に聖竜領の薬草をブレンドしたものを振る舞うのが定番だ。


「到着が現実的になってきたことだし、ついてからの相談をした方がいいかな」


「そうね。ディリン様、わたし達はドワーフ王国について詳しくありません。できれば色々と教えて欲しいのですが」


 知識が豊富なサンドラも、さすがにドワーフ王国を訪れたことはない。目の前に素晴らしい教師となれる人がいるなら頼るべきだ。友好的だし。


「うむ。ちょうどお茶も入ったことじゃし、着いてからのことも含めて、色々と話すとするかのう。なに、爺の国自慢と思ってくだされ」


 リーラの用意したカップに自前の薬草茶を注ぎながら、老ドワーフは自慢の故郷について俺達に語って聞かせるのだった。

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